東日本大震災が起こってから,ニュースで盛んに使われる言葉に,聞き慣れない言葉がいくつかあります。
まず,シーベルト。
手近にある新明解国語辞典第四版(1991年),集英社国語辞典第二版(2000年)には見当たらない。三省堂国語辞典第六版(2008年)にはありました。
シーベルト:放射線の照射による生物学的な影響を、放射線の種類によらずにあらわす量の単位。
建屋という言葉も聞き慣れない。漢字からして,建物の一種なんだろうという類推はつきます。これも,新明解(四),集英社(二)にはなく,三国(六)にだけある。
建屋:設備などを収容するたてもの。「原子炉-」
ちゃんと「原子炉建屋」という用例つき。
風評被害という言葉も,最近になってニュースに頻出します。「風評」はどの辞書にもある。
新明解(四)は,
風評:(よくない)うわさ
集英社(二)は,
風評:それとなく伝わってくる評判。世間のうわさ。「とかく-のある人」
そして三国(六)は,
風評:うわさ
と,「風評」の語釈はそっけないけれども,「風評被害」という熟語を立項している。
風評被害:根拠のはっきりしない情報が世間に流されることによって受ける被害。「農家が-を受ける」
三国,えらい!
この三つの小型国語辞書の収録語数はほぼ同じ。新明解と三国は約8万,集英社は百科項目(固有名詞)も取り入れているので,それより多く約9万5千。にもかかわらず,上のような違いが出たのは,1991年(新明解第四版,最新版は2005年に出た第六版),2000年(集英社第二版,第三版は未刊行),2008年(三国第六版)という刊行年度の違いもありますが,辞書の性格によるところも大きいのでしょう。
以前書いたことがあるけれど,新明解は日本語のかがみ(鑑)たろうとする志で編纂された辞書であり,新語の収録には保守的。俗語は「誤用」として排斥する傾向が強い。
それに対し,同じ三省堂から出ている三国は,旧「明解国語辞典」から袂を分かって飛び出した辞書で,変化する日本語を映し出すかがみ(鏡)たろうとし,用例収集に命を賭けている辞書です。
集英社国語辞典は,小型でありながら百科事典も兼ねようとしているのが最大の特徴。新語の収録にも積極的なはずだから,次の第三版では,三国第六版で採用された多くの新語を収録することでしょう。
私は1996年から2007年まで,韓国に住んでおり,帰国したとき耳慣れない日本語の単語が少なくなかった。たとえば,
就活:←就職活動
滑舌:〔放送・演劇などでの〕ことばの話し方。なめらかで,はっきりとしてわかりやすいことがのぞましい。「-があまい〔=よくない〕・-がいい」
噛む:〔←舌をかむ〕ことばがつかえたり,言いまちがえたりする。〔何度も-〕
真逆:〔俗〕まったくの逆。正反対。〔自分とは真逆の性格〕
ため:〔俗〕同じ力関係(の人)。おない年。「あいつとおれとは-だ・-を張る〔=張り合う〕」⇒:ためぐち・ためどし。
すべる:〔俗〕じょうだんなどが、受けずに終わる
やばい:すばらしい。むちゅうになりそうであぶない。「今度の新車は-」
これらの言葉は,私が日本を留守にしていた11年4カ月の間に生まれ,広まった単語・用法だと思われます。上記の語釈はすべて三国第六版のものです。つまり,三国第六版にはこれらの言葉が収録されているということですね。
そして,新明解第四版,集英社第二版には,これらの言葉が一つも載っていない。
いまはネットで使える国語辞典の全盛で,デジタル版は収録語数も多く,更新も楽なので,小型辞典は今後商業的に難しくなるかもしれませんが,個性ある国語辞典には末永く生き延びてほしいものです。
辞書の話~見坊豪紀①
辞書の話~見坊豪紀②
辞書の話~見坊豪紀③
三国と新明解
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