犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

大航海の謎

2010-01-29 23:20:15 | 言葉
 中国南部に起源をもち台湾から南下したポリネシア人は,大海原に乗り出し,4000年をかけて広大な太平洋に植民し尽くしました。

 移動手段は当然船。極めて高い航海技術をもっていたと思われます。

 前出のダイヤモンドは,新しいカヌーの発明が大きかったことを指摘しています。東南アジアの人々の伝統的な船は,丸太をくり抜いて作ったカヌー。しかしこれは非常に安定が悪い。川や湖ではいいけれど,波のある海では簡単にひっくりかえる。これに安定を与える技術が,腕木(アウトリガー)です。考古学的な証拠によれば,ポリネシア人がニューギニアに到達するころまでには,ダブル・アウトリガー・カヌーが発明されていたということです。これは,カヌーの両側に安定を保つための腕木をとりつけたもの。

 しかし,そんな簡単な船で,あの広い太平洋やインド洋(東南アジアからマダガスカルの場合)を渡り切れるものか。

 まず考えられるのは,人々が海流に乗って,あるいは風に吹かれて移動していったということ。

 しかし,南東アジアから太平洋にかけての一帯で支配的なのは,主として東からの気流(貿易風)と東からの海流なのだそうです。西から東への流れがないわけではなく,海流としては赤道反流というごく狭い流れがあり,気流としては赤道西風がある。しかし赤道反流は,年間,北緯数度のところにあって位置を変えず,赤道西風は,少なくともニューギニア以東の経度では南北10度程度の緯度の間を季節的に往復しているにすぎないから,漂流によってハワイ諸島,イースター島,ニュージーランドに到達する可能性はゼロ。

 となると,ポリネシア人たちは「漂流」によってではなく,「航海」によって移動したことになる。

 自然地理学者の鈴木秀夫は『気候の変化が言葉をかえた』(NHKブックス,1990年)の中で,おもしろい説を出していますのでご紹介します。

 ポリネシア人は,逆風だったからこそ東に進むことができたという説です。

 人間は,島や対岸が見えると渡ってみたくなるという性質があるようですが,島があるかどうかわからないところに出かけていくのには勇気がいる。確実に帰ってこられるという見込みがなければ怖くて行けない。風や海流があるからといって,調子に乗ってずんずん進んでいっても,陸地にたどりつけなければおしまいです。

 古代ポリネシア人の帆船を復元して実験したところ,この船は逆風に向かって70度の角度で進んで行けることがわかった。これで,東風が吹く地帯で東に進んでいけた理由がわかりました。

 ポリネシア人は,東のほうに島があるかどうかわからなかったけれど,とりあえず逆風の中を70度の角度でジグザグに進んでいき,島を見つけられなかったときは,安心して東風に乗って帰ってきたのだろう,ということです。

 そして,あの広い太平洋には,世界地図から受ける印象とは違って意外にたくさんの島があり,島の上にはときとして積雲が立つので,それで当たりをつけて,次々に島を発見していったのだろうというのです。

 ただ,ボルネオからマダガスカルへの海路については,この理論が通じない。

 オーストロネシア語が話す人々のマダガスカルへの入植は,考古学によれば,西暦500年ごろとのこと。それよりも前から,インドと東アフリカの間では,沿岸を海路で結んで盛んに交易が行われていたらしい。そして,インドとインドネシアの間でも海洋貿易が行われていた。そこから類推すれば,オーストロネシア人(?)は,この交易路を通じて,マダガスカルへの入植を果たしたのかもしれません。

 しかし,その交易路沿いには,オーストロネシア人特有の文化を示す遺物が残っていないらしいのです。

 そうなると,彼らは途中の島の少ないインド洋をそのまま突っ切ったことになるのですが,なぜこのような大航海が可能だったのかは謎です。

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