D(三女の夫、フィリピン人)は、昨年末から、自治体がやっている日本語教室に通っています。
「お父さん、今度、いっしょに行きませんか?」
昨年、私が日本語教育能力検定試験に合格したので、日本語教室で教えたらどうかというのです。
「おもしろそうだね。行ってみようかな」
各自治体の国際交流協会が主催している日本語教室で、地域に住む外国人にほぼ無料で日本語を教えています。先生はボランティアです。
飯能市の場合、週2回、別の先生が運営しています。
実は、妻がクモ膜下出血で倒れる前、土曜日の教室で日本語を教えていたことがありました。
土曜日はいろいろ予定もあるので、木曜日の夜のほうが都合がいい。
場所は福祉センターの会議室。
行ってみると、生徒と先生が三々五々集まってきていました。
生徒は国籍も年齢も日本語力もさまざま。
そういう生徒が相手ですから、一斉授業はできない。
それで、先生と生徒がほぼ一対一で教えます。
生徒の能力や希望に応じて、文法だったり、会話だったり、漢字練習だったり…。文法学習の場合、『みんなの日本語』を使っているようです。
責任者の先生は、本職の日本語教師。日本語学校でフルタイムで教えるかたわら、週一回、ボランティアで教えているそう。
先生は10人ぐらいいるんでしょうか。ただ、ボランティアなので、休んだりすることもある。
生徒のほうも、来たり来なかったり。
基本的に毎回同じペアで学習をしますが、どちらかが欠席の場合、臨機応変で即席のペアになることも。人数によっては、先生1人に生徒2~3人ということもあるようです。
生徒は年間の登録料として1000年払います。1か月に直すと85円。月4回なので、1回わずか20円ちょっと。まあ、皆勤した場合の話ですが。
私は初めてなので、見学のつもりで行ったのですが、この日は先生に欠席があり、足りない様子。
「さっそくですけど、お願いしていいですか」
「いいですけど…」(できるかな?)
私のペア相手は40代くらいの中国人女性でした。
「今日は、小説が読みたいんですけど、助けてもらえますか」
日本語はぺらぺらで、日本在住20年。日本語能力試験N1(いちばん上)にも合格しているそうです。
「何の小説を読みますか」
「これです。日本人の友だちに勧めてもらいました。あまり難しくなくておもしろいと言われて…」
彼女のスマホを見ると、東野圭吾『予知夢』
(!!!)
「いいですね。ちょうど私も東野圭吾を読んでいるところです」
『予知夢』というのは、いわゆる「ガリレオシリーズ」の短編集。近いうちに読んでみようと思っていた作品です。
冒頭から音読してもらいます。
屋敷の周りにはレンガ作りの高い塀が巡らされていたが、それを乗り越えるのは造作のないことだった。男は車で来ていた。家で使っている軽トラックだ。
「巡らされていたって、受け身?」
「そうですね。受け身です。もとの動詞は巡る…」
(巡るの受け身は巡られる? そんな日本語あったっけ? いや巡らすだ。巡らすは巡るの使役? いや他動詞形か)
いきなり説明につまりました。
「ようするに、『塀があった』っていうことです」
「造作のない、は?」
「簡単だ、という意味です」
「かるトラック…」
「けいトラックと読みます。軽自動車って聞いたことありませんか。小さい自動車」
「ああ、軽自動車は知ってます」
N1保持者なのに、けっこう難しがっています。
中国人の場合、漢字を知っているので、漢字から意味は類推できるけれども、読み方がわからなかったりする。
ふりがなを振っていない漢字かな交じり文を正しく読むのは難しいんですね。
牧田はコーヒーカップを傾けた。
「傾けたって、こぼしたってこと?」
「いやいや、飲んだっていうことです。飲むとき、カップが傾きますよね」
「ああそうか、ハハハ」
結局、1時間ほどで読めたのは、5ページ足らず。この短編作品は50ページありますから、このペースだと10回(10週間)かかる計算です。
見学だけのつもりが、思いがけず教えることになりました。とてもおもしろかったので、正式に先生として登録することにしようと思いました。
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