犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

コーヒー自販機の続き

2009-01-14 00:05:56 | 日々の暮らし(帰任以後、~2015.4)
 かつては10円ずつの価格差があった3種類の自販機コーヒー,「特選炭焼エスプレッソ」,「特選ホテルブレンド」,「特選コーヒー」

 あらためてこの商品名を考えてみると,なかなか面白い。名前を見るだけで,それぞれ10円の価格差を納得してしまうところが不思議です。

 上中下とか甲乙丙とか高級とか低級という直接的な表現を使わずに,質の上下を暗示しています。

 中ランクの「ホテルブレンド」というのが臭い。そこらの喫茶店のコーヒーじゃなく,「ホテル」のコーヒーなんだからね。ちょっと違うんだからね,という主張が感じられます。

 で,「ホテルコーヒー」といわず「ホテルブレンド」というところにも工夫が見られます。「ブレンド」とは,「混ぜた」という意味でしょうが,特別にホテル用に厳選された豆を組み合わせたかのような幻想を与えます。

 そして最高級の「炭焼エスプレッソ」。

 まず「炭焼」で焙煎方法に言及する。そこいらの「ガス焼き(?)」じゃないんだよ,「炭」なんだよ,「備長炭」なんだよ(とは書いてないが)。

 そしてエスプレッソ。エスプレッソが具体的に何を意味するか,実はよく知らないのですが,なんか濃そうな気がする。濃厚でコクのある高級コーヒーのようなイメージを勝手に描いてしまいます。

 実際のところ,「炭焼エスプレッソ」だけはちょっと味が違う。苦みが強いようです。「特選コーヒー」と「特選ホテルブレンド」は味の差がほとんどない。だからどっちでもよさそうなもんですが,自販機で自分の後ろに人が並んでいると,「特選コーヒー」は恥ずかしいので,「ホテル」以上のものを選ぶ。

 そして,3種類すべてに「特選」という修飾語がついている。その隣の50円のインスタントコーヒーとの格の差を,この2文字で表し,「特選コーヒー」を選ぶ人の後ろめたさを軽減してくれる効果があります。

 ところで,日本には伝統的に同じ料理を3ランクに分けるという手法があります。

 しかし決して「上中下」とはいわない。「松竹梅」などと言って,最低ランクを選んだ人の劣等感に配慮している。

 お寿司などの「特上,上,並」などというのもそのような配慮が感じられますね。「上,並,下」ではなく,「特上,上,並」。

 いちばん下を頼んだからと言って,なにも劣等感を感じる必要はありません。なにしろ,あなたはソバじゃなくて寿司を食べるんですから,それだけでも普通以上なのです,というメッセージがこめられている(いないか)。

 でも,「特上,上,並」も長らく使っていると,やはり「配慮」の効果が薄れ,「並」を頼むのは恥ずかしいというイメージが出てきちゃうのでしょうか,最近は「並」をなくして「特上,上」の2ランク構成という店も多いような気がします。

 そういえば,韓国には「松竹梅」のような,「質の3段階表示」という習慣はないみたいですね。

 同じメニューについて,「コッペギ」(大盛り)はあっても,「松竹梅」はない。たとえばサムゲタンだと,鶏が半分入った「半鶏湯」(量の違い),烏骨鶏を使った「オコルゲタン」(種類の違い)はありますが,同じサムゲタンの中での上下はない。

 わずかに日本料理の影響を受けた「日式」食堂で,フェトッパプに,ただの「フェトッパプ」と,後ろにカッコ付きの「特」をつけた,「フェトッパプ(トゥク)」を見たことがある程度です。

 見栄の文化が支配する韓国では,日本以上に「並」を選びにくい雰囲気があるからでしょうか。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コーヒー自販機 | トップ | 並の想い出 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日々の暮らし(帰任以後、~2015.4)」カテゴリの最新記事