犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

ヒト、この不思議なる動物⑧~キャッチボールをする

2010-05-07 23:13:36 | 文化人類学
 子どものころ,日本の多くの少年たちがそうだったように,私も野球少年でした。ときどき父とキャッチボールをしたことをなつかしく思い出します。

 自分が親になって,子どもとキャッチボールをしたいと思っても,あいにくうちは全員娘。残念ながらこれまでわが子とキャッチボールをする機会に恵まれませんでした。ところが,この4月に高校に進学した末娘が,部活でソフトボール部に入った。それで,もしかしたらキャッチボールができるかなあと淡い期待を抱いています。


 
ところで,この「ものを投げる」という能力は,ヒトに際立つ特徴らしい。中央大学の澤村選手は,5月4日,157キロという球速を記録しました(→リンク)。おそらくは人類の投擲能力の極致を示した事例でしょう。

 キャッチボールというのは最低二人がかかわり,球を投げ,それを捕らえることを繰り返します。このうち,捕らえるほうはヒト以外でもできないことはない。たとえばある種の犬は,人間が投げるボールやフリスビーを,口で上手に捕らえます。しかし,犬はそれを投げ返すことはできません。

 「ものを投げる」には,まず「ものを掴む」ことが必要。そうなると,ものをつかめる動物でなくてはものを投げることはできない。たとえばある種の鳥は,脚でものをつかむことができます。カラスはくるみをつかんで固い地面に落下させることにより殻を割り,中身を食べるそうですが,これは「投げる」というよりは「落とす」行為というべきでしょう。「投げる」は,重力に対して水平方向または重力に逆らって飛ばす行為。そのためには,ものをつかんで回し,遠心力を利用して勢いをつけて,適切なタイミングで放さなければならない。犬が口にくわえて振り回し,タイミングをみて放しても,飛ぶ距離はたかがしれています。ある程度遠くに飛ばすにはやはり,「手」の存在が不可欠であるように思えます。

 また「投げる」という行為は,たいていの場合,目標があります。何かに命中させようとして,あるいは誰かに受け取らせようとして投げるわけですね。その場合,目標との距離を測り,重力との合力を頭の中で計算しながら,どのような方向,どのような角度,どのような力の入れ具合で投げあげれば目標に届くかを予測しなければならない。このようなことは,相当な知能が必要に思います。

 ヒトにもっとも近い動物,チンパンジーは,このような知能を備えているらしい。

動物園のチンパンジーも将来に備える?
来園者に投げる石を準備 スウェーデン研究

【3月11日AFP】動物園で飼育されているチンパンジーが来園者に向かって投げる石をあらかじめ集めて貯蔵していることが観察されたことから、霊長類も人類と同様に将来に備えている可能性があるとする研究結果が、9日の科学誌『カレント・バイオロジー』で発表された。
 スウェーデン・ルンド大学のMathias Osvath氏は10年にわたり、同国の動物園で飼育されている雄のチンバンジー「サンティノ」を観察。サンティノは毎日、来園者が来る前に落ち着いた様子で石を集め、その後堀の向こう側の来園者たちに向かって石を投げていた。
 研究結果によると、飼育係がサンティノのおりに数百個の石が隠してあるのを発見したことから、チンパンジーの生態をより理解するためにおりを観察することにしたという。
 サンティノは、手持ちの「武器」に不満足な様子の時には硬い岩を打ち付けて円盤状に形を整えたこともあったという。
 今回観察されたサンティノの行動は、霊長類が非常に複雑な方法で将来について考えていることを示しているとOsvath氏は言う。また、非常に意識が発達しており、起こりうる出来事について現実のようにイメージして、人間が人生での過去の出来事を見直すのと同様の「精神世界」を持っている可能性もあると指摘した。(c)AFP 20090311日(→リンク

 さすがチンパンジー!

 ただこの例は,動物園という特殊な環境下で,マナーのなっていない来園者が絶えず自分にエサだとか石だとかを投げるのを目にしていたからこそ発現した行動かもしれません。野生状態のチンパンジーが,その生活の中でものを投げているのかどうかはよくわかりません。

 ヒトにおいても,この優れた投擲力は,まずは「武器」の使用に生かされたのだと思います。石または槍を投げることで,相手から距離を保ちつつ攻撃を加える。するどい爪や牙,嘴,角など,攻撃用に特化された器官をもたないヒトにとって,この「投擲力」は大きな攻撃手段であったと思われます。

 チンパンジーも,投げる能力だけみればキャッチボールができるかもしれませんが,やらないでしょうね。何がおもしろいのか理解できないでろうから。

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