犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

非文解率

2008-12-30 18:34:56 | 近現代史

 非文解率とは見慣れない言葉ですが,今まで非識字率,文盲率などと呼ばれていた概念のようです。

 これについて,朝鮮日報に二つの記事がありました。

 一つは,23記事

韓国人の「非文解率」は1.7%
 現在、韓国人成人の非文解率(以前の非識字率と似た概念)は1.7%で、先進国並みであることが分かった。これは、国立国語院(イ・サンギュ院長)が今年9月から11月まで行った基礎文解力(文解力=文を理解できる能力。リテラシー。以前は識字と概念が重なっていた)調査で明らかになった数字で、22日に発表された。同様の調査は、1970年に統計庁が最後に非識字率を把握したのが最後で、今回は38年ぶりに国レベルで実施されたものだ。
 国立国語院によると、今回の調査は、全国16市・道の19歳から79歳までの韓国人5212世帯、1万2000人を性別・年齢別・職業別にサンプル抽出した後、訪問・面接する方式で行われた。全人口で見ると、該当年齢のうち約62万人が文を理解できないことになる。韓国の非識字率は日本の植民地から開放された1945年に77.8%だったが、54年から58年までの全国識字運動を経て、66年に8.9%、70年には7.0%まで減少した。
 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の統計によると、2007年現在、15歳以上の成人の非文解率はトルコ11.3%、ブラジル9.5%、メキシコ7.6%、シンガポール5.6%、スペイン2.6%などとなっている。国立国語院関係者は、「現在の先進国の非文解率は平均2.3%なので、韓国は基礎文解力において、既に先進国並みであると見なすことができる」と述べた。
 今回の調査では、文解力は読書量が多いほど高い一方、テレビ視聴時間が長いほど低いことも分かった。韓国人の国語辞典所持率は83.4%だった。

 もう一つは翌24日の「萬物相」というコラム。

【萬物相】「非文解率1.7%」の韓国
 1929年7月、本紙は「知ることこそ力、学んでこそ生きていける」というスローガンを掲げ、「帰郷男女学生文字普及運動」を展開した。夏休みや冬休みを迎え、学校のある都会から出身地に帰省する学生らに対し、故郷の人々にハングルを教え伝えていくよう促すキャンペーンだった。同年から1932年までに3109人、34年には5078人の学生が参加した。この運動に先立ち、本紙は「文字普及班ハングル原本」という教材を数百万部作成し、学生たちに手渡した。東亜日報も31年、「ブナロード(ロシア語で“民衆の中へ”の意)運動」という識字運動を行った。
 当時、朝鮮の人々の90%がハングルを読めなかった。45年の光復(日本の植民地支配からの解放)時も非識字率は77.8%だった。選挙では、候補者の記号をハングルや数字ではなく棒の数で書き表し、区別しなければならないほどだった。それが、54年から58年まで、政府が大々的な「全国識字運動」を展開し、小学校教育が義務化されたことで、非識字率は66年に8.9%、70年には7%へと激減した。
 国立国語院が今年9月から11月までに実施した成人基礎文解力(文解力=文を理解できる能力。リテラシー。以前は識字と概念が重なっていた)の調査で、1.7%の人が文章の読み書きができない非文解者であることが分かった。なお、「文盲」という言葉が否定的で不快な印象を与えることから、現在は「非文解」と呼ばれている。この調査では、新聞記事・公共広告・テレビ番組表などについて四つの選択肢から正解を選ぶ形式の問題を25問解く。非文解者の割合は70代で20.2%、60代で4.6%、50代で0.7%だったが、40代以下ではほとんどいなかった。
 国連開発計画(UNDP)の調査によると、非文解率は先進国で1.4%、中進国で9.9%、発展途上国で39.2%だった。韓国はほぼ、先進国のレベルに達していることになる。だが、今回の調査で、一つ一つの文字や単語は読めるが、文章理解力がほとんどない「半文解者」の割合は5.3%もあった。文解者でも、長く難しい文章を理解し、直接文章で書かれていない内容でも推測できる人は35.1%にしかならない。まだ、理解度は不十分だということだ。
 非文解率が低い国が必ずしも先進国というわけではない。米国は英語の非文解率が5%、半文解率が8%だが、世界で最強の国だ。非文解率が0.2%のキューバのほうが、5.6%のシンガポールよりも先進国だと考える人はいない。ある国が発展途上国から脱するには、非文解率を下げなければならないが、先進国になるには、国民の知的レベルを上げなければならない。既に韓国は非文解率よりもノーベル賞受賞に神経を使うべき段階に入っているのだ。

二つの記事にいくつかの統計数値が出ています。

23日の記事では,

2008年 非文解率:1.7%(19歳~79歳)
1945年 非識字率:77.8%
1966年 非識字率:8.9%
1970年 非識字率:7.0%
先進国の非文解率:2.3%

24日の記事では,

1929~34年 ハングル非識字率 90%
先進国の非文解率:1.4%

 先進国の非文解率が不一致なのが不思議ですが,それはともかく,植民地時代から現代までの推移をまとめると,

1929~34年 ハングル非識字率 90%
1945年 非識字率:77.8%
1966年 非識字率:8.9%
1970年 非識字率:7.0%
2008年 非文解率:1.7%

 1930年頃から45年までの間は,朝鮮日報や東亜日報などのキャンペーンの成果で77.8%まで改善し,光復後の54~58年に行われた政府の大々的な「全国識字運動」と小学校教育の義務教育化によって,66年に8.9%へ激減したということになっています。

 このような統計数値はいい加減なことが多いので,検証が必要です。

 私が持っている森田芳夫『韓国における国語・国史教育』(1987、原書房)によれば、

1945年のハングル文盲率は78.0%

(文教部『文教月報』第49号、1959年11月掲載統計)

 これは,朝鮮日報の記事の77.8%とほぼ同じですね。

 しかし,1930年の統計は…

①かな、ハングルの読み書きができる人:6.8%
②かなのみの読み書きができる人:0.03%
③ハングルのみの読み書きができる人:15.4%
④かな、ハングルともに読み書きできない人:77.7%
(総督府、1930年朝鮮国勢調査)

となっており,ハングルの非識字率は77.7%(かなのみ読み書きできる0.03%は無視できる)。

 つまり,朝鮮日報や東亜日報の努力の結果,ハングルが読めるようになったのは,78.0-77.7=0.3%,もしくは77.8-77.7%=0.1%ということになります。

 二つの統計の対象の違い(たとえば年齢?)のせいかもしれませんが,1930年頃の非識字率が90%というのは,自分たちのキャンペーンの成果を強調するための誇張でしょう。

 ハングル非識字率が1930年と1945年でほとんど変わっていませんが,実際の非識字率(日本語も含めた)はだいぶ減ったのではないでしょうか。

 1930年代以降,初等教育の普及が進み,1942年には,学齢児童の54.4%(男75.5%,女33.1%)が就学。1946年からは「義務教育化」する計画でした。(日本の敗戦により実現せず)

 韓国としては,日本語など一日でも早く忘れるべき言葉であって,日本語の識字能力にまったく価値を認めなかったのでしょう。

 ただ,植民地下の朝鮮で,「朝鮮語」が少なくとも1938年までは必須科目,41年までは随意科目として教えられていたわけですから,1930年以降,小中学生を中心に,ハングル識字率も向上していたはずです。45年の調査対象の年齢がかなり高く設定されていたのかもしれません。

 なお,記事に
「54年から58年まで、政府が大々的な「全国識字運動」を展開し、小学校教育が義務化されたことで…」
とありますが,韓国の小学校の義務教育化は1959年です。

 日本が計画していた46年よりずいぶん遅れたのは,朝鮮戦争による国土荒廃が大きいでしょう。

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