<仇うち>
クリンたちは、こった川で落ち合って、作戦をたてた。
雀たちが、ワシの多摩王から仕入れてきた情報では、
「この秋口から、こった川周辺のあちこちで、小さな生き物がこつぜんと消えている」
とのことであり、そのうちいくつかの事件の前後に、風を切って走り去る何者かがいたらしい。
ただ、そのいずれの目撃情報も、その何者かの姿はとらえていないのだった。
クリンが発表したカメレオン説に、みんなは驚嘆し不安を口にしたが、
「ぐずぐずしててもはじまらない。やるしかないよ!」
と、その作戦を実行することで合意した。
クリンを先頭にミーちゃんが続いて、チュンチュン、チッチッ、チェッチェッ、チョッチョッ、の順番でこったの森の事件現場へと向かった。
辺りは、不気味なほど静まり返っていた。
すべての動物や昆虫、草木たちが、クリン一団の活躍を期待して、息を潜めて注目している。
「そこに隠れてるひきょうもの、出て来なさい!みんなの仇をうってやる。」
主将・クリンがかっこよく言った。
「いることは、わかってるんだミャー!」副将のミーちゃんもおたけびの声をあげた。
「チュンチュン、チッチッ、チェッチェッ、チョッチョッ!」
・・・・・・
・・・・・
・・・・
しかし、返事はなく、しばらく沈黙が続いた。
草木が風に揺れ、擦れ合う音が、ざわざわと聞こえる。
みんなの緊張が頂点に達したその時、
「・・俺は、森の神だ。
全ては、俺の思いのままだ。
見つける事など、出来るはずがない。」
低い声がこだました。
クリンたちは、身構えて声のする方を睨みつけた。
「怖くなんかないミャー。」
「もう見えてるもん!チュンチュン、チッチッ、チェッチェッ、チョッチョッ」
みんなは、敵を挑発し、相手に声を出させようと試みた。
クリンに見つけてもらう作戦だ。
「おまえたちのすぐ側にいるのが、見えないのか?」
クリンは声のする方へ歩を進めて、にじり寄った。そして、目を閉じた。
「ギャー!」
ミーちゃんが悲鳴をあげて跳び、クリンの後ろに逃げ込んだ。
「鼻が!鼻を叩かれたー!赤くとがった細く長いものでミャー。」
敵は、いかにもおかしそうに笑い声を上げた。
「アハハ、アハハ、アハハハ。」
クリンは、パッと目をあけると、お兄ちゃんから授かったスプレーを出して、
「わかったわ、ここだわ!」と言って吹き付けた。
すると、みるみるうちに
カメレオンの顔が浮かび上がってきた。
驚いたカメレオンは目をキョロキョロさせたが、その瞬間、猫のミーちゃんが攻撃を仕掛け、顔を爪で引っ掻いた。
続いてクリンも頭にキックした。
そして、雀たちもいっせいに体をつついたので、カメレオンはたまらず、ほうほうの体で森の外に逃げ出して行った。
「やったー!やったー!やっつけた~!!」
影を潜めていた森の仲間達も、つぎつぎに出てきて、クリンたちにかけより、万歳した。
「あいつ、顔が赤くなって、もう隠れられないにゃー。」
「もう安心。チュンチュン、チッチッ、チェッチェッ、チョッチョッ」
ミーちゃんや雀たちも、もみくちゃにされながら喜びあった。
こったの森に、ふたたび平和が訪れた。
クリンたちの功績は長く語り継がれることになりました。
(つづく)