閑猫堂

hima-neko-dou ときどきのお知らせと猫の話など

水玉模様の傘

2009-03-12 21:24:48 | 日々
もうずっと前から、玄関の片隅に古い傘が1本あった。
折りたたみではない大きめの長い傘だ。
紫に赤の水玉模様。
わたしが高校生のときに使っていた傘。

サイズもちょうど良く、色も好きだった。
感じのいい焦げ茶色の木製の柄がついていた。
あるとき、うっかり倒したはずみに、その柄が折れた。
曲がり目からぽっきり折れて、まっすぐな握りだけになった。

傘本体は壊れていないので、使って使えないこともないが、
ひっかけ部分がないのは不便だし、見栄えも良くない。
母が傘屋に持っていって、柄をつけ替えてきてくれた。

あの頃はまだそういうことができたのだ。
傘と下駄は同じ店で売っていて、下駄の鼻緒も、傘の柄も、
傷んだら取り替えて長く使うものだった。

戻ってきた傘には、竹を曲げた柄がついていた。
合うのが、これしかなかったのだという。
竹は薄黄色で、妙にてかてかと安っぽく、手触りも悪く、
なんだかオバサンの日傘の柄のようだ。
これなら折れたままのほうがましだった。
好きだった傘がいっぺんに嫌になった。

嫌になったのだけど、なぜか捨てずに持っていた。
その後に買った傘はどれもなくしたり壊れたりしたのに、
この赤い水玉の傘だけ、ずっとうちにあって、
二度の引越しにもついてきた。

先日、玄関の掃除をしたときに見つけて、
ああ、まだあったんだなあ、と手に取り、
ふと開いてみようとしたら、柄がぽろりと折れた。
竹だから中が空洞だ。
長くほうっておいた間にひび割れて腐食したらしい。

今はもう傘の修繕をしてくれる店などない。
これでいよいよ捨てるしかなくなったのだが、
ふと思い出したのが、数日前の新聞にのっていた
「傘の布を利用したバッグ」の作り方。
見れば布はじゅうぶんきれいで、穴もあいていない。
バッグ、作ろう。

説明どおりに、骨から布地をはずそうとして、驚いた。
骨も、布地も、縫いつけてある糸も、ものすごく丈夫なのだ。
最近の傘は骨が柔らかく、簡単に折れたり曲がったりしてしまう。
お気に入りになるほど長持ちすることはほとんどない。
おそらくこれは「修繕のきく傘」の時代の最後のもので、
このあとすぐ「安くて軽い傘」の時代に移っていったのだろう。

これまた古いミシンをひっぱり出し、赤い水玉の生地を縫う。
ばらばらにした三角の布を4枚はぎ合わせて袋ができ、
1枚を半分ずつにして持ち手もできた。
傘として、かれこれ30年以上、うちにいた水玉さんだ。
バッグになって、引き出しにしまえるようになったから、
あと20年くらいは、いるかもしれない。

レジ袋がわりにするにはちょっと小さめだけれど、
なにしろ傘だから水に強いことは保証つき。
さてさて、何を入れましょうか。
コメント
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