現行の医療過誤裁判では、そもそも『現実の医療の実際には全く無知である裁判官が裁く』というやり方自体に根本的な無理があることは誰の目にも明らかです。最近報道された判例を見ても、『判例の中での医療の常識が、現実の医療の中での常識とは全くかけ離れている』ような場合も少なくないと思われます。『紛争中の事例で実際に医療過誤があったのかどうか?』を学会などの第三者の専門医集団が判定する仕組みを取り入れる必要があると思います。
また、裁判は勝ち負けの世界で、医療過誤と判定して無理矢理にでも医療側敗訴としてしまわないことには患者を救済できないため、患者救済(弱者救済)という観点から(エビデンスとは関係なく)医療側敗訴となってしまう場合もあるのではないか?と考えられます。
上記の記事のように、『無過失補償制度』を産科医療に今後導入しようという動きがあります。この仕組みでは、患者が補償を受けるために医療側の過失の有無を証明する必要がないので、患者救済という観点からは望ましい一面があります。また、この新しい制度が導入されることにより、今後、不毛な産科医療訴訟をある程度は回避できるかもしれません。しかし、実際にこの制度を立ち上げようとする際には、誰が負担金を支払うのか?ということがまず大きな問題になると思います。
******毎日新聞ニュースより (2005-04-02)
医療事故時に、医療従事者の過失の有無にかかわらず患者や家族に金銭補償する「無過失補償制度」の導入を国に求める提言を、厚生労働省の研究班がまとめた。患者に加え、事故責任をめぐる訴訟の重圧から逃れられる医療従事者にも利点がある。医療ミス隠しも減ると期待され、再発防止策も立てやすくなるという。医師や患者の新たな金銭負担は必要だが、研究班は「訴訟が多く賠償額も高額な出産時の脳性まひなどだけでも試験的に始めるべきだ」と、早期の実現を求めている。
スウェーデンやフィンランドでは「無過失補償制度」が社会保障制度として確立している。英国では重い障害が起きた事故、仏では国立病院での医療事故を対象にこの制度が導入されている。
研究班は、これらの国の事例を検討した。その結果、患者側にも医療従事者にも大きなメリットがあるうえ、導入した国では医療事故も減少傾向にあると結論づけた。
一方、日本の医師や病院が加入する賠償保険は、訴訟などで医療従事者の過失が認定されるか、医療機関が示談に応じた場合しか患者側は補償を受けられない。だが、医療従事者の過失が明白なケースは1割ほどで、残りは解決が長引く傾向がある。
研究班は、医師不足が深刻な産科や小児科の問題点を探り、改善策を提言するため02年度に結成された。医学生へのアンケートでは、産科が敬遠される理由として、医療事故による訴訟の多発が挙がったため、「無過失補償制度」の国内への導入を検討した。
導入に必要な費用が課題となるが、脳性まひを対象にした研究班の試算では、支払額は年間約360億円と予想した。産科医が出産1件につき2万円の掛け金を負担し、年間の出産数(約110万件)から約220億円を工面し、残りを公的補助でまかなうことを提案している。事故の原因究明などに当たる独立機関の設置も盛り込んだ。
(以下略)
(以上、毎日新聞、2005-04-02より引用)