癒着胎盤の帝王切開中の出血量は、時にあっという間に10~20リットルとかになってしまい、半端な出血量ではありません。いくら術前に血液を準備していたとしても、通常の輸血準備量では全く足りないことも時にあり得るので、大量の輸血用血液を手術中にただちに用立てることがきるかどうか?が患者の生死を分ける非常に大きなポイントとなります。産科医にとっても麻酔科医にとっても非常に対応が難しい、救命困難な疾患です。医師個人の能力というよりも、病院の体制として対応可能かどうかの問題です。
今回話題となっている癒着胎盤の母体死亡事例で、手術中に母体死亡となってしまった一番の原因は、マンパワー不足と、輸血の対応の遅れ(大至急で血液をオーダーしても血液が病院に届くのに1時間以上を要したらしい)であったことは誰もが認めているところです。
妊娠したのに我が子を抱くこともできず亡くなられた患者様やそのご家族の皆様のご無念は筆舌に尽くしがたく、心よりご冥福をお祈り申し上げます。その思いは、全力を尽くしても患者様の命を救うことができなかった担当医だった先生が一番強く感じておられることと推察いたします。
報道等で今までに判明している事実から普通に推察されることは、今回逮捕されたK医師は、死亡した患者様と同様に、不備な医療システム(マンパワー不足、大量輸血に対応できない病院の体制)の『犠牲者』であり、決して、法を犯したり、医療ミスを犯してそれを隠蔽しようとした犯罪者ではないと考えられます。むしろ、その不備な医療システムのもとでの産科業務をK医師に命じ、その不備な医療システムを不備と知りながら放置し続けた行政や病院幹部にこそ非常に大きな責任があると考えられます。
K医師は、納得できるような理由が全く不明のまま、なぜか突然逮捕され、今も留置所に拘留され続けています。逮捕後にはこの事件に関するマスコミの続報は全くありません。現代の法治国家の中で、こんな理不尽なことが許されるのでしょうか?
一体全体、どうなっているのでしょうか?