いろいろな立場からの多数のご意見をいただき、誠にありがとうございます。気がついたら、非常に多くのコメントが登録されていて、正直びっくりしています。アクセス数も一晩で三千を軽く超えており、この問題に対する世間の関心の高さを痛感しています。
今回の事例についての詳細は、報道以上のことは全くわかりませんが、ここで共通認識としてはっきりとしておかなければならないことは、
一般論として、
・ 癒着胎盤の術前診断は不可能である。
・ 癒着胎盤は非常にまれで、普通の産婦人科医が一生で1回遭遇するかしないかくらいの頻度である。
・ 帝王切開をしてみたらたまたま癒着胎盤であった場合、大量輸血の準備もなく、麻酔科医も常駐していない病院で、産婦人科医1人だけでの対応であれば、誰が執刀していても母体死亡となる可能性が非常に高い。
癒着胎盤以外にも、羊水塞栓症や血栓性肺塞栓症、常位胎盤早期剥離など、予測不能で母体死亡となる確率の高い疾患は多くあり、産科診療を続ける限り、自分がいつそのような症例に遭遇するかは全く予測できません。今の状況のままで産科診療を続けていては、自分もいつ逮捕されてもおかしくないので、非常に身の危険を感じています。
私自身、現在勤務している病院で1人医長で孤軍奮闘していた時期も長くありましたし、自分の身の危険を感じるような危ない症例にも何回も遭遇してきました。私が今まで逮捕されずに過ごせてきたのは単に運がよかっただけで、明日にでも、必然的に逮捕されてしまうような症例に遭遇するかもしれません。
今後の方策として考えられることは、
・ 分娩リスクの周知徹底、すなわち、『お産は母児とも無事で当たり前』という世間一般の常識を根底から覆すこと。
・ 無過失補償制度の産科医療への早期導入。
・ 人員・設備の十分に整った周産期センターに分娩を集中させること(医師の集約化)。
現状のままでは、そう遠くない将来に、産婦人科医は本当に絶滅してしまうと思います。『自分の家の近くでお産ができないから何とかしろ』というような地域住民の署名活動は、個人的には、現状を理解してない全く問題外の活動だと感じてます。地域住民に分娩リスクについての知識を周知徹底させる必要があります。
この問題は、単に、一医師、一病院、一地域の問題ではなく、国策によって早急に対応すべき非常に重要な国家的問題です。