肩甲難産(Shoulder dystocia)とは、『児頭が娩出されたあと、通常の軽い牽引で肩甲が娩出されない状態』です。肩甲難産の予測は困難であり、現在のところ有効な予防対策はありません。
肩甲難産の母体合併症:弛緩出血、産道裂傷など。
肩甲難産の新生児に対する障害:上腕神経麻痺、鎖骨骨折、低酸素脳症、児死亡など。
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肩甲難産での推奨項目(ACOG Practice Bulletein, 2002)
レベルB
・ 肩甲難産は、どのような胎児が肩甲難産になるかを予測する適切な方法がないため予測したり予防することは困難である。
・ 巨大児分娩が推測されるすべての妊婦に対する分娩誘発や選択的帝王切開は推奨できない。
レベルC
・ 肩甲難産の既往がある場合は、推定体重、妊娠週数、母体の耐糖能、前回の肩甲難産の程度を考慮して、帝王切開の利益、不利益を患者と相談して分娩様式を決めるべきである。
・ 胎児が5,000g以上の推定体重の場合や糖尿病合併妊婦で4,500g以上が予測される場合は、予防的帝王切開が考慮されるかもしれない。
・ 肩甲難産の解除や合併症の減少に対してはどの方法が他の方法より優れているかエビデンスはない。しかし、第1選択としてはMcRoberts法が納得できる方法である。
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McRoberts法: 妊婦の両足を分娩台のステップからはずして大腿の前面を腹部に強く押し付ける。これと同時に恥骨上部を助手が圧迫し、恥骨の裏に陥入した肩を開放する方法である。
Woods法:術者は児の後在の肩の後ろに手を入れ肩を前方に180度回す。この操作により前在の肩が開放される。術者は後在の腕を手繰り、手を握って児の胸から顔をなでるような形で上腕を娩出させる。
糖尿病合併がない場合で児の体重が4,000g以上を選択的帝王切開した場合、1例の永続的な神経麻痺予防のため2,345例の帝王切開が必要と推測される。帝王切開での母体死亡を、10万に対して13.5とすると、3.2例の上腕神経麻痺を予防するため1例の母体死亡が予測される。従って、一般妊婦で巨大児出生が予測される場合の選択的帝王切開は推奨されない。(Dwightら、1996)
肩甲難産に対して従来からさまざまな対策が検討されてきましたが、現在のところ有効とされる予測法、予防法はなく、発症後のすみやかな対応の重要性が強調されています。
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肩甲難産発症の対応 (Cunninghamら、2001)
1) 人を呼ぶ。
2) おだやかな牽引を試みる。導尿を行う。
3) 会陰切開を広げる。
4) 軽く児の頭を牽引しながら、助手が恥骨上を圧迫する。
5) McRoberts法。
6) Woods法。
7) 後在の上腕の娩出。
8) 鎖骨骨折。上腕骨折、Zavanelli法(児頭を子宮内に戻し帝王切開を実施する)などを考慮する。
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参考文献:山口暁ら、肩甲難産、周産期医学(2006年1月、p 41~45)