ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

母体死亡事例の少し詳しい経緯

2006年02月25日 | 大野病院事件

*********** 私の主観

情報が真実であるとすれば、K医師は与えられた環境の中で最善を尽くし、実施すべき仕事はちゃんと普通に実施していたことになると思われます。癒着胎盤で予期せぬ大出血が始まったら、分娩場所がどこであれ、母体の救命は困難となります。マンパワーが充実し、かつ大量の輸血がいつでも可能な施設であれば、母体を救命できる確率は少し高くなりますが、それでも全例において母体を確実に救命できるという保証は全くありません。ましてや、産婦人科医一人だけの病院、血液のストックがなくて血液センターまで遠距離の病院、麻酔科医のいない病院などでは、母体の救命はきわめて困難と思われます。病院は決して医療の結果を保証することはできません。それぞれの病院の状況により、救命率に天と地ほどの大きな差が生じるのは当然です。自宅から遠くて通院に不便であってもより安全な病院を選ぶのか?、自宅近くの通院に便利な病院を選んで危険は十分に覚悟の上で分娩に臨むのか?は、妊婦さん自身がそれぞれの自己責任で選択することだと思います。

ネット上の情報: 後壁付着の前置胎盤で、妊娠36週の予定帝王切開だった。助手は外科医で、麻酔科専門医の管理下の手術(硬膜外麻酔+脊椎麻酔)であった。事前に濃厚赤血球5単位の準備がしてあった。子宮摘出の可能性も事前に説明してあった。手術中に大出血が始まり、事前に用意した輸血を使い果たし、新たに血液をオーダーしたが、その血液の到着に時間がかかりすぎた。手術中に全身麻酔に移行し、子宮摘出は完遂したが、結局は術中死となった。手術中の総出血量は約20,000mlで、手術中に濃厚赤血球25単位、新鮮凍結血漿15単位の輸血を行った。