ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

岩手日報:産婦人科医不足、安心して産める体制を

2006年05月12日 | 地域周産期医療

****** 岩手日報、5月11日

産婦人科医不足 安心して産める体制を

 産婦人科の医師不足解消は、もはや国をはじめ社会全体が腰を据えて早急に取り組まなければならない課題だ。安心して子どもを産み、育てることは少子化対策の基本だからだ。

 県内でも医師不足は深刻さを増している。県医師会の産婦人科医会(小林高会長)の会員数は、1995年は146人を数えたが、2005年は104人。10年間で42人も減った。

 県立遠野病院の産婦人科は01年4月から休診となり、現在も遠野市内で出産ができる医療機関はない。このため市は妊産婦の負担を少しでも軽減しようと、市民や里帰り出産で帰省した妊産婦に対し通院にかかる交通費の助成制度を開始。昨年度は185人に対し約316万円を助成した。

 県立病院の産婦人科休診はその後、江刺、高田、千厩と相次いでいる。こうした地域の妊産婦は医師を求めて盛岡市など遠隔地に出向いて健康診査を受けたり出産をしなければならない。経済面はもとより、精神的にもその負担は大変なはずだ。

悪循環招く過酷勤務

 花巻市では県立花巻厚生病院が04年4月から、総合花巻病院も昨年3月から産科医師の退職などで休診となり、開業医の死亡も重なって昨年10月から約半年間にわたって開業医1人だけの状態が続いた。

 幸い、総合花巻病院は今年4月から診療を再開。開業医も来月から診療を再開する見通しだが、人口約10万6000人の同地区で産婦人科医が1人というのはまさに異常事態だったと言うしかない。

 厚生労働省の04年度調査によると、本県の人口10万人当たりの産婦人科の医師は6・2人で全国平均の8・0人を下回り、全国最下位クラスにある。医師の数そのものと同時に広い県土や冬場の交通事情、医師の偏在なども地域での出産を厳しくしている要因となっている。

 全体的な医師数が増加する中で、産婦人科医が減少しているのは全国的な傾向だ。県産婦人科医会の小林会長は「産婦人科医は24時間拘束され、他の診療科に比べて訴訟リスクが圧倒的に高いなど、厳しい勤務実態にある」と語る。

 厳しい勤務が産婦人科医を志す医師の減少を招き、医師の減少が勤務を一層過酷なものにする悪循環だ。これをどこかで断ち切らなければならない。

期待担う助産師外来

 その一つが、全国の都道府県単位としては本県が最初となる助産師外来の取り組みだ。県医療局が策定した指針を基に「正常に経過している」などと医師が判断した場合には助産師が主体となって妊婦の健康診査や保健指導を行う。既に県立釜石、久慈、宮古の各病院に開設され、医師の負担軽減と同時に、時間をかけて相談に応じることができ、不安解消に役立つ-などの利点も指摘されている。

 一方で県は本年度から、女性医師対策としてベビーシッターのあっせんなど、育児で休んでいる女性医師の現場復帰を促す対策に乗り出した。

 厚労省は昨年末、地域の拠点病院に医師を集中させる「集約化」の検討を都道府県に通知した。現在の医師の負担軽減を図るうえでは理解ができるが、それは負担を軽くし産婦人科を志す医師の増加を促すためであってほしい。産婦人科の勤務医を待遇面で優遇するのも一つの考えだ。医療改革もさることながら地域の医師確保こそ、国策として取り組むべきだ。

小笠原裕(2006.5.11)