ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

朝日新聞 神奈川: どこで産むの?

2006年05月18日 | 地域周産期医療

****** 朝日新聞 神奈川、2006年5月17日
http://mytown.asahi.com/kanagawa/news.php?k_id=15000160605170002

どこで産むの?

県立足柄上病院 医師足らず「妊婦抽選」

  3月27日、松田町の県立足柄上病院で、妊婦抽選があった。

  地域の民生委員が箱の中に手を入れ、番号札を取り出す。選ばれるのは、5月から11月までのお産の予約を受け付ける妊婦だ。当選者は月ごとに10人。「妊婦検診をお受けできるようになりました」。職員は当選者に電話を入れた。

  静岡県と山梨県の県境にある足柄上郡の山北、中井、大井、松田、開成の5町と南足柄市の一帯で、お産ができる施設は足柄上病院だけだ。

        □    □

  3月には、この地域で84人の赤ちゃんの出生届が出された。病院は、抽選への応募人数は明らかにしていないが、同じ程度の出産があるとすれば、月に70人前後の妊婦が、ほかの地域で出産場所を探さなければならない。

        □    □

  常勤の4人の産婦人科医を派遣していた横浜市立大医学部が、3月で全員を引き揚げた。市大医学部の関連病院で、11人も退職者が相次いだ。新たに6人しか採用できず、付属病院の産婦人科のやり繰り自体が成り立たなくなった。足柄上病院は「せめて、何人かは残して欲しい」と頼んだが、市大医学部は「寄せ集め態勢では責任が持てない」。

  足柄上病院では以前、年間約650件のお産を扱っていた。医師がいなくなるのを見越し、病院は昨夏から今春まで予約の受け付けを休止した。

        □    □

  生後2カ月の赤ちゃんがいる横浜市の鈴木真美子さん(31)は、断られたひとりだ。実家の松田町でお産をしようとした。だが、足柄上病院を訪れると、医師は「近くの病院も予約でいっぱいなので、紹介もできない」。隣の秦野市の病院で出産したが、「子どもをつくる前に病院を予約しろ、とでもいうのでしょうか」と、いまも怒りは収まらない。

        □    □

  4月から、常勤医師1人をなんとか確保した。ほかに伊勢原市の東海大学医学部付属病院から非常勤で、昼間は2~3人、夜は1人を順繰りに派遣してもらい、当面はしのぐつもりだ。

  病院総務局長の渋谷賢一さんは「どんなことをしても医師を探せと地域の人からも言われるが、売り手市場ですごい給料を提示される」。

  「医大卒後10年目の医師で年収1500~1800万円」と常勤医師を公募しているが、応募はない。

横須賀市の妊婦 毎月50人前後が地元へ

  2015年には、県内の病院・診療所で04年に6万9862件あったお産の数が5万9475件しか扱えなくなる――

  県産科婦人科医会が県内のお産を扱う病院と診療所にアンケートし、今年1月に発表した将来予測だ。

  「1万人の出産場所が足りなくなる」という衝撃的な結果は、いまも病院関係者の間で引き合いにだされる。

  だが、調査を担当した、横浜市旭区で開業する小関聡医師は明かす。

  「約9割は、高齢化と後継者不在でお産をやめる診療所の数字。いま問題化している医師の突然の退職による病院の受け入れ休止や制限は、予測不能だからカウントされていない。事態はより深刻だ」

        □    □

  横須賀市の民間総合病院「衣笠病院」は04年10月から、お産を扱っていない。03年度は年間約650件で、市内の約5分の1のお産を扱ったが、4人の常勤医が1人に減り、お産はこなせないと判断した。

  しわ寄せは、他の病院に及ぶ。

        □    □

  この4月に横須賀市に引っ越してきたばかりの女性(25)は来月、里帰り出産のために北海道に帰る。横須賀で、お産場所を見つけられなかったためだ。

  自宅から一番近い病院は「予約でいっぱい」と断られ、市役所で教えてもらった病院は、もうお産を扱っていなかった。隣の三浦市の病院に、空きがあるとわかったときは、涙が出るほどうれしかった。

  でも、実際に車で通ってみると、道がこむと30分以上かかった。幼稚園に通い始めたばかりの上の子もいる。おなかが張ったと思っても、気軽に通院できる距離ではない。

  「都会と思って引っ越してきたのに、まさか産む場所がないとは思いもよらなかった」

  おなかの中の赤ちゃんは待ってはくれない。少なくとも毎月50人前後の横須賀の妊婦が、産む場所を求めて隣の横浜市や三浦市の病院に流れているとみられる。

        □    □

  病院数が比較的多い横浜市も例外ではない。

  中区や西区ではいま、11月のお産予定の妊婦が病院の予約を取れずにあぶれる異常事態が起きている。11月お産予定と言えば、妊娠4~5カ月の妊婦だ。

  中区の市立みなと赤十字病院と、西区のけいゆう病院と、いずれも拠点の病院で、申し込みがいっぱいになり、11月分の受け付けを締め切ったためだ。

  みなと赤十字病院は昨年、3人の常勤医のうち1人が辞め、昨年12月から一時受け入れを取りやめた。今年4月に再開したが、対応できるのは月40人まで。けいゆう病院も常勤7人のうち3人が辞め、昨年10月から3月まで、月100件の受け入れを最も少ないときで約40件に絞った。

  ある医師は「昔は外来に来た患者はすべて受け入れていたが、最近は、生理が遅れて1週か、2週かで病院に来ないと予約は埋まってしまう」。

  横浜市の医療安全課の相談窓口には、昨秋から、多いときで週に3、4回、「産む場所がない」という相談が寄せられている。

産婦人科医 36時間連続の激務も

   「今日も、きっと眠れないかな」

  横浜市の中核病院に勤務する20代の産婦人科医、大井由佳さんは、深夜の職場でつぶやいた。

  病院に勤務して2年目。午前8時45分から次の日の朝まで、医師2人での当直勤務だ。日中にすでに、帝王切開の手術を1件おこなった。

  午後11時半、入院中の早産の恐れのある妊娠6カ月の女性が出血した。おなかの中の子どもは双子で、まだ500グラムほどしかない。いま出産してしまうと、リスクが高い。子宮口が開き始めたため、子宮の収縮を抑える薬を投与した。心音モニターを注意深く見つめる。

  午前0時、1時半と再び出血が続き、2時45分、出産に向けた処置を始めた。

        □   □

  女性であることがメリットになる唯一の科と考え、産婦人科を選んだ。当直の3回に1回は一睡もできない。朝が来ても帰宅できることはまずない。次の日の夜まで36時間勤務になることもある。ゆっくりと食事を取る暇もない。

  事態が差し迫り、家族の了解を得ないまま、帝王切開に踏み切ったことがある。手術後の経過が少しでも悪いと、患者や家族から「何かミスがあったのではないか」と責められることは少なくない。

  それでも、大井さんは言う。「赤ちゃんが無事に生まれると、本当にうれしいし、やりがいがある」

  午前4時、早産の妊婦の出産が無事終わった。途中、ふつうのお産を2件こなした。4時50分、今度は自宅で突然、赤ちゃんが生まれてしまったという妊婦が救急車で搬送されてきた。

        □    □

  産婦人科医の雨宮清さん(60)は、約30年間勤めた横浜市西区のけいゆう病院を辞め、昨年12月、中区に個人で開業した。

  多いときには月に6回、当直勤務があった。夜は、病院からよく呼び出された。「いつまでも激務はこなせない。このままだと、自分が死んでしまう」と悩み、65歳の定年を前に病院を退職した。

  検診が中心で、お産は病院を紹介し、医院ではやらない。

  産婦人科医の過酷な勤務状況が、技術の低下を招いていないかと、雨宮さんは心配している。

  「昔は、若手医師は難しいお産の技術を実際のお産を通じてベテランから教えてもらう機会があった。でも、いまは若手であっても、すべて1人でお産を任されてしまう」

        □   □

  横浜市大医学部によると、今年春、県内の大学医学部の臨床研修を終えた新人医師は約700人いる。そのうち、産婦人科の希望者は9人。わずか1%だ。

  医師不足から、病院の産婦人科医の負担が増す→激務に耐えられず、産科から離れて専門分野を変えたり、個人で開業したりする医師が相次ぐ→残された医師の負担がさらに増し、病院の産婦人科医がもっと減る――

  そんな悪循環が加速している。

  <ご意見をお寄せください>

  赤ちゃんにとって受難の時代です。お産の場は減り、子育ての環境もまだまだ十分ではありません。どうすれば、赤ちゃんや親がハッピーになれるのか。この「赤ちゃん」企画で、そのことを探っていきたいと思います。メーン担当は、11カ月の男の子がいる赤木桃子記者と、医療担当の大貫聡子記者です。情報や、取り上げたいテーマ、ご意見をお寄せください。住所、氏名、電話番号を明記のうえ、〒231・8504 横浜市中区日本大通15 朝日新聞横浜総局「赤ちゃん」係へお願いします。FAX(045・641・9696)、メール(kanagawa@asahi.com)でも受け付けます。


朝日新聞 神奈川: 自治体 危機感薄く

2006年05月18日 | 地域周産期医療

****** 朝日新聞 神奈川、2006年5月17日

自治体 危機感薄く

 産婦人科医不足で、お産の場が急速に失われているという社会問題が、県内でも深刻になりつつある。県産科婦人科医会(八十島唯一会長)は、県内の病院・診療所に調査した結果、2015年に少なくとも約1万人の出産場所が失われるとして、行政に早急な対応策を求めている。しかし、大半の自治体は「一部の病院のこと」(横浜市)との認識で、対応は進んでいない。

(赤木桃子、大貫聡子)

 県産科婦人科医会は昨年7月に、県内の病院・診療所でお産を扱っている184施設に対し、今後のお産の扱い状況についてアンケートした。

 183施設から回答があった。04年時点で、病院では計4万3593件のお産実績があったが、15年に受け入れることができる件数は4万2358件に減少。04年時点で計2万6269件のお産があった診療所は、15年の受け入れが1万7117件に大幅に減ると推定されることがわかった。

施設も60減少

 お産ができる施設数も184施設が10年には138施設、15年には122施設に減る見通しだ。

 減少分を補うには、04年に725件のお産実績がある横浜市立市民病院(保土ケ谷区)規模の病院を15新設しなければならないと試算している。

 事態を重視した県産科婦人科医会は、「分娩(ぶんべん)を取り扱う施設の減少は数年前から東北地方を中心に顕在化し始めたが、ついには都市部にも広がりを見せ始めた」(八十島会長)として、「政府や自治体がこの実態を真摯(しんし)に受けとめ、早急な具体策の策定が望まれる」と結論づけた。

 県は、「実態がまだ何もわからない」(医療課)として4月に、県内のお産を扱う病院・診療所を対象に、お産の件数や常勤医・助産師の数、今後お産を扱う予定はあるか、について調査を始めた。

 横浜市は4月に、市内の227カ所の病院・診療所・助産院を対象に調査を実施した。その結果、03~05年のお産を扱う医師・助産師の人数は横ばいだったという。市医療政策課は「一時期に一部の病院に口コミで妊婦が殺到しているだけの現象ではないか」と説明する。

 川崎市は「先を見越した対応は必要だが、現状は市内で危機感がある状態ではない」(地域医療課)との認識だ。

 医師不足悩み

 市内の拠点病院のお産の休止によって、妊婦が市外で出産場所を探さなければならない事態に陥っている横須賀市は近く、医師会や助産師会のメンバーらとともに対応策を話し合う。これ以上医師が減らないようにする方策や、助産師の活用を検討する。

 ただ、「医師の絶対数が不足しているので悩ましい。行政も困っている」(保健所の担当者)と、確実な手だては見つけられていない。


朝日新聞 神奈川: 近所の医院も分娩受けず

2006年05月18日 | 地域周産期医療

個人経営の産婦人科医院が継承されるためには、以下のような条件を次々にクリアしていく必要があります。

①御子息が医学部受験を決意する。

②御子息が医学部受験を突破する。

③御子息が専門診療科として産婦人科を選ぶ。

④御子息が産婦人科研修を終えた後に産婦人科医院を継承する。

親と子は全く別の人格ですから、自分の子が将来どの分野に興味を持ち、何をやりたいと思うようになるのか?は全く予測できません。運よく親の期待通りに医学に興味を持ってくれて、無事に医学部合格を果たしてくれたとしても、医学部卒業後に将来の専門として何科を選ぶのかは全く予測できません。運よく親の期待通りに産婦人科を選んでくれたとしても、産婦人科の研修を終え、学位や専門医を取得した後に、故郷に戻って来て親の経営する医院を継承してくれるかどうか?は全くわかりません。誰でも自分の人生は自分で切り開いて新しい分野を開拓していく必要があります。子どもも大学受験くらいまでは親の意見に多少は耳を傾けてくれるかもしれませんが、成人後の人生行路がどう展開していくのか?は誰にも予測できません。

****** 朝日新聞 神奈川、2006年5月18日

近所の医院も分娩受けず

 近所の産婦人科の医院が消えつつある――。県産科婦人科医会の調査では、県内のお産の約3分の1に当たる2万6269件(04年)を、96ある診療所が担っている。だが、4年後の2010年には、そのうち32の診療所がお産の受け入れをやめると回答している。医師の高齢化と、後継者不足が主な原因だ。

(大貫聡子)

  横浜市西区にある浜野産婦人科医院は、終戦直後の47年から、地域の人たちのお産の場になってきた。ところが、4代目に当たる浜野聡さん(39)は、父親の穆(きよし)さん(67)から診療を継いだ2年前、お産を引き受けないことを決めた。

  「収入は大きく減ると思いましたが、帝王切開をするのにも最低2人の医師が必要です。患者さんは大きな病院と同じ質を要求してきます。麻酔科医も小児科医もいないのに、切迫早産などリスクの高いお産の安全管理をするのは難しい」

  浜野医院を継ぐまで日本大学医学部の大学病院にいた聡さんは、こう話す。

  働いてきた助産師から「続けましょうよ」と泣きつかれたが、いまの診療は、お産までの検診や不妊治療が中心だ。お産は、病院を紹介している。

  父の穆さんもじつは以前、お産をやめようと思ったときがある。でも、近所を散歩中、小学生の男の子が「僕、ここで生まれたんだよね」と母親と話しているのを聞き、考えを改めた。ベッドの数を50床から16床に減らし、そのままお産は続けた。

  「親子2代でお産を診ている人もいる。地域の人から『やめないで』とも言われた。私自身、産科医はお産こそが喜びだといまも思っている。でも……」

  穆さんは、生後間もない赤ちゃんが死亡したのは病院の責任と、両親から訴訟を起こされたことがある。最高裁まで争い、過失は認められなかったが、「本当にがっくりきた」。

  聡さんの説得は断念した。

  横浜市金沢区にある池川クリニックには、助産師が24時間常駐し、月に10~15件のお産をしている。陣痛促進剤は使わず、助産師によるお産だ。産婦人科医の池川明さん(51)はお産に立ち会うが、心音モニターをチェックし、異常がないかを監視する役割だ。手術の必要があると判断したときは、提携している病院に妊婦を搬送する。

  「ほとんどのお産は、助産師だけでおこなえる。助産師をもっと育てれば、医師の負担も減り、医師不足のなかでも希望が見えてくるのではないか」

  だが、そう話す池川さんも、5年後にお産の受け入れを続けていられるかどうか、悩むときがある。

  福島の県立病院で2年前、帝王切開による妊婦の失血死があり、担当した医師が今年2月、業務上過失致死と医師法の違反容疑で逮捕された事件があった。産科の常勤医は、この医師1人だけの病院だった。池川さんには衝撃だった。「『開業医はほとんどが1人勤務。1人ではお産をやっちゃいけない』と言われたように感じましたね」

  産婦人科医の仲間で集まるとき、口々にこんな嘆きが入る。「自分はなんとかがんばるが、子どもに『産科は良いからお前もやれ』とは言えない」

(朝日新聞 神奈川、2006年5月18日)


読売新聞:大野病院の妊婦死亡 「公判前整理手続き」適用

2006年05月18日 | 報道記事

****** 読売新聞、2006年5月18日

大野病院の妊婦死亡 「公判前整理手続き」適用

妊婦死亡被告側「全面的に争う」

 県立大野病院(大熊町)で一昨年12月、帝王切開の手術中に女性(当時29歳)が失血死した医療事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われている同町下野上、同病院の産婦人科医加藤克彦被告(38)の公判に、審理を迅速化するため争点を事前に絞り込む「公判前整理手続き」が適用されることになった。福島地裁と福島地検、加藤被告の弁護団が17日、同地裁で協議を行い決めた。

 検察側は6月9日に公判で立証する内容を示す「証明予定事実記載書」を、弁護側はこれに対する意見書を7月7日に提出する。7月中に行われる第1回公判前整理手続きを経て、9月にも初公判が開かれる見通し。

 この事件に関して加藤被告の主任弁護人を務める平岩敬一弁護士(日本産科婦人科学会顧問弁護士、横浜弁護士会所属)は、読売新聞の取材に応じ「今まで医師の医療行為に基づく刑事事件では、薬剤の誤投薬など明白な過失があったが、今回はそうではない」とした上で、「全面的に争う」と明言した。

 公判では「胎盤を子宮からはがそうとした行為における過失の有無」「大量出血の予見性」「女性の死亡が医師法上の異状死に当たるかどうか」の3点が主な争点となるとみられている。

 検察側は起訴状などで「被告は胎盤が子宮に癒着しているのを認識し、胎盤のはく離を続ければ大量出血することを予見しながら、子宮を摘出して大量出血を回避する措置を取らず、胎盤を無理にはがして大量出血を引き起こした」と主張。

 これに対して平岩弁護士は「胎盤の癒着がわかった時、子宮摘出に移るか、胎盤のはく離を続けるかは、現場の医師の判断。むしろ裁量の問題だ」と述べ、「今回の行為が過失となると、そういう医療行為ができなくなる」と指摘。また、大量出血の予見可能性について「胎盤をはがした直後の出血量はそれほど異常ではない。その後に多量出血したが、それが予見できたとは言えない」と主張した。

 さらに「異状死」の定義について、検察側は「異状死は変死体よりも概念が広い。女性は大量出血して死亡しており、異状死と認定できる」とするが、平岩弁護士は「異状死の判断を誰がするのか。加藤医師は異状死だと思っていない」と反論。その上で「今回は院長に報告し、その判断で警察に届けていないのだから、それで刑事責任を問われるのはおかしい」と語っている。

(2006年5月18日  読売新聞)

全国保険医団体連合会:福島県立大野病院の医療事故に関わる要望書

2006年05月18日 | 大野病院事件

http://hodanren.doc-net.or.jp/news/teigen/060515oono.html

                                                             2006年5月15日

厚生労働大臣
 川崎二郎殿

                                                     全国保険医団体連合会
                                                                会長 住江憲勇

 福島県立大野病院の医療事故に関わる要望書

 貴職の日頃のご活躍に敬意を表します。

 さて、福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開した女性が死亡した医療事故で、執刀した産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反で逮捕、起訴された事件については、多くの医療関係者が、人権侵害ともいえる不当な逮捕に抗議する声明を発表しております。

 今回の医療事故は、マスコミでも報道されているように、深刻な産婦人科医不足や県立病院全体の医療安全体制の問題に深く根差しており、一産婦人科医の責任に矮小化することは許されません。また、逮捕の理由となった医師法違反についても、「異状死」の定義は、日本法医学会や各学会等で独自に定めるなど極めて不明確で、今回の医療事故による死亡が「異状死」かどうか医療界でも判断が分かれています。

 さらに、厚労省は、医師への聴取やカルテなどの提出、医療機関への立ち入りを任意から強制に切り替える医師法「改正」を強行しようとしていますが、行政処分の強化による医療事故の再発防止策は本末転倒と言わざるを得ません。

 医療事故の対応の基本は被害者救済と再発防止です。医療の質と安全性を確保し医療過誤事件における被害を速やかに救済するために、中立的な専門家等で構成される第三者機関の設立など下記事項の実現を要望致します。

1.医療事故を取り扱う公正中立な第三者機関を設置すること。

2.医療事故による死亡については、第三者機関に届け出る仕組みを整備すること。

3、被害者の迅速な救済のため、無過失補償制度の導入を検討すること。

4.産婦人科医、小児科医の過酷な労働条件を改善すること。