ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

NHKの取材の様子について

2006年05月19日 | 飯田下伊那地域の産科問題

今日は、1日、NHKの取材チームの方たちとお付き合いしました。

当科の助産師外来の様子、医師の産科外来の様子、小児科医の新生児の診察風景、分娩の様子(フリースタイル分娩、カンガルーケア、夫の臍帯切断)、インタビューなどなど、非常に盛りだくさんの撮影でした。それほど激務ではなくて、比較的余裕をもって働いている日常の病院の様子を撮影して行ってくれました。

また、インタビューではいろいろ聞かれましたが、最後の質問とそれに対する私の受け答えは以下のような感じでした。

ディレクター:「産婦人科医不足の原因は何だと考えますか?」

私:「産婦人科医の勤務状況が非常に激務となっており、現役で活躍している産婦人科医達も激務に耐えられずどんどん辞めているし、新人もなかなか入って来ない。常勤医の数を10人くらいまで増やすことができれば、勤務状況が改善し医師の生活の質も向上すると思う。また、どんなに安全対策を完璧にしても脳性麻痺、死産、母体死亡などは決してゼロにはできない。訴訟が多いことも産婦人科医が減っている原因なので、無過失補償制度などを整備することも大切だと思う。産婦人科診療自体は非常にやりがいのある仕事なので、以上のような問題がクリアーできれば、将来的には産婦人科医は増えてゆくと思う。」

もしかしたら、編集でこの受け答えの部分はカットされるかもしれませんが、この問題については番組の中で必ず取り上げてくれると言ってました。どのような番組になるのかは全くわかりませんが、担当のディレクターは、産科医療の現状についてよく勉強してらっしゃいましたので、きっとそんなにひどい番組にはならないと思います。


産婦人科選んだ研修医、3年で半減

2006年05月19日 | 地域周産期医療

最近、産婦人科医不足を特集した報道番組がよく放映されています。

放映されている産婦人科医の生活は、涙なしでは見ていられません。食事を摂る暇もなく朝から晩まで外来診療をして、予定手術は外来が終了してから夜の9時から開始!、手術が終わって、そのまま完全に徹夜で朝まで働き、次の日の外来診療が始まる。その外来診療が終わるのが夜で、そのまま休憩なしで帝王切開をする....なんていうような無茶な産婦人科医の生活ぶりが夕方のゴールデンタイムによく放映されています。

確かに非常にインパクトの大きい番組になるんだろうけれど、あんな極端な激務の映像を繰り返し流されたら、産婦人科入局を考えている研修医達が二の足を踏んでしまうのではないか?と心配になってしまいます。

以前、我々の病院にも全国放送のNHKのカメラが入り、1日がかりで取材をして行きました。当科の場合、地域の分娩や手術が集中して扱う症例数は非常に増えたことは間違いないですが、地域連携などの対応が比較的うまくいっているし、産婦人科のスタッフも増員されたので、外来の待合室は以前と比べてそんなには混雑してないし、放映されている他の病院の産婦人科ほどには激務にもなっていません。その時取材に来たNHKのディレクターは、「テレビの番組ではビジュアル的にインパクトがあるかどうかが非常に大切な要素なのに、これほど見た目に落ち着いていると、インパクトのある番組が作れない。」と言って嘆いてました。結局、その時も、超激務で疲弊しきった他の病院の様子が長く放映されて、我々の病院の様子を取材した映像は編集段階でほとんどカットされてました。

ビジュアル的にインパクトのある産婦人科医の激務ぶりを放映するのも大切かもしれないけれど、今後は、産科医療の存続をめざした地域連携や助産師外来などの明るい未来に向けた取り組みもしっかりと取材して行って欲しいと思っています。

実は、今日、NHKの他の取材チームがまた当院に取材目的でやって来て、1日がかりで当科の診療の様子を撮影することになってます。地域連携や助産師外来などの我々の取り組みを取材してくれる予定のようです。取材にはきちんと協力したいと思っています。

****** 朝日新聞 関西、2006年5月16日

産婦人科選んだ研修医、3年で半減 「生活の質も大事」

 新人医師たちが出産の場を敬遠している。近畿12大学の医学部産婦人科医局に入った研修医が3年前に比べて半減していることが、朝日新聞の調べでわかった。04年度から始まった新たな臨床研修制度で、ほかの診療科も回ってから専門の入局先を選ぶようになり、小児科や脳外科と同様、産婦人科の人気のなさが際立った形だ。

(中略)

 日本産科婦人科学会の2月の調査では今年度、産婦人科に進む予定の医師は研修先の大学と一般病院合わせて約300人だった。研修医が診療科を見比べて専門を選べる新研修制度が導入される前の03年度までは350~360人。産婦人科を目指す若手が1割以上減った計算になる。

 中でも大学の医局は深刻だ。近畿2府4県の計12大学の産婦人科医局に朝日新聞が問い合わせたところ、03年度に計60人いた入局者が、今年度は29人に激減していた。

 大阪府内にある大学の教授は「大学卒業時には希望者が7人いたが、実際に入ったのは2人。外科や内科に『そうめん流し』のように持っていかれた」。入局者がゼロだった大学の医局長は「勤務がきつい産婦人科は不利だ」と嘆く。

 特に男性の産科離れが目立っており、29人中わずか5人。村田雄二・前大阪大教授が03年度に行った医学生の全国調査でも「産婦人科が志望の選択肢にある」と答えた女性は57%だったのに、男性は19%にとどまった。大阪大病院の男性研修医(26)は「過労や訴訟などネガティブな印象が強い。自分のQOL(生活の質)も大事だから」と言い切る。

(以下略)

(朝日新聞 関西、2006年5月16日)