****** 神戸新聞、2006年5月16日
分娩医療休止へ 市立加西病院
加西市立加西病院(山邊裕院長)が六月から、産婦人科の入院患者の受け入れと分(ぶん)娩(べん)医療を休止することが、十五日までに決まった。現在の医師二人が他の病院へ移り、後任のめどは立っていないため。市内に産婦人科医療施設はなく、市連合婦人会(板井ちさ代会長)は「市内で唯一子どもが産める場所をなくさないで」と署名活動を始めた。(末永陽子)
同科ではこれまで、神戸大から派遣された医師二人が診察に当たっていたが、五月末で他の医院へ移ることが決定。市と病院側は、大学に後任医師の派遣を強く求めているが、現時点では見通しは立っていない。婦人科系の診察は今後、非常勤医師が週一回の回診で対応する方針だが、出産については事実上の休診となる。病院は現在の患者らに直接伝達し、市の広報紙を通じても市民に通知。出産を控えた患者らには、近隣の病院への転院などを勧めている。ホームページ上などでも医者を募集し、分娩医療の再開を目指すという。
事態を受けて、市連合婦人会は今月から、これまでの診療体制の継続を求める署名活動を開始。市内の商業施設などで署名を呼び掛け、月内にも中川暢三市長に提出する計画。板井会長(66)は「婦人科系には多様な病気があり、妊婦だけが患者ではない。遠方に行くのは体力的に大変だから、と署名する高齢者も多い」と話す。
山邊院長は「訴訟件数の多い産婦人科を選ぶ専門医は少ない。さらに、臨床研修制度の変更で、一万五千人の医者が二年間は勤務医をすることができず、婦人科医不足は全国的な問題になっている。引き続き医師の派遣を求めていくので、理解してほしい」と説明している。
利用者増に水さす
分娩医療を休止することが決まった市立加西病院の産婦人科は二〇〇四年、「選ばれる産婦人科」を目指して、出産患者を対象にアンケートを実施。結果を基に、アロマセラピー(芳香療法)や週に一度のディナー入院食を実施するなどして、利用増を図ってきた。
〇五年度の患者数は前年度比百二人増の七千百五十人(一日平均二十九人)に上るなど、患者数は増加傾向をみせていただけに、利用者らからは「市内での評判も良くなっていたのに…」と嘆く声が上がっている。
東・北播磨地域では、公立病院の産婦人科医不足が深刻化。現在、社総合(加東市)、三木市民が分娩医療を休止しており、小野市民は昨年五月末で科を閉鎖。高砂市民も六月から休診を決めている。
ただ、他の市と違って加西市内には個人の産婦人科医院がないため、女性たちは唯一の出産の場所を失うことになる。署名をした市内の主婦(33)は「どんなに近い病院でも車で三十分はかかる。車中出産の可能性などを考えると、加西では子どもを産めなくなる」と不安げに話していた。
(神戸新聞、2006年5月16日)
****** 神戸新聞、2006年2月8日
産婦人科の入院休止 西宮市立中央病院
西宮市林田町の市立中央病院は七日、産婦人科の入院患者の受け入れと手術を四月以降、当面の間休止すると発表した。常勤医師三人が全員、本年度末で退職するため。市は「外来診療は従来通り続ける」としているが、現時点で確保しているのは非常勤の医師一人。診療時間の短縮など影響は必至だ。
同病院によると、産婦人科の患者数は、一日当たり外来が四十数人、入院が十数人。
常勤医はいずれも兵庫医科大学(同市武庫川町)から派遣されているが、本年度末で同病院を退職し、同大の付属病院に戻る。現在入院している患者は今後、兵庫医大などに転院してもらう。
二〇〇四年の臨床研修制度の導入に伴い、大学卒後、併設の付属病院ではなく外部で経験を積む新人医師が増え、全国の大学病院で医師不足の傾向がみられる。兵庫医大でも派遣している医師の呼び戻しを決め、新規派遣も見送っている。
市は兵庫医大に新たな医師の派遣を要請しているが、前向きな返事は得られていない。中央病院管理部は「現在の外来診療が持続できるよう、何とか医師を確保したい」としている。
同病院では、同様の理由などで耳鼻咽喉科が〇五年三月から休診している。
(西井由比子)
(神戸新聞、2006年2月8日)
****** 神戸新聞、2006年5月17日
産婦人科が大変なことになっている。医師の数が減り、地元で出産できない事態が各地で相次いでいるのだ。
きのうの本紙北播版は、市立加西病院が六月から分(ぶん)娩(べん)医療を休む、と伝える。医師不足のためだが、市内には産婦人科の医療施設がほかにない。淡路版でも数日前、産婦人科病院や診療所がない淡路市の女性が明石などへ通う実情を報告していた。
ことは特定の地域に限らない。本紙の地域版をめくるだけでも、小野、三木、高砂などの公立病院で産婦人科や産科が次々と看板を下ろしている。大都市圏も例外ではなく、西宮の市立中央病院が三月で分娩への対応をやめた。いったい産婦人科になにが起きたのか。
医師の総数は増えたのに産婦人科医は減ってきた。不規則勤務や医療訴訟の多さが背景にあるようだ。これが理由の一つ。もう一つは若手医師の研修制度が変わり、大学の医局が人手不足になったこと。仕方なく関連病院の医師を引き揚げている。
こうした要因が複雑に絡まりあっての現象である。小児科、麻酔科の医師不足と同様、構造的な問題といってもいいだろう。九〇年代に入り、地域の助産院や自宅での出産の魅力が見直されてきたとはいえ、数の上では病院・診療所を頼りにする人が圧倒的に多いから、及ぼす影響は大きい。
きのうの新聞の一面には政府の少子化対策が載った。出産・子育ての費用負担を軽減するのも大事だが、安心して地元で出産できる医療体制がなくて、なにが少子化対策か。「お産格差」の解消にもっと知恵を。
(神戸新聞、2006年5月17日)