番組を見た私の感想(10月9日追記)
地域のお母様方の熱い思いが伝わってくる力作だったと思います。
飯田下伊那地域内でも、例えば、根羽村、阿南町、天龍村、飯田市南信濃、飯田市上村などでは、自宅から飯田市立病院まで車で1時間以上かかってしまう交通の便の悪い地区も非常に多いです。これらの地域の妊婦さんでは、自宅から病院に向かう間の車中分娩などの危険もありますので、陣痛が発来したらなるべく早く自宅を出発するようにお願いしてます。場合によっては、分娩予定日が近くなったら病院の近くの宿泊施設で待機していただいた方が安全かもしれません。
その点で、松川~飯田間は高速道路で約15分程度と交通の便は非常にいいですので、下伊那赤十字病院周辺の地域の妊婦さん達の多くが、以前より飯田市内の病院・診療所などでもお産をされていました。
この飯田下伊那地域では、昨年までは6つの分娩施設の中から、自由に自分好みの分娩場所を選択できましたが、現在では選択肢は半減してしまいました。しかし、首都圏、近畿圏、中部圏などの大都市圏ですら、分娩予定日近くになってもどこにも分娩場所を確保できないお産難民が急増している中、この地域では分娩場所の選択の余地がまだいくつかあって、全国的にみればかなり恵まれた地域だと思いました。
今は何とかなっているにしても、この地域の産婦人科医達もだんだん高齢化しているので、今のところ一見まだ元気そうにも見えますが、ここ何年かのうちには私を含めてみんな次々に引退の日を迎えることになってしまいます。そろそろ真剣に次世代の育成を考えなければならなくなってきました。また、全県的に小児科医の減少も急激で、今後、いかにして小児科医を確保してゆくかも非常に緊急的な地域の課題となっています。
産婦人科医、小児科医、麻酔科医などは、絶滅危惧種とも言われて、全国的に絶対的に不足しているわけですから、誰がどこに陳情に行っても、どこからも降って湧いてきません。地域内に、若くてイキのいい産婦人科医、小児科医、麻酔科医、助産師などをどんどん増やしていくためには、地域で卵の段階から地道に育成していくしか道はありません。
このまま何の対策も講じないで放置すれば、数年以内にも、この地域の周産期医療の崩壊が避けられません。今、地域の協力・連携でギリギリ何とかもちこたえているうちに、次世代につながる確固とした地域周産期医療システムの基礎を創り上げてゆく必要があると考えています。
(以上、10月9日追記)
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朝日放送の1人の記者が当飯田下伊那地域に1ヶ月以上滞在して、当地域の産科の状況を毎日非常に熱心に取材して行きました。
番組は下伊那赤十字病院の状況が中心となるようですが、当地域の産科問題を話しあった「産科問題懇談会」の様子や、当院や地域内の他の診療所の診療状況なども取材して行きました。当院院長や私へのインタビューも含め、その記者が当地域での取材のために撮影したビデオ映像は膨大な量だったと思います。
彼の視点でどのような30分番組にまとめ上げたのだろうか?番組を見るのを楽しみにしています。
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当医療圏内でも、産科を標榜する医療機関の数は年々減っていますが、産科1次医療を行っている施設には、できるだけ頑張って続けてほしいと地域の皆が願っています。数年以内には止める予定という診療所の先生方にも、できる限り、長く頑張って続けていただくようにお願いしてます。幸い、この医療圏にはまだ頑張り続けてくれている産科1次施設が2施設もあり、さらに、お産の取り扱い自体は止めたけれどまだ妊婦健診はやってくれている施設が3施設もあり、地域で連携をする余地がまだ残っていたので比較的恵まれていました。
他の医療圏の先生方に聞いてみると、地域で連携したくても、連携先が全くなくなってしまって、どうにもならないところが非常に多いようです。他の医療圏の先生方からは、非常にうらやましがられている状況です。
今頑張っておられる産科1次施設の先生方に、今後もできるだけ長く頑張っていただくためにも、地域の産科2次医療は絶対に崩壊させるわけにはいきません。しかし、実のところ、県内の産科2次医療は、当医療圏も含めて、どこも青息吐息です。現在、頑張っている県内の産科2次医療機関の中でも、近々、医長が開業予定または定年で退職が決定しているというのに、その後任医師のメドが全くたたない施設がいくつかあるようですし、他県の大学の派遣病院で派遣医師引き揚げを通告されて困っている病院もあると聞いています。
産科2次医療が崩壊すれば、自動的にその地域の産科1次医療もできなくなります。例えば、当院産科病棟が閉鎖となってしまえば、この医療圏内の一次医療の産科施設はどこも分娩の取り扱いを中止もしくは大幅に縮小せざるを得なくなってしまうでしょう。当院産婦人科とて、現時点では、ぎりぎり何とかなってはいますが、勤務医師は全員が大学からの派遣医師です。全県的に医師不足となり、当院にはもう医師は派遣できないと大学から通告されたら、当院産科病棟もその日から閉鎖するしかありません。事実、日本全国の地方公立病院の産婦人科が、大学からの派遣医師の引き揚げで、次々に閉鎖となっています。
たしかに、昨年までと比べて、この医療圏の分娩施設は半減してしまいましたが、非常にラッキーなことに、この地域の産婦人科医や助産師の実数はまだそれほど減ってないので、地域の協力・連携によってうまく役割分担をすれば、この地域の周産期医療の崩壊は何とかぎりぎりのところで阻止できるかもしれません。
当地の産科施設が半減することが明らかとなった去年の今頃は、これで当地の産科は絶望的と誰もが考え、あきらめムードがただよっていました。今現在、何とかなっているのは奇跡的だと思っています。はっきりと言えることは、何の対策も講じないで放置すれば、この地域の産科施設が一つもなくなってしまう可能性が非常に大きいということです。今後、十年後も二十年後も、この地域でのお産が継続できるように願っています。
****** 長野朝日放送
テレメンタリー2006 ここで産みたい
~産科医不足・試される現場から~
10月8日(日)深夜24時55分~(30分)
今、全国で産科医師が不足している。各地の総合病院産科や産科医院ではお産の取り扱い中止や廃止が相次ぐ。お産難民という言葉さえ生み出された。国はこうした状況に対し地域内での医療施設の「集中配置」を進めている。地域内で施設が整っているいわゆる中核病院に医師や設備を集中的に配置し、地域内のお産をそこで行うというもの。この結果生まれてくるのが「空白地帯」だ。厚生労働省の指針では来年春までに都道府県は具体策をまとめ、公立病院はその決定に従わなければなれないとされている。
長野県南部飯伊地方では全国に先駆けて産科医療の集約を自主的に取り組んでいる。しかし一人の医師が「地域内の取り決め=中核病院でのお産の集中取り扱い」とは逆行する形で分娩を一部再開した。この再開は思わぬ反響を招いた。
いずれ全国に広がることが予想される産科医療の集約化はどのような結果を生み出すのか。長野県で行われた取り組みを取材し、問題を検証した。
(制作:長野朝日放送)