コメント(私見):
周産期医療は、助産師、産科医、新生児科医、麻酔科医などの大勢のスタッフからなるチーム医療であり、そのうちのどの診療科が欠けても決して成り立ちません。
分娩経過中に、突然、母体が子癇発作を起こし意識消失し、母体搬送されて来るような事例は我々も時々経験しますが、これは母児にとって非常に危険な状況です。発症直後より、大勢の専門スタッフによる集中的な治療を要します。万一、地域内の施設より、そのような重篤なケースの母体救急搬送の受け入れ要請があれば、地域基幹病院としては、満床であろうが、とにかく直ちに受け入れ早急に治療を開始せざるを得ないと考えるのが普通です。しかし、肝心の専門スタッフ(産科医、新生児科医、麻酔科医、脳神経外科医、など)が院内に揃っていなければ何もできないので、母体搬送の受け入れを拒否せざるを得ないのかもしれません。
地域の周産期2次医療体制を整備するためには長い年月がかかり、決して一朝一夕に達成できるものではありません。いったん地域の周産期2次医療体制が崩壊してしまえば、それを再び一から立ち上げて軌道に乗せるのは至難の業です。
社会の無理解がこれ以上続けば、他の地域でも同様の事例が今後続発するのではないかと危惧します。周産期2次医療体制は地域の宝です。それが全国いたる所で崩壊の危機にあり、今は、地域ぐるみで、大切に守り育てていかねばなりません。
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奈良県の母体搬送体制ニュース
(うむうむネット ~お産を語る会~)
受けなかった病院のキモチ (S.Y.’s Blog)
奈良県 医療崩壊
奈良・大淀病院 18病院受け入れ拒否…出産…死亡 (勤務医 開業つれづれ日記)
瞳子ちゃんの「最悪の根拠」の可能性
「最悪の根拠」発生の現場に関するリンク
(「マリみて」解題の試み)
18病院が受け入れ拒否(大淀病院妊婦死亡事案)
(元検弁護士のつぶやき)
破綻 (いなか小児科医)
参考:その日が来たか・・・ (新小児科医のつぶやき)
****** 共同通信社、2006年10月17日
転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明
奈良県大淀町立大淀病院で分娩(ぶんべん)中に意識不明になった奈良県の妊婦(32)が、受け入れ先の病院に次々断られ、大阪府の病院に収容されるまでに約6時間かかっていたことが17日、分かった。妊婦は転送先で緊急手術を受け出産したが、約1週間後に死亡した。
県福祉部によると、奈良県では緊急、高度な医療が必要な妊婦の約3割が県外に転送されており、態勢の不備が問われそうだ。
大淀病院によると、妊婦は今年8月7日、分娩のため同病院に入院。8日午前零時すぎに頭痛を訴えて意識不明になった。主治医は分娩中にけいれんを起こす発作と判断し、県立医大病院(橿原市)に受け入れを打診したが満床を理由に断られた。
医大病院が県内外の転送先を探したが18カ所に断られ、大阪府吹田市の国立循環器病センターが受け入れ先に決まったのは同日午前4時半ごろ。午前6時すぎに転送後、脳内出血と診断され、脳内出血と帝王切開の手術を受け男児を出産。妊婦は意識不明のまま8月16日に死亡した。
大淀病院では、転送先を探す途中で内科医が脳の異常の可能性を指摘したが、主治医はコンピューター断層撮影装置(CT)にかけなかった。
病院側は「妊婦を動かすことでかえって危険が増すと判断した。しかし結果的に判断ミスだった」と非を認めた。
妊婦の親族は「長時間ほったらかしにされた。適切な処置ができていれば助かったはずだ」と話している。
(共同通信社、10月17日)
****** 産経新聞、2006年10月17日
奈良・意識不明の妊婦 18病院、受け入れ拒否 6時間後搬送、8日後死亡
奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明に陥った妊婦が、県内外の18病院から満床などを理由に次々と受け入れを拒否され、約6時間後になって大阪府吹田市の国立循環器病センターまで搬送されていたことが17日、分かった。大淀病院では、女性の容体急変後に当直医が脳の異状の可能性を指摘し、CT撮影の必要性を検討したが、産科医は妊婦特有の「子癇(しかん)発作」と判断し、CTも撮らなかった。女性は緊急手術で男児を出産したが、8日後に脳内出血で死亡した。
妊婦は奈良県五條市に住んでいた○○○○さん(32)。大淀病院などによると、○○さんは出産予定日を過ぎた8月7日午前、同病院に入院。分娩中の翌8日午前0時ごろに頭痛を訴え、0時14分に意識不明に陥った。
さらに、1時37分にけいれんを起こしたため、同病院は県立医大付属病院(橿原市)に受け入れを打診したが、医大病院は満床のため断念。その後、医大病院の当直医が受け入れ先を探したが、県内外の17病院にも満床として拒否され続けた。
同4時半ごろになって、約60キロ離れた国立循環器病センターで受け入れが決定、6時ごろに救急車で到着し手術を受けた。男児を出産したが、同月16日に死亡した。
大淀病院の原育史院長によると、○○さんがけいれんを起こしてから約40分後、当直医が「脳に異状が起きた可能性が高い」と指摘し、CT撮影などを検討したが、産科医は子癇発作だとして、結局CTは撮られなかった。
原院長は「CTを撮らなかったことは判断ミスだった」と認めたが、一方で、同病院には常勤の麻酔医がいないことなどから「当日中の病院内での処置は無理で、搬送先を探すしかなかった」と話した。
(産経新聞、2006年10月17日)
****** 朝日放送、2006年10月17日
<奈良>重体の妊婦 19病院が受け入れを拒否
奈良県内の病院で、分娩中に意識不明になった女性が適切な処置を受けず、転送先の病院にも次々と断られ死亡していたことが解りました。この女性は、大阪府内の病院で緊急手術を受け、男の子を出産していました。
死亡したのは、奈良県五條市の○○○○さん(当時32)です。○○さんは、今年8月、奈良県大淀町の町立大淀病院で分娩中に脳内出血を起こし、意識不明の状態になりました。しかし、担当の医師は分娩中の痙攣発作と診断し、適切な処置をしませんでした。その後、大淀病院は、県内を始め、隣の大阪府など19ヵ所の病院に搬送を試みましたが、「ベッドに空きがない」という理由で次々と断られました。○○さんは、およそ6時間後に大阪府内の病院で緊急手術を受け、男の子を出産しますが、1週間後に死亡しました。○○さんの夫・△△さんは、「どこの病院でもいいから、ベッドなんてなくていいから、(妻の)命を大切にしてほしかった」と話しています。
大淀病院は、きょう記者会見を行い、CT撮影などの適切な処置を取らなかったことを認めました。原育史院長は、「CTを撮っていれば、脳内出血と診断できたと思います」「結果から見れば、判断ミスだったと考えています」と話しました。また、脳外科の専門家は、正しい情報が伝わっていれば受け入れる病院はあったと語ります。富永病院の富永紳介・脳外科医は、「(分娩中に)しかんの状態になったら、25パーセント、4人に1人くらいの割合で、脳内出血が合併するんだと。極めて死亡率が高い、あるいは、重篤な後遺症になりうる可能性があると認識して病院の選択をすべきだったと思います」と話しています。
(朝日放送、2006年10月17日)
****** 読売新聞、2006年10月17日
出産で意識不明、18病院が受け入れず…1週間後死亡
奈良県大淀町の町立大淀病院で8月、出産の際に意識不明になった同県五條市の女性について、受け入れを打診された18の病院が断り、約6時間後、60キロ離れた大阪府吹田市内の病院に搬送されていたことが、明らかになった。
女性は脳内出血で緊急手術を受け、同時に帝王切開で男児を出産したが、約1週間後に死亡した。
大淀病院などによると、死亡したのは○○○○さん(当時32歳)。○○さんは8月7日に入院。8日午前0時ごろ、頭痛を訴えて意識不明になった。産科担当医が、同県立医大付属病院などに受け入れを要請したが、いずれも満床。同付属病院の当直医が電話で搬送先を探し、大淀病院で待機していた○○さんは約6時間後、吹田市の国立循環器病センターに収容された。
大淀病院は、容体が急変した際、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の妊婦が分娩(ぶんべん)中にけいれんを起こす「子癇(しかん)発作」と診断、脳出血の治療などはしていなかった。同病院は「脳内出血と判明しても対応のしようがなかった」としている。
夫の△△さん(24)は「○○が意識を失っても大淀病院の主治医は『単なる失神でしょう』と言って仮眠をとっていた。命を助けようという行動は一切見えなかった。決して許せない」と訴えている。
****** 朝日新聞、2006年10月17日
奈良の妊婦が死亡 18病院が転送拒否、6時間“放置”
奈良県大淀町の町立大淀病院で今年8月、出産中の妊婦が意識不明の重体に陥り、受け入れ先の病院を探したが、同県立医大付属病院(同県橿原市)など18病院に「ベッドが満床」などと拒否されていたことがわかった。妊婦は約6時間後に約60キロ離れた大阪府吹田市の国立循環器病センターに搬送され、男児を出産したが、脳内出血のため8日後に死亡した。
妊婦は、奈良県五條市に住んでいた○○○○さん(32)。大淀病院によると、出産予定日の約1週間後の8月7日に入院した。主治医は○○さんに分娩(ぶんべん)誘発剤を投与。○○さんは8日午前0時ごろ頭痛を訴え、約15分後に意識を失った。
主治医は分娩中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」発作と判断、けいれんを和らげる薬を投与する一方、同日午前1時50分ごろ、同県の産婦人科拠点施設・県立医大付属病院に受け入れを依頼したが、断られたという。
付属病院と大淀病院の医師らが大阪府内などの病院に受け入れを打診したが拒否が続き、19カ所目の国立循環器病センターが応じた。○○さんは同センターに同日午前6時ごろ到着、脳内出血と診断され、緊急手術で男児を出産したが、8月16日に死亡した。男児は元気だという。
大淀病院の横沢一二三事務局長は「脳内出血を子癇発作と間違ったことは担当医が認めている」と話した。搬送が遅れたことについては「人員不足などを抱える今の病院のシステムでは、このような対応はやむを得なかった。補償も視野に遺族と話していきたい」としている。
○○さんの夫で会社員の△△さん(24)は「病院側は一生懸命やったと言うが、現場にいた家族はそうは感じていない」と話した。生まれた長男は□□ちゃんと名付けられた。○○さんと2人で考えた名前だったという。
(朝日新聞、2006年10月17日)
****** 毎日新聞、2006年10月17日
<分べん中意識不明>18病院が受け入れ拒否…出産…死亡
奈良県大淀町立大淀病院で今年8月、分べん中に意識不明に陥った妊婦に対し、受け入れを打診された18病院が拒否し、妊婦は6時間後にようやく約60キロ離れた国立循環器病センター(大阪府吹田市)に収容されたことが分かった。脳内出血と帝王切開の手術をほぼ同時に受け男児を出産したが、妊婦は約1週間後に死亡した。遺族は「意識不明になってから長時間放置され、死亡につながった」と態勢の不備や病院の対応を批判。大淀病院側は「できるだけのことはやった」としている。
妊婦は同県五条市に住んでいた○○○○さん(32)。遺族や病院関係者によると、出産予定日を過ぎた妊娠41週の8月7日午前、大淀病院に入院した。8日午前0時ごろ、頭痛を訴えて約15分後に意識不明に陥った。
産科担当医は急変から約1時間45分後、同県内で危険度の高い母子の治療や搬送先を照会する拠点の同県立医科大学付属病院(橿原市)に受け入れを打診したが、同病院は「母体治療のベッドが満床」と断った。
その後、同病院産科当直医が午前2時半ごろ、もう一つの拠点施設である県立奈良病院(奈良市)に受け入れを要請。しかし奈良病院も新生児の集中治療病床の満床を理由に、応じなかった。
医大病院は、当直医4人のうち2人が通常勤務をしながら大阪府を中心に電話で搬送先を探したがなかなか決まらず、午前4時半ごろになって19カ所目の国立循環器病センターに決まったという。○○さんは約1時間かけて救急車で運ばれ、同センターに午前6時ごろ到着。同センターで脳内出血と診断され、緊急手術と帝王切開を実施、男児を出産した。○○さんは同月16日に死亡した。
大淀病院はこれまでに2度、○○さんの遺族に状況を説明した。それによると、産科担当医は入院後に陣痛促進剤を投与。容体急変の後、妊娠中毒症の妊婦が分べん中にけいれんを起こす「子癇(しかん)発作」と判断し、けいれんを和らげる薬を投与した。この日当直の内科医が脳に異状が起きた疑いを指摘し、CT(コンピューター断層撮影)の必要性を主張したが、産科医は受け入れなかったという。
緊急治療が必要な母子について、厚生労働省は来年度中に都道府県単位で総合周産期母子医療センターを指定するよう通知したが、奈良など8県が未整備で、母体の県外搬送が常態化している。
大淀病院の原育史院長は「脳内出血の疑いも検討したが、もし出血が判明してもうちでは対応しようがなく、診断と治療を対応可能な病院に依頼して、受け入れ連絡を待っていた」と話した。
一方、○○さんの遺族は「大淀病院は、総合病院として脳外科を備えながら専門医に連絡すら取っていない。適切な処置ができていれば助かったはずだ」と話している。【林由紀子、青木絵美】
(毎日新聞、2006年10月17日)
遺族「助かったはず」 母体搬送システム、改善願う
◇明るい家族の中心、残された子の服地----生きた証し、母体搬送システム改善願う
「1週間ほど入院してきます」。元気に病院に向かったはずの妊婦は、帰らなかった。奈良県大淀町の町立大淀病院で今年8月、分娩(ぶんべん)中に起きたとみられる脳内出血の緊急転送先探しが難航し、その後死亡した同県五條市の○○○○さん(32)は、明るく温かな家族の中心だった。遺族は悲しみにくれ、病院の対応や県の搬送システムの不備に憤っている。【中村敦茂】
8月16日午後3時45分、大阪府吹田市の国立循環器病センター。○○さんは、遺族の見守る中、息を引き取った。8日に運び込まれ緊急手術を受けた後、一度も意識は戻らなかった。家族は帝王切開で生まれた長男□□ちゃんを○○さんの腕に何度も添い寝させたが、母子が対面することはなかった。
○○さんは、得意の裁縫で、衣服やかばんを手作りしては、親せきらに配っていた。生まれる子どもに作るための服地も、買いそろえてあった。夫△△さん(24)が夜勤の時は、いつも励ましのメールを送った。
今月10日にあった病院と遺族との2度目の話し合い。病院側の弁護士はいきなり「病院の対応に問題はない」と言い切り、△△さんらは怒りに震えた。前回の9月21日の話し合いでは、担当の産科医自身が、意識不明当初から脳内出血を疑わなかったことを、「結果的には過ち」と認めたはずだった。しかし病院側は「脳内出血に早く気づいたとしても、助けられなかっただろう」と反論を整えていた。
遺族によると、容体急変時、産科医は○○さんの意識不明を確認した後、「心配はない」と、仮眠室に戻っていたという。10分おきにやってくる助産師は、○○さんの顔を何度もたたいた。「脳が問題かもしれないのに、素人じゃないのに」。△△さんらは唇をかむ。
病床の○○さんは瞳孔が開くなどしており、脳の異状を疑った△△さんの父▽▽さん(52)らは「ここ(大淀病院)にも脳外科の設備がある。CT(コンピューター断層撮影)を撮ってくれ」「転院先にベッドの空きがないなら、廊下でもいい」と必死に訴えたが、取り合ってもらえなかった。▽▽さんは「早く処置すれば助かったとの思いしかない。大淀病院の対応も許せないし、18病院に断られるという奈良県の態勢や、母体搬送システムも問題。病院は心から謝罪し、○○の生きた証しを、せめて問題の改善で示してほしい」と話す。
(毎日新聞、2006年10月17日)