コメント(私見):
産科では、患者が急変して、高次機関での早急な対応を要する事態はいつでもかなりの高頻度で起こり得ることです。分娩経過中の急変では、発症後ただちに大勢の専門スタッフによる集中的な治療を開始する必要があります。
周産期医療は、助産師、産科医、新生児科医、麻酔科医などの大勢のスタッフからなるチーム医療であり、そのうちのどの診療科が欠けても決して成り立ちません。
地域の周産期医療体制を整備するためには非常に長い年月がかかり、決して一朝一夕に達成できるものではありません。また、地域の拠点病院(地域周産期母子医療センター)だけでは対応しきれない重症例も一定頻度で必ず発生しますから、各県に3次施設(総合周産期母子医療センター)を設置する必要があります。そこには、大勢の専門スタッフ、医療設備・機器が投入される必要があり、救急患者を適切に搬送するシステムを確立しなければなりません。
現在、そのような周産期医療の整備は県単位で、計画・実施されています。周産期医療体制が十分に整備されていない地域では、今回の町立大淀病院と同様の事態はいつでも起こり得ると思われます。
****** 毎日新聞、2006年10月22日
<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ
緊急かつ高度な治療が必要な母子への対応を目的に、国が全都道府県で整備を目指す「総合周産期母子医療センター」が未整備の8県のうち、4県では計画が策定されておらず、残る4県でも08年3月の整備期限内に完了する見通しが立っていないことが21日、毎日新聞の調べで分かった。奈良県大淀町立大淀病院で意識不明となった妊婦が搬送先の病院で死亡した問題で、産科医療の体制不備が浮き彫りになっており、国は早急な対応を迫られそうだ。
国は04年の「子ども・子育て応援プラン」に基づき、08年3月までに総合周産期母子医療センターを整備するよう各都道府県に求めている。現在、秋田、山形、岐阜、奈良、佐賀、長崎、宮崎、鹿児島の8県が未整備で、各県の担当課に計画の進ちょく状況や県外搬送数などを取材した。
8県のうち、岐阜、佐賀、長崎、鹿児島は特定施設を同センターに指定する方針で、交渉などを進めている。他の4県は(1)新生児集中治療室9床以上(2)母体・胎児の集中管理治療室(MFICU)6床以上――などとする国の方針を満たす施設を整備する計画自体がなかった。
8県の未整備の理由としては、「看護師の確保が困難」(奈良)のように要員不足が多かったが、「県内の面積が広く、交通事情も悪い。県内6カ所で受け入れる現状の方法で効率は上がっている」(宮崎)との声もあった。また秋田県は「MFICUを既存の病院に3床設ける予定で、これまでの実績から国の方針と同程度の機能を有するものになる」としている。
一方、県外への母体の搬送数については、奈良県が04年で37.19%、長崎県が05年に1例、鹿児島県が「基本的にない」としているほかは、いずれの県も把握していなかった。
厚生労働省母子保健課は「今回の奈良県のような問題が再び起きないように、早急に整備してほしい」と話している。【まとめ・今西拓人、河内敏康】
(毎日新聞、2006年10月22日)