コメント(私見):
当県の場合でも、県外の大学からの派遣医師で維持されていた病院の多くが、医師引き揚げにより分娩の取り扱いが中止となり、その周辺地域が産科空白地帯となってしまいました。今や、どの大学も、自県内の関連病院の維持だけでも非常に厳しい状況に陥っており、とてもじゃないが、他県の関連病院までは維持できないというところまで追い詰められてきています。
今回の妊婦死亡の報道を受けて、奈良県は、周産期医療体制を早急に整備するようにと県の内外から厳しく求められ、県外の関連病院への派遣医師を撤収することも検討し始めたとのことです。
医師引き揚げの対象となる病院では、新たに産婦人科医を集めることは非常に難しく、分娩の取り扱いを中止せざるを得ないと思われます。これによって、今、全国的にどんどん広がっている産科空白地帯が、さらに広がってしまうことになってしまいます。医師引き揚げの対象となる病院の周辺住民、自治体にとっては、まさに青天の霹靂、突然降ってわいた重大事件です。
関西圏のように、比較的面積の小さい県が密集していて、人口も多く、交通網が県境を越えて互いに複雑に入り組んでいるような地域では、それぞれの県単位で独立して周産期医療体制を完結させるのは非常に難しいのかもしれません。
お産ドミノ 医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (勤務医 開業つれづれ日記)
余波というより津波(新小児科医のつぶやき)
****** 朝日新聞、2006年10月25日
医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡
奈良県大淀町の町立大淀病院で19病院に搬送を断られた末、妊婦が死亡した問題を受け、同県立医大から大阪や和歌山など県外の病院に派遣されている産科医を引き揚げる方向で、県が検討を始めたことがわかった。高度な治療が必要な妊婦と新生児を受け入れる「総合周産期母子医療センター」を早急に整備するためだが、深刻な産科医不足の中、引き揚げによって「お産の空白地帯」に陥る恐れがある地域に、動揺が広がっている。
同センターは、厚生労働省が各都道府県に07年度中の整備を呼びかけているが、奈良を含む8県が未整備となっている。関係者によると、同センターは、県立医大付属病院(橿原市)の産婦人科が入る施設内に設置。母体・胎児集中治療室(MFICU)を現在の3床からセンター化の基準である6床に増床する。施設整備費は数千万円にのぼる見込み。
同病院には産科医が15人程度配属されているが、増床などでさらに数人が必要になる見通し。全国的な産科医不足で新たな補充が望めず、同医大の医師派遣先となっている大阪府の東大阪市立総合病院や松原市立松原病院など、県外の関連病院約10カ所のうち、いずれかから引き揚げる案が県庁内では有力だ。
大学の医局に所属する医師の人事権は通常、医局の教授が実質的に握り、人的つながりのある関連病院に派遣されてきた。県幹部の一人は「派遣先の医師が現状を理解して医大に戻ってきてくれるはず」とみる。
一方で、関連病院の一つ、大阪府八尾市の八尾市立病院は4月、同医大から産科医4人の派遣を受けて昨年から中止していた分娩(ぶんべん)を再開。医大側も奈良からの急患を受け入れる県外の拠点として期待していたが、今回のケースで病院側は、新生児集中治療室(NICU)が満床との理由で受け入れ要請を断った。
周辺の公立や私立の病院が医師不足で次々と分娩の取り扱いを中止し、患者が同病院に集中。分娩数は月約60件と昨年までの2倍に達した。病院幹部は「ここは地域の拠点病院。医師が引き揚げられたら地元の救急搬送も受けられない」。
和歌山県新宮市の市立医療センターも医大から医師2人の派遣を受けている。地域で分娩できる唯一の病院で、年に約400件のお産を扱う。担当者は「都会と違って妊婦の転院ができない現状では、引き揚げの影響が大きすぎる」と漏らす。
(朝日新聞、2006年10月25日)