コメント(私見):
各大学の医局人事の春の異動が正式に発表される時期で、『3月いっぱいで産婦人科医を引き揚げる』というような報道記事を多くみかけます。
私自身の場合もそうですが、ほとんどの場合、公立病院に勤務する医師は教授命令による大学からの派遣という形で就職します。いくら医療現場で人手が不足し、常勤医師数を増やしたいと思っても、正式な医師供給ルートは医局人事しかありません。
かつては、医局員の就職口確保のために、大学の関連病院をどんどん増やしていたバブルの時期もありました。しかし、今は、そのバブルも崩壊し、大学病院も人手不足に陥っていて余裕は全くないですから、各大学の関連病院は、医局人事の異動の時期ごとに、どんどん減っているのが現状です。いくら大事な地域の拠点病院であっても、突然、『次回の医局人事の異動で医師を大学に全員引き揚げます。後任は派遣できません。』と通達される可能性はいつでもあり得ます。
突然、頼りにしていた医師達が全員いなくなってしまい、困りきった住民達が署名活動をして、市長や知事などにいくら嘆願書を提出しても、どこからも医師はふって湧いてきません。
****** 朝日新聞、2007年01月21日
産婦人科医引き揚げ 総合磐城共立病院
周産期医療の拠点の一つ、いわき市立総合磐城共立病院=同市内郷御厩町=から、東北大学医学部が3月いっぱいで産婦人科医を引き揚げる方向であることが、20日分かった。県立医大は、代わりの医師確保に向けて準備を始めたが、産婦人科の勤務医数そのものが減っていることから、同市では産婦人科医不足がさらに深刻化しそうだ。
東北大学医学部の岡村州博教授(周産期医学分野)は「人事を調整中なのでノーコメント」としているが、宮城県内の病院や同大での医師不足が背景にあるようだ。
磐城共立病院は、県内に5カ所ある「地域周産期母子医療センター」の一つ。産婦人科医は03年春まで、嘱託3人を含む6人がいたが、開業などで4人に減り、昨年4月からは東北大が派遣している3人だけになった。
市によると、同病院では、こうした事態を受け、診療の一部を規制し始めた。同病院が受け入れるのは、手術などを伴う妊婦に限ると開業医に通知した。しかし、規制しても、年間約600件の分娩数は横ばいのままで、今年3月末、派遣組の1人がやめることになり、「2人体制では、とてもやっていけない」と残る医師の引き揚げを決めた模様だ。
県立医大の産婦人科講座では昨年12月、東北大やいわき市から連絡を受け、かわりの産婦人科医の確保へ動き出した。同医大の佐藤章教授は「若手には福島に残ってもらえるよう直接お願いをしたり、県立医大から新しくベテランを派遣したりして、少なくとも医師3人体制は維持したい」とする。地域内の別の病院で勤務する産婦人科医に移ってもらうことなども念頭に現在、市や関係先と調整中だ。
市保健所によると、市内の出生数はこの数年3千人前後。他県などからの「里帰り出産」を含めると、年間で3700人程度が市内で出産しているという。
一方、市内では、一昨年に呉羽総合病院=同市錦町=の産婦人科が休診となり、昨年8月には福島労災病院=同市内郷綴町=の産婦人科も休診した。市内の総合病院で産婦人科があるのは、松村総合病院と磐城共立の2院となっている。
市では昨年末、市医師会や市病院協議会、市立病院幹部ら18人で構成する「地域医療協議会」を立ち上げ、医師確保策などの協議を始めた。公立と民間、勤務医と開業医といった枠組みを取り払い、新しい協力関係を築くことを狙っている。
(朝日新聞、2007年01月21日)
****** 中日新聞、2007年1月19日
恵那市内 産科医ゼロの危機
4月で不在に、派遣要望進展なし
恵那市で開業する唯一の産婦人科医院が4月限りで診療を休止することになり、同市の産婦人科医がゼロとなる可能性が高まっている。市は市内で働いてもらえる産婦人科医を探しているが、めどが立っておらず「お産がしにくくなれば、地域の人口減や少子高齢化に歯止めがかからなくなる」と危機感を募らせている。 (鈴木智行)
診療を休止するのは、同市長島町中野の「恵那産婦人科」。同病院によると、五月から産婦人科医が不在となる見込みとなったため、お産は四月までしか受け付けていない。病院は閉鎖しないが、後任の医師が見つかるまで休むという。
もし休止が続けば、市民は市中心部からでも車で三十分近くかかる中津川市、瑞浪市などの医療機関でしか出産ができなくなる。休止を知った市内の主婦からは「当面、次の子どもを産むのは控えた方がいいのかしら」という不安の声も上がっている。
山間部の過疎化が進む恵那市は、新総合計画で二〇一五年の人口を現在から約二千人減の五万五千人にとどめる目標を設定。昨春には少子化対策推進室を設置するなど力を入れていただけに「(同病院に)何とか続けるようお願いしてきたが…」と頭を抱える。
市は同病院の診療休止を把握する前から、市幹部らが厚労省や県外の医療機関に出向き、市立恵那病院などへの産婦人科医派遣を要望しているが、具体的な話は進んでいない。市は「努力を続けていきたいが、全国的な産科医不足は深刻。今後は首長らの協力で、自治体の枠を超えた医療態勢の構築も必要になる」としている。
<県内の産科の状況> 県などによると現在、県内で産科医がいない市は本巣市だけだが、近くの岐阜市や北方町の病院で出産ができる。また、美濃市は、市立病院で、週二回大学病院から婦人科医が来て診察、山県市や飛騨市の病医院では婦人科の診療はしているが、三市ともお産はできない。
(中日新聞、2007年1月19日)
****** 中日新聞、2007年1月19日
彦根市立病院産婦人科
機能存続求め街頭署名
3月下旬から医師が1人になり、これまで通りの出産ができなくなる彦根市立病院(同市八坂町)産婦人科の機能存続を求める女性たちでつくる「彦根市立病院での安心なお産を願う会」が18日、市内で街頭署名に取り組んだ。
同市長曽根南町のショッピングセンター「パリヤ」の入り口2カ所にメンバーら10人が立ち「彦根市だけの問題ではありません」と約1時間にわたって呼び掛けた。
署名は医師確保などの手だてを尽くすよう求める嘆願書に添え、嘉田由紀子知事と獅山向洋市長に提出する。この日までに知事あては240人、市長あては278人分の署名が集まったという。会は2月中旬までに、8000人を目標に署名活動を続ける。
代表の高居涼佳さん(33)は「用紙を持ち帰り、署名の取りまとめに協力してくれる人もいるなど、予想以上に反響がありました」と話していた。【築山栄太郎】
■民間診療所産婦人科医…医師確保の必要性説く
彦根市立病院が分娩(ぶんべん)を休止すると、湖東地域で唯一の出産を取り扱う医療施設となる民間診療所「神野レディスクリニック」(同市中央町)の神野佳樹院長(50)は「このままでは年間300-400人は市内で産めなくなる」と、医師確保の必要性を説く。
診療所では年間700例以上の出産を取り扱っているが、市立病院の診療制限が明るみに出た年明けから予約が殺到。5月末までは新たな予約を断っている状況だ。
神野院長は「年間100人までなら何とか増やせるが、それ以上は無理」と窮状を説明。「2カ所以上の医療施設が地域にあり、合併症や妊娠中毒症などリスクの高い妊婦は総合病院、低い人は診療所と振り分けられる体制の維持が必要」と訴える。自らも滋賀医大などに市立病院への医師派遣を働き掛けているという。
市立病院が開設を検討している「院内助産院」については「医療体制が整った病院が積極的に取り組むなら意味があるが、医師が足りないという理由で開設すると、何か起こったときに誰も責任が取れず危険」と話した。【築山栄太郎】
(中日新聞、2007年1月19日)
****** 毎日新聞、2007年1月19日
彦根市立病院:産婦人科機能存続へ、母親らが街頭署名活動 /滋賀
彦根市立病院(赤松信院長)の産婦人科が3月下旬から医師1人になる問題で、子育て中の母親らが設立した「彦根市立病院での安心なお産を願う会」(高居涼佳代表)が18日、同市のベルロード沿いの「パリヤ」入り口で同科の従前の機能存続を求める署名活動を行った。約1時間の活動で彦根市長への嘆願書に184人、知事への分に240人の署名が集まった。
市立病院は、3月20日以降の産婦人科の診療を制限。分べんや手術、がんの治療などは軽い場合を除き他の病院を紹介するという。「安心なお産を願う会」は今月9日に発足し、「彦根市立病院産婦人科の従前の機能(リスクの高い分べん、緊急手術など)を存続させるため、医師の確保などあらゆる手だてを尽くす」ことを求めて署名活動を進めている。
街頭活動には会員ら約10人が参加。幼児を連れた若い母親や孫の手を引いた祖母らが、「不安がいっぱいです」「協力させてください」などと話しかけて署名していた。2月中旬をめどに約8000人の署名を集め、嘆願書を提出する他、彦根市の3月定例議会に請願書を出す。
一方、以前から分べんを受け入れている同市内の神野レディスクリニック=神野佳樹院長(50)=は受診者が増え、5月中の出産予約は断っているという。神野院長は「年間750人の出産が上限だが、6月以降は毎月10人前後は増やして受け入れたい」と話す。それでも、これまで市立病院が受け入れていた400人以上が彦根の病院では出産出来なくなり、長浜や近江八幡の病院に頼ることになるという。
市立病院に対しては、「何が中核病院だ。早くから手を打っておくべきだ」「リスクの高い出産や突発的なものはどうなる」などと住民の不安や不満、批判は高まっている。【松井圀夫】
(毎日新聞、2007年1月19日)
****** 京都新聞、2007年1月18日
市立病院で安心な産科医療を
彦根・グループが街頭署名
彦根市立病院の産婦人科が医師不足で3月下旬から診療を制限することに対して、同市の子育て中の女性らを中心に「彦根市立病院で安心なお産を願う会」(高居涼佳代表、14人)が結成され、医師の確保などを市と県に求める街頭署名活動を18日から始めた。
この日はメンバーや賛同者など10人が、同市長曽根南町のスーパーで買い物客に署名を呼びかけた。子連れの主婦をはじめ、年配の女性や働き盛りの男性も次々と署名に応じ、「知人や近所の人にも呼びかける」と署名用紙をメンバーに求める人もいた。
署名に応じた60代男性は「安心して子を産めないような街に将来の希望はない。県は医療の南北格差をなくすべきだ」と話していた。
同会は、獅山向洋市長あての嘆願書では、リスクの高い分べんなど従前の産婦人科の機能を存続させ、医師の確保を要望している。嘉田由紀子知事に対する嘆願書では、医療の地域格差をなくし、安心で安全な産科医療が受けられる環境整備を求めている。2月中旬までに8000人を目標に署名を集める。
(京都新聞、2007年1月18日)