参考:
日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:
県立大野病院事件に対する考え
****** 読売新聞、2007年1月25日
県立大野病院事件あす初公判
「癒着胎盤」対応最大の争点
大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に楢葉町の女性(当時29歳)が出血性ショックで死亡した事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われている産婦人科医師、加藤克彦被告(39)(大熊町下野上)の初公判が26日、福島地裁で開かれる。弁護側は無罪を主張し、検察側と真っ向から争う姿勢で、多くの医療関係者が裁判の行方を注視している。
最大の争点は、胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点で、大量出血する恐れがあるとみて子宮から胎盤をはがすことを中止し、子宮摘出に移る義務があったかどうか。
「子宮摘出に移行するべきだった」とする検察側に対し、弁護側は「癒着胎盤は、胎盤がはがれた後は子宮が収縮して出血が収まると考えられるため、まずはく離を継続する。出血が止まらない場合やはく離が困難な場合に子宮摘出を行うと判断するのが、臨床の現場では一般的だ」と反論する。
今回の裁判では、審理を迅速化するため争点を事前に絞り込む公判前整理手続きが適用された。手続きは昨年7月に始まったが、弁護側が全面的に争う姿勢を見せたため、起訴から争点整理の終了までに約9か月を要した。手続きの結果、〈1〉大量出血の予見可能性〈2〉胎盤をはく離した際に手術用ハサミを使用した妥当性〈3〉医師法違反適用の是非――なども争点になった。
弁護側は「薬を間違えたわけでも、摘出すべきでない臓器を摘出したわけでもなく、明確な過失はない」とし、「胎盤のはく離を継続するかどうかは現場の医師の判断」と主張している。
日本産科婦人科学会は昨年3月、「故意や悪意のない医療行為に個人の刑事責任を問うのは疑問」と抗議。日本医学会も同12月、「逮捕は医療を委縮させる。事故の多い診療科が敬遠され、医師が偏在化する」との声明を発表した。
起訴状によると、加藤被告は、女性の胎盤が子宮に癒着していることを認識し、はく離を続ければ大量出血する危険があったにもかかわらず、子宮摘出を行わず、胎盤をはがして大量出血を招き、女性を失血死させたとされる。また、24時間以内に警察に異状死の届け出を行わなかったとされる。
26日の初公判では罪状認否の後、検察側と弁護側の双方が冒頭陳述を行う。第2回公判からは証人尋問が始まり、月1回のペースで公判が進む予定だ。
(読売新聞、2007年1月25日)
****** 河北新報、2007年1月25日
胎盤剥離の処置争点
大野病院事件あす福島地裁で初公判
福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開手術中、判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死罪と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(39)=大熊町=の初公判が26日、福島地裁で開かれる。加藤被告側は「難度の高い手術中に起きた不幸な出来事で、過失はない」として無罪を主張する方針だ。
加藤被告の起訴は、医療行為に関し、刑事責任を問う線引きを大きく変えると受け止められ、産科医療の現場を揺さぶった。最大の争点は、加藤被告が帝王切開出術中、子宮に癒着した胎盤の剥離(はくり)を続けた処置が妥当だったかどうかだ。
公判前整理手続きでは、検察側が「剥離をやめて子宮を摘出するべきだったのに、剥離を続けたことが大量出血を招いた」と主張したのに対し、弁護側は「止血のためにも剥離を続ける必要があった」と反論、真っ向から対立した。
このほか、胎盤癒着の程度や大量出血の原因と死亡との因果関係、女性の死亡が医師法で警察への届け出が義務付けられている「異状死」に当たるかどうかなども争点になる。
初公判では検察、弁護双方が冒頭陳述を行い、争点ごとにそれぞれの主張を展開する。
起訴状によると、加藤被告は2004年12月17日、福島県楢葉町の女性の帝王切開手術を行った際、胎盤と子宮の癒着を確認。無理にはがせば大量出血で死亡する恐れがあるのに、子宮を摘出するなど事故を回避する注意義務を怠り、胎盤をはぎとって大量出血させ、女性を失血死させた。また、女性の死を異状死として警察に届け出なかった。
(河北新報、2007年1月25日)
****** 朝日新聞、2007年1月24日
医師過失、刑事責任問えるか
検察側「必要な処置怠る」 VS. 医師ら「個人追求不向き」
福島県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法違反にの罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(39)に対する初公判が26日、福島地裁で開かれる。過失の認定が難しい医療行為が刑事責任を問われるのかどうか、公判は医療界の注目を集めている。
帝王切開で死亡 26日地裁初公判
女性は04年12月に死亡。県の事故調査委員会は医療過誤を認める報告書をまとめ、県は遺族に謝罪した。報告書をきっかけに捜査を始めた県警は昨年2月、加藤医師を逮捕した。
起訴状によると、手術用ハサミで胎盤と子宮が癒着した部分をはぎ取って女性を失血死させ、女性の死に異状があると認識しながら、24時間以内に警察に届けなかったとされる。
公判前に、検察側、被告・弁護側の主張を整理した結果、争点は大きく3点に絞り込まれた。最大の争点は、加藤医師が子宮に胎盤が癒着していると認識した時点で、胎盤をはぎ取るのをやめるべきだったかどうかという点だ。異状死だったかどうかや、加藤医師の供述の任意性についても、意見が対立している。
検察側は「胎盤がはがれづらいと気づいた時点で剥離を中止し、子宮摘出などの処置をとるべきだった」と主張。医学生向けの教科書などに「癒着胎盤とわかれば無理に剥離せず直ちに子宮摘出すべきだ」と書かれている点を指摘した。
一方、弁護側は「癒着胎盤とわかったのは胎盤剥離の最中で、すでに出血も始まっていた。胎盤を取り去れば通常は止血するため、臨床医の判断として剥離を優先させた。出血を放置して子宮を摘出するのは危険すぎる」と反論している。
公判では、医療行為の専門性をどうとらえるかで姿勢の違いも鮮明になった。弁護側は「裁判官に医師の判断や処置を理解してもらうには胎盤や子宮についての医学的知識が不可欠」として、医学専門書や論文などを証拠申請したが、検察側は「事件に関連性が無い」として、大半を不同意とした。
医療界は公判に重大な関心を寄せている。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が「全国的な産婦人科医不足という医療体制の問題点に深く根ざしており、医師個人の責任追及は、そぐわない」との声明を出したほか、全国の産婦人科や新生児科、小児科の医師ら795人も抗議声明を発表した。
(朝日新聞、2007年1月24日)