ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

出産「24時間支援センター」を学会が提言

2007年02月08日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

産科では、『いつでも30分以内に緊急帝王切開を実施できる病院の態勢を24時間維持し続けなければならない!』(30分ルール)というのが世間の常識になりつつあるようだ。

しかしながら、現実には、自病院の分娩室や陣痛室の中で容態が急変した妊婦に対してですら、「いつ何時でも、30分以内に緊急帝王切開を実施できるのか?」と問われたら、「時間帯によってはかなり厳しい!」と答えざるを得ない。

ましてや、他施設で分娩管理中に容態が急変し、救急車で緊急母体搬送されて来た妊婦に対しては、容態急変後30分以内の緊急帝王切開の実施は絶対に無理な話である。

そもそも、患者が病院に到着した時点で、すでに容態急変後30分以上経過しているし、患者が病院に到着したからといって、何の準備もしないでいきなり手術を始めるわけにもいかない。まず、患者の状態を診察して、緊急手術が必要な状態であるかどうかを見極めなければならない。緊急手術が必要と判断された場合には、緊急手術に必要な術前検査を実施し、緊急手術に必要なスタッフの召集や手術室の機材の準備などを開始して、すべての状況が完全に整ってから、患者の手術室への入室が可能となる。どんなに条件が整っていても、患者が病院に到着から手術室入室までに最低でも1時間以上かかるのが普通だ。さらに、手術室に入室してから麻酔科医が麻酔をかけ始めて執刀可能な状態になるまでに30分近くを要する。他施設からの緊急母体搬送例に関して言えば、現実には、母体の容態急変後2時間以内の執刀でも非常に難しい。

確かに、『1つの産科施設に10人以上の産科医を集める!』のが理想であることはよくわかっているが、今後、それをどうやって実現してゆくのか?が一番の問題である。それを今すぐに実現するのは不可能に近いが、今後、病院で産科を維持していこうとすれば、常勤産科医10人体制を目指して早急に体制を整えていかなければならない。

『立ち去り型サボタージュ』による産科医減少に全く歯止めがかけられない現状において、地域の産科医療を当面とりあえず維持してゆくためには、残り少なくなってしまった産科医達が、それぞれの立場で役割を分担し、緊密に連携して、地域全体で産科医療を支えて合ってゆくしか道はないと思われる

****** 毎日新聞、2007年2月7日

産婦人科医療:緊急搬送30分内に対応 学会報告書案

 産婦人科医不足への対応を目指し、日本産科婦人科学会(日産婦、武谷雄二理事長)の検討委員会は、産婦人科医療の望ましい将来像を盛り込んだ報告書案をまとめた。地域の中核病院と診療所・助産所の連携や、患者の緊急搬送先を30分以内に決める体制の構築、医療紛争の解決制度導入などを提言。24時間態勢の救急対応や全国どこでも専門家の下で出産できる環境作りを目指すとした。4月の総会で正式決定し、国や自治体、現場の医師に実現を働きかける。

 報告書案は、望ましい産婦人科医療の将来像を実現する具体策として、30万~100万人か出生数3000~1万人ごとに地域産婦人科センターを設置▽救急搬送に対応できる病院の紹介システムの構築▽勤務内容・量に応じた給与体系▽医療事故の原因究明機関の整備--などを掲げた。

 国や自治体に対しては、地域の施設整備への補助や医師・スタッフの待遇改善、施設数の正確な把握などを求めている。

 同学会が昨年6月に公表した調査結果によると、全国で出産できる施設は3065カ所、医師は7985人だった。従来の厚生労働省調査と比べ施設数で半分、医師数で4分の3で、出産現場の深刻な医師不足が浮き彫りになった。背景には他の診療科に比べて多い医療訴訟や勤務条件の厳しさなどがあるとされる。

(以下略)

(毎日新聞、2007年2月7日)