ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

枝野議員と柳沢厚労相との質疑応答(国会衆院予算委)

2007年02月11日 | インポート

コメント(私見):

2月7日の国会審議のテレビ中継の映像をインターネットで見ました。今回の柳沢厚生労働大臣の答弁の要旨は以下の通りと私は理解しました。実際に映像を見ていただきたいと思います。

国会 衆院予算委-枝野幸男議員-10分から本論

以下、柳沢厚生労働大臣の答弁内容の要旨

『産科医が減少しているのは、分娩件数の減少と比例していて、分娩件数あたりにすれば産科医数は特に減っていない。従って、産科医療は病院のネットワーク化で効率化すれば十分に対応できるはずだ。

外科医の減少は、外科が呼吸器外科とか消化器外科とか細分化され、それぞれの科別に分けると統計上減っているように見えるが、実際の外科医の数は減ってない。

大野病院事件は現在公判中なのでこの事例に対する具体的答弁は差し控えるが、かなり特殊な事例であることは把握している。今後、同様の事件が起きない対策として、第三者機関による事故調査制度を早急に成立させる。

助産師不足の問題は、今後、看護師に助産師の免許を与えることと、休業助産師を現場復帰させることで対応してゆく。横浜の事件は起訴猶予となったが、看護師の内診が違法行為にあたるという現在の厚労省の認識に変わりはない。』 

(以上、国会での答弁内容の要旨)

要するに、現在進行中の産科医減少は、単に分娩件数減少に呼応した現象に過ぎず、今後、病院のネットワーク化と医療の効率化で対応することが十分に可能との認識でいらっしゃるようです。

大臣というポストは、そのポストに指名されるまで全然関係がなかった分野にいきなり飛び込んで、事態がどうなっているのか?を突然のにわか勉強で理解しなければならない御立場でいらっしゃるので、現時点では、産科崩壊に対して一般人並の乏しい理解でしかなくて、何の危機感も持ってないというのも、ある意味、仕方がないのかもしれません。その点、枝野幸男議員は現場の状況をかなり正確に把握してらっしゃるようで、現在の産科で問題となっている諸問題に対して鋭く質問をしていて非常に感心しました。

勤務医つれづれ開業日記のコメント欄で、この質疑応答の様子の文字化作業が現在進行中です。現時点で文字化されている部分をコピーさせていただきました。いつもお世話になっています。】

***** 国会審議テレビ中継、2007年2月7日

枝野幸男議員-10分から本論

【衆院予算委】枝野議員、周産期医療の改善等の必要性を強調、民主党ニュース

*** 勤務医つれづれ開業日記のコメントより
(僻地の産科医・さま)

枝野議員 「なぜ産婦人科と外科だけ(医師が)減っているのか?産婦人科の医師は94年から04年の10年間で8%減っている。」

柳沢厚労相 「いま手元にH16年の資料しか手元にないが、産科医10594人、施設はH17年2933施設と聞いている。」

枝野 「大阪市では市民病院を4施設から3施設に集約化したが、それでも産科はさらに病院を減らさねばならなくなっている。都市部でもハイリスクを扱える病院は足りない。」

厚労相 「産科の医師減少は出生数減少の問題。出生数あたりの医師の数は横ばいである。」

枝野 「なぜ産科と外科だけが減っているか?」

厚労相 「産科は出生数が減っているから。外科は専門化しており、呼吸器外科や消化器外科などを足すと外科総数はかわらない。」

枝野 「福島県大野事件の概要説明。知っているか?」

厚労相 「大野事件は特別な事案と心得ている。」

枝野 「大野事件は大変稀なケースで、執刀された医師が逮捕・起訴された。こんな初歩的ではない専門性の高い医療で、結果がうまくいかなかったからと逮捕されれば、リスクのある医療を誰もしなくなる。こういう場合にこそ法務大臣の指揮権があるのではないか。僻地医療でリスクのある出産を一人で担ってきた産科医だった。初歩的ミスではなく、真摯に対応もしている。しかし、僻地医療を一人で担い、高度な医療で残念な結果になることもある。結果が悪ければ起訴・逮捕になりうると全国の医師にメッセージしてしまう結果となっている。それでは産科などやってられない。」

厚労相 「この事件については公判中なので述べられない。一般的な話では医事紛争には第三者機関が必要。来年度をめどに厚労省として取組みたい」

枝野 「このように誠実に最善を尽くしても、ベストな結果が出なかった場合に、今後はどうしていけばいいのか? 厚労省からはこの事件に対して公式な表明がない。高度な医療技術をもった頑張っている医師に対して、あまり関わらない方がいいというメッセージを出すことになっている。現在リスクのある医療にかかわっている医師が、やめてしまっていいのか。医師の養成は10年くらいの時間がかかる。」
厚労相 「何が可能か検討していく。」

枝野 「起訴したあとでも公訴とりさげは可能なはず。このまま刑事罰の対象としていいのか?」

厚労相 「その検討が必要とは考えていない。」

枝野 「厚労省と法務省はきちんと協議すべき。横浜の堀病院の看護師内診事件でも違法ではあるが構造的問題と言ったが。」

法相 「助産師不足が背景にあり、構造的問題。今回の事件自体では内診による危険性が認められなかったなどの結果、起訴猶予となった。」

枝野 「厚生省は看護師の内診を違法としているが、今後どうしろというのか?」

厚労相 「厚労省としては違法と認識。起訴猶予となったのは厚労省として恥ずかしい。早く克服しなければ。」

枝野 「厚労省としての危機感を感じられない。看護師が内診するのがダメであれば早急に対応すべき。看護師でも一定の条件があれば内診してもいいのであれば、認めてあげるべき。現場は困っている。」

厚労相 「重大な問題と受け止める。違法状態とすべきではない。看護師免許もちつつ助産師資格を与えたい。」

枝野 「助産師不足なら看護師を活用すべき。頑張るべきは現場ではなく厚労省である。現場の看護師や医師に責任をおしつけるべきではない。足りないものを養成するのに何年かかると思っているのか? 違法とするなら、養成できてくるまでの期間はどうすればいいのか?」

厚労相 「厚労省としては看護師に助産師の資格を取ってほしい。また休業助産師を再教育して即戦力としたい。同時に拠点病院を中心としたネットワーク化で効率化したい。」

枝野 「現場の病院はどうすればいいのか答えてもらっていない。人手は足りない。H22になっても1000人の助産師さんが足りない。今回は起訴されなかったが、次は起訴されるかもしれないという不安を現場に押し付ける結果になっている。」

厚労相 「ネットワーク化すればいい。」

枝野 「助産師さんは拠点病院にだけいればいい存在ではない。出産の場である診療所にも必要。充足するまで違法と打ち捨てるのは無責任だ。」

厚労相 「とにかくネットワーク化、効率化だ。出生数が減っているから仕方ない。」

枝野 「医療現場にしわ寄せがいっている。総理はどう考えますか?」

安倍総理 「今回の起訴猶予は構造的問題でもあり、個々の問題でもある。助産師が足りないのは事実。助産師養成・発掘(とはいってないが)ネットワーク化、派遣医師の支援をしたい。」

枝野「大甘な厚労省の予測でもH22に1000名の助産師が足りない。日本産婦人科医会の現場の声では、1343箇所の診療所を調査した結果、助産師0%充足が250施設、30%以下が353施設、70%以下が532施設、70%以上は208施設であり、助産師不足解消には最低10年かかるといわれている。建前は美しいが、現場医師はどうしたらいいのか? 大野事件も構造的な問題ではないか。そもそも365日24時間の僻地産科を一人で支えること自体、現場医師には過剰な負担。ミスも出やすく、ただでさえ危険な出産が一層危険になる。厚労省は現場が働きやすくなるような環境を作るべき。」

厚労相 「大野事件については答弁を差し控える。一般的に第三者機関で解決したい。また無過失補償でも解決をしたいと思っている。」

枝野 「産科医療は弱体化しつつある。現場でベストを尽くしても患者が亡くなる事もあり、逮捕されるかもしれない。厚労相の言っているのは建前ばかり。」

安倍総理 「この事件は公判中なので答えられない。」

枝野 「起訴された事件でも公訴取り下げをできるはず。このケースには真摯に検討をして欲しい。」

勤務医つれづれ開業日記の別のコメントより
(ブログ読者の有志の方々による共同作業)

開会日:平成19年2月7日 (水)
会議名:予算委員会
収録時間:7時間 10分
発言者一覧
説明・質疑者等(発言順): 開始時間 所要時間
 金子一義(予算委員長) 9時 00分 01分
 猪口邦子(自由民主党) 9時 01分 40分
 斉藤鉄夫(公明党) 9時 41分 21分
 枝野幸男(民主党・無所属クラブ) 10時 02分 2時間 00分
 金子一義(予算委員長) 13時 00分 01分
 高井美穂(民主党・無所属クラブ) 13時 00分 1時間 01分
 川内博史(民主党・無所属クラブ) 14時 01分 1時間 10分
 小宮山洋子(民主党・無所属クラブ) 15時 11分 1時間 51分
答弁者等
大臣等(建制順)
 安倍晋三(内閣総理大臣)
 長勢甚遠(法務大臣)
 伊吹文明(文部科学大臣)
 柳澤伯夫(厚生労働大臣)
 甘利明(経済産業大臣)
 高市早苗(沖縄及び北方対策担当大臣 科学技術政策担当大臣 イノベーション担当大臣 少子化・男女共同参画担当大臣 食品安全担当大臣)

 10:19 枝野
 まずこどもをうみたいと思っている人が子供を安心して産むためには産科医療・周産期医療がしっかりとしていなければいけません。ところが日本では医師全体の数は伸びてはおりますが、私が公表されている統計データーで把握をできている厚生労働省の04年度の調査で、えー減っているのは、産科と産婦人科と外科だけであって、たとえば94年から04年までの10年間で産婦人科の医師は8%ダウンをしている。とこういう統計になっております。もしそのもの情勢わかっておれば厚生労働大臣お願いします。

 11:20 柳沢
 えーまぁあのあとおいおい○○委員からご質問がありますのであとから答えさせていただきますが、いま委員の私もまさしくそのとおりだと、思います。あえて申し上げさせていただきますならさる12月25日に人口の問題に関連して、合計特殊出生率1.39を目標にしたそういうまぁ政策をたてたらどうかというご質問を委員から伺いました。そのとき私は、そういうことは適切ではないと思うと、というのは結婚をする、子供をうむというのは、まさに個人の自由に属する問題であって、我々の国は、そういった自由の意思の複合体としてつくられているという風に自分は考えるからだということを、申させていただいたんです。これは付け焼刃で申したのではなくって私はその前にまぁちょっと遠い話ではありますが、昭和53年大平内閣がスタートするときに家庭基盤強化ということをタイトルに歌った政策を打ち出しました。あのときに随分議論がありました。家庭生活そのものをとりあげることではないかという議論もあった一方で、家庭に政治が入り込むことはよくない。せいぜい政治がやりうることは家庭基盤の制度なんだ。そこにとどまって頑張るべきなんだ。そういう議論が対立いたしまして、最終的に家庭基盤の整備ということが政策目標のなったとそういういきさつを私もよく承知し記憶もありますのでそのような観点から発言をしたということであります。(13:20)さて産婦人科のお医者さんの数ということでございますが、さて産婦人科のお医者さまの数は、H16のものしかございませんが、産科または産婦人科を主科とするお医者さんの数は10592人 分娩を実施した施設の総数は2933人ときいています。

 14:00 枝野
 「(略)いま数値をだしていただきましたが、今、現実リスクのある妊娠(略)リスクの高い妊娠。分娩を扱える病院が明らかに急激に大幅に減っている。これは大阪の例でありますが大阪市が4つある市立病院を3つ再編しましてそれでも病院をへらさないといけないところへきていて、人口減少の地域ははもちろんのこと都会でもリスクのある分娩出産を扱える産科の医師が減っている。という状況が背景にあるといわれている。この現状認識は厚生労働大臣にしたらお認めになりますか。(16;32)

 16:44 柳沢
 医師の数が医療の需要とどのようにマッチするかということは我々にとっては重要な課題でございます。いうまでもないことでございます。まぁ特に今先生がご指摘になられたような産科の医師の場合は出生数の減少というようなことで、実は総数としても減っているわけではありますが、出生数辺りの医師の数が減っているわけではない。だいたい横ばい状態。(17:29)ということは、そういうことを行政としてやればいいかということですが、やっぱりこれはネットワーク化というか、拠点病院を指定してですね。あとは診療所を含めてネットワーク化してリスクの発生した医療については早急に拠点病院に搬送して、こういう体制をつくるのが大事であるとなっていまして、現在周産期と周産期医療ネットワークというようなものを構成しつつ拠点病院もしっかりと整備しつつあることによって、こういうある種の効率化というか効率化というと経済的みたいですが、医療の安全性を高めながらという方向性での医療を構築しております。(18:30)

 18:40 枝野
 そういう答弁は、あきらかに現場のみなさんとずれているんではないか、と思うんですね。たしかにですね、その拠点化をしなければならないという部分もあるかもしれない。しかし先ほども申しましたけれど、出産はもともとリスクがあるとわかっている場合もありますけれど、実際に出産分娩に入って、あら急に破水ってこともあるわけでして、その場合にたとえば拠点化をして結果として身近な診療所は家から歩いて10分だけど、病院は車で10分です。そういう拠点化だったらわかりますよ。ところが現実におこっていることは島からリスクのある出産は扱える産科の医師・病院がなくなる、車で何時間も行かないといけない、実際に出産・分娩のときというのは妊婦の方だけではなくてですね、うまれた跡のお子さんのことだとか、いろんなことを考えると、配偶者である男性とか、おじいちゃんおばあちゃんとか家族とかみんな家族ぐるみでのプロセスであるわけですよね。そのときに何かあったときには救急車で二時間、たとえば都市部においてはギャクにみんな満床でそんなリスクの高い患者を運び込まれても、受けられないよって。関西でありましたよね?それで出欠死をされた妊婦さん。そういうのがつぎつぎにおこっている。だけど拠点化だから仕方ないんだ。ということで、本当に安心して生める育てることのできる社会づくりをしているとゆうことになるんでしょうか?私はまったく逆の方向に行っているんじゃと、妊婦のみなさんには健康だけではなく心理的なことも親身になってくださる医師のみなさんや助産師の皆さんが必要である。普段はこっちの病院で、いざとなったらあっちの病院行くからといって果たして実際にさぁ子供を生み育てましょうというこういうときに安心になれるでしょうか(21:37)

 21:37 柳沢
 枝野委員がご指摘いただいた離島、僻地に関しては格別の措置をいたしておりまして、出産の日が近くになったときには近くに来て宿泊して出産の日を待つ。またその運賃・宿泊費は別途の手当てをいたしております。突然何か起こったから拠点病院にいってそういうことがうまくいくのかとお話をいただきましたが、これは今それぞれの県で医療計画を策定しておりまして、医療提供体制の拠点病院を中核としたネットワーク化もしております。実は先行事例もありまして先般視察に行ってきました。E2システムといって、お医者さんが、病院のお医者さんと診療所のお医者さんが両方とも行き着け、情報が常に交換し合っている。こういうネットワーク化を実現しているところも実はございまして、こういう形で私どもの今の医療体制を安心のものにしていく努力が私には必要であると思いますし、的確に行われることが大切であると考えています。(23:27)

 23:30 枝野
 あの~、別の視点から聞きますと、先ほど私が取り上げました、04年度の厚生労働省調査の時点でですね、医師の数が減っているのは産婦人科と外科だけというふうに厚生労働省調査の結果になっています。この傾向は大きく変わっていないだろうと思います。なぜ産科、産婦人科と外科だけ減っているのか、大臣はご理解されてますか?
 
 24:15 柳沢
 え~、ま、産科はですね、先程来私も触れたかと思いますけれども、出生数の減少で医療ニーズがはっきり低減している、ということの、まあ、反映というふうに、え~、承知をいたしております。
 外科については、一般の外科という捉え方をすると確かに減少しているんですけれども、医療の専門化が進捗しておりましてですね、先生ご承知の通り、呼吸器外科、消化器外科・・・消化器内科もあるし消化器外科もあるんです、呼吸器内科もあるし、呼吸器外科もあるんです。そういうものについてですね、外科という一括りをして、まあ、あの~、統計を取ると、いうようなことをいたしておらないと、一般の外科という、つまり外科そのものが縮小しているというふうには我々は考えておりません。
 
 25:28 枝野
 あの~、これも通告しているんでたぶんお勉強してこられていると思うんですが、福島県の大野病院事件という事件の経緯、それから私この問題を法務委員会で取り上げたことありますが、その時の経緯・・・大臣は事前に勉強して頂いてきておられるでしょうか?
 
 25:57 柳沢
 え~、これはですね、大野病院事件につきましては、私ども、個別の事案であると言うことで、これは従来の慣例によりまして、ここで所見を申し述べることは差し控えさせて頂きたいということでございます。

 26:20 枝野
 この大野病院事件というのは、福島で起きた事件なんですけれども、え~、出産分娩の際に、非常にレアなケースであったようでございますが、胎盤が癒着をして、その処置のプロセスで母親が出血死をされてしまったと、大変お気の毒な事例であって、残されたご家族の皆さん、あるいはご本人の無念というものは、本当に何とも申し上げられない事件であるというふうに思います。
 で、この事件について、その執刀した産科の医師が昨年、逮捕されて・・・業務上過失致死で、起訴をされたという事件でございます。
 で、私の所にも、産科の医師ではありませんが、知り合いの医師から、こんな事件を放置しておいたらリスクのある医療に従事をする医師はいなくなりますよ、というご指摘を頂きました。
 その後、あるいは同時並行かもしれませんが、産科、産婦人科の学会等、全国の関係者の皆さんが、これはひどいじゃないかということで、厚生労働省にも要望をあげたというふうに思います。
 私は法務委員会でこの問題を取り上げまして、まだ起訴前でございましたので、私はあえて、これは、こういう場合のためにこそ法務大臣には警察に対する指揮権があるのではないかと、いうことを申し上げました。
 個別の刑事事件に今なっておりますので、起訴してしまっていますので、ま、起訴の取り下げは検察によってはできますから、それも本当はお考えを頂かなくてはいけないと思うんですが、私はあの、医師の刑事責任を甘く見ろと言うつもりは全くありません、これはあの、ご存じの方も多いと思いますけど、私はこの場で十数年前、薬害エイズ事件でむしろ医師の刑事責任をちゃんと問わないことに対して、激しく指摘をして、実際にその後医師の刑事責任を問うという形で事件が推移を致しました。従いまして、刑事責任を負うべき事件についてはちゃんと医師の責任を問わなければならないというふうに思います。

26:20~

 このケースの場合は、僻地医療であって、一人の産科の医師でその広域地域のリスクのある出産、分娩を、一人でずっと担ってこられました。そしてそれは、いろいろと専門家の方のご意見も聞かせていただいてますが、少なくとも初歩的なミスであるとか、あるいはその、例えば酔っぱらって手術をしたとかですね、道義的に許されないようなことではない・・・真摯に対応して、しかもそれがもしとことん法律的に突き詰めて、更正要件的に業務上過失致死に当たるのかどうか、ということは最終的にはこれは裁判所が決めることだとは思います、その可能性はあるからこそ検察は起訴したのかもしれません。
 しかしながら、僻地医療をたった一人のお医者さんで担っていて、真摯に対応して、しかも初歩的な医療ミスではない、高度な医療の非常にレアなケースへの対応、残念ながら力及ばずお母さんが亡くなられてしまったというケース・・・ご本人も道義的な責任を強く感じておられる。
 これを逮捕して、起訴をして、刑事処分をする・・・なるほどリスクの高い医療をやったら、全力を尽くして、真摯に全力を尽くしても結果が悪ければ刑事責任を取らされる可能性があるんだと、こういうメッセージを政府は全国の高度医療に携わっている医師の皆さんに発信をしてしまったんです。
 で、起訴をする前でしたので、こういう時のためにこそ法務大臣の指揮権という制度があるんじゃないんですかと、私は指摘をしました。そして、起訴というのは起訴便宜主義ですから、更正要件に該当したら全て起訴をするということではない、それが起訴をしなければならない、起訴するに値するかどうかというのは、検察が判断できる、その事件ごとに、と、いうことであります。

26:20~

 刑事事件になってますから、更正要件に該当して形式的には処罰対象になる事件かもしれませんが、この事件、やはりどうトータルで見てもこの今被告人になっている医師が逮捕され・・・逮捕されるということは逃亡・証拠隠滅のおそれがあるから逮捕したわけで、逮捕自体がそもそもおかしい、もし起訴するとしても在宅事件ではないかと・・・なおかつその今言った全体の医療、高度医療、リスクの高い医療に対して、触らぬ神に祟りなしということをこういう時に使っていいかどうかわかりませんが、まさにリスクの高いことをやって真摯にベストを尽くしても刑事責任が問われるかもしれない、と、こういうメッセージを発信してしまった。その後現実に、それではとてもリスクの高い産科医療やってられないよと、あるいはそんな科は選択したくないよという声は、各所で上がっています。
 こういう実態を厚生労働大臣、どう考えますか?

 32:10 柳沢
 え~、このまあ、事案については、あの~、いろいろ経緯もあるようでございますが、ここではこれを言明する、所見を述べることは差し控えさせて頂きますが、いずれにしましても、こういうことに非常に危機感を持って関係の団体等もですね、これでは困る、と、いう声を上げていらっしゃることもございます。
 で、医事紛争につきましては、産科医療に限らず、医療事故の真因究明をですね、第三者が行うということがやはり医療の透明性を増し、患者にとって納得のいく医療確保のためにも必要だというふうに考えておりまして、このような仕組みを構築するという方向で現在いろいろな検討が行われているところでございます。
 年度内を目途に、厚生省としての試案をとりまとめまして、これをパブリックコメントあるいは有識者による検討にかけまして、来年度において最終的な仕組みを確定したいということで、取り組ませて頂く予定になっております。

 33:37 枝野
 あの~・・・今後ね、医療事故について、どういうふうにするのか・・・もちろん、特に医療事故で人の命が失われているという場合については、例えばベストを尽くして、真摯にベストを尽くしたかどうかをちゃんと事務的にチェックしないといけないということはあるだろうと思います、あるいはあまりにも初歩的な平均水準以下の技量で、というようなことがあったら、それは一定のペナルティと言いますか、何らかの処置は必要だろうというふうに思います。
 だけれどそれと同時に、真摯に、誠実に最善を尽くしなおかつとても初歩的なミスとは言えないような、そういったケースが現に今、刑事裁判にかけられているんですよ。で、それに対して、厚生労働省からも法務省からも、何のメッセージも発信されていないんですよ。これで本当に・・・もちろんそれでも自分は産科の医療に使命感を持っているんだということで頑張っておられる産科の医師の方、たくさんいらっしゃいます、あるいは高度の外科の医療に携わっている方、たくさんいらっしゃいます。
 しかし、やはり傾向として、それよりも、医療ミスがあっても死亡とかという重大なことに繋がらない医療の方が無難だよねという方向にどうしても流れていってしまうのは、ある意味人間のやることですから当然だろうと思います。

 ですから、これを何とか食い止めないといけない、政治として行政としてしっかりとメッセージを出していかないと・・・
 これ、医師の養成というのはそこから何十年間に影響していく訳でありまして、他の科をやっていた人が時代状況が変わったからじゃあ産科に変わりますと簡単になれる世界じゃありませんから、あの~、例えば今現に医大に通ってらっしゃる方々がこれから数年間どういう道を選択されるのか、あるいは今現に産科の医療をやってる人がとてもやってられないよといって離れている方が現にいらっしゃる、そういって離れて数年経ってまた戻ってきましょうって、簡単にいかないわけでありますよ、しかも高度の医療に近い人ほど、つまり技術を持っている人ほどそのリスクを高く感じている・・・
 先ほど、関西で出産時出血死をされたケース、最近もあったなという話をしましたけれども、いやあうちは満床だからとかいって、リスクの高い患者さんは危ないと思ったら受け入れない方が一番無難なんです、刑事責任を問われないようにすれば。
 と、いう現実を、本当に厚生労働大臣、そんな悠長な話でいいと思ってるんですか?

 38:24 枝野
 少なくともですね、法務省とあの時私は申し上げたと思うんですが法務委員会で。ま、当時と大臣が替わってますが。厚生労働省と法務省との間で、真摯に協議をして、これがまさに現場に与える社会的影響、それから逆に法務省としての、あるいは検察を通じて持っている法と証拠の状況として、もしかすると私が情報不足で、その初歩的なこういう状況だとしても処罰に値するようなケースなのかもしれない、それは私はまさに刑事裁判の証拠をその時点で見ている訳ではない、現時点でも公判に出てきているものしか見ていませんから、ま、しかしどうも公判に出てきている状況を見ても、最初の私の判断は間違ってないなと今のところ思っておりますが、それこそ検察・法務の持っている証拠と状況と医療の現場の実態ということをせめて協議をして検討するぐらいしたらいいじゃないかと、私あの時申し上げたんですが・・・どうもされてないように思うんですが。先程来、個別の案件をうんぬんって話ありますが、実際にその後個別の案件をちゃんと法務省というか検察庁は判断しているんですよね?
 
 39:26
 あの~、横浜の無資格助産事件というのがありまして、つい最近起訴猶予になりました。この起訴猶予の理由の中に、検察は、構造的問題というのを挙げていると報道されていますが、間違いありませんか法務大臣?

 39:55 長勢
 え~、今ご指摘の事件でございますが、横浜地検におきまして不起訴処分をいたしました。その際に、一つは本件の背景には助産師偏在等を原因とする産科個人病院及び産科診療所における助産師不足があり、本件は周産期医療における構造的な問題の一端であって、事態の改善に向けて施策が推進されている分野において、被疑者らを処罰することが相当であるとは考えられないこと、その他、具体的な危険がないとか、あるいはそのうち是正措置(?)がとられているとか、あるいは退職されているとかいったような理由をあげてこれらの諸般の事情を考慮して起訴を猶予したものであるという旨の発表をしたものと承知いたしております。
 
 40:54 枝野
 報道によるとですね、今法務大臣がお答えになったように、横浜地検は構造的問題があるということも理由の一つにして起訴猶予にしている・・・起訴猶予というのは構成要件的には違法である、刑罰に該当する、けれども起訴しないという判断をした訳であって、・・・
 厚生省は、報道によるとこれは看護師による内診行為、助産師でないとできない内診行為について看護師が行っていたという事件でありますけれども、「厚生労働省は違法としているが」、ということでありますが、今のような横浜地検の構造的問題であるという指摘を受けて、どうするんですか?

 41:47 柳沢
 え~、まあ、厚生労働省としては法と証拠に基づいてこれは違法であると、いうことで、まあ、立件されることをそのままにしておいたということでございますが、判決においてですね、構造的問題をですね、いわば、理由とされた、そうした扱いがされたことについては、司法の側からもこの問題について重大な問題提起があったと、いうように受け止めております。
 これについては早急にですね、裁判に置いてですね、そのようなことを指摘されるよな、いわば行政としては恥ずかしいと、いうようなことを言わざるを得ないと思うんですが、そういう状況を早く克服しなければならないと、このように思っております。

 42:53 枝野
 あの~、正確に言いますと、裁判ではなくて裁判の前、起訴をしなかった、しかも起訴猶予ですから不起訴・・・あの~、嫌疑なしではありませんから。嫌疑なしとか嫌疑不十分とかではありませんから、犯罪には当たる、当たるけれども起訴をしない。その理由として構造的な問題として・・・つまり、犯罪には形式的には当たるけれども、起訴をしないということの理由として、いわば、そういう露骨な表現でありますが厚生労働省の怠慢を指摘されてるんですよっ。
 その、その危機感が、今の御答弁から全く感じられないんですよ。
 危機感、必要じゃないですか。
 これがですね、厚生労働省の顕示している方針の通り、看護師が内診をすると・・・助産師に代わってするということが、いけないことだ、よくないことだ、危ないことだと考えるならば、早急にそれに代わってどうするのかしなきゃならないし、そうではなくて、いや何らかの条件をクリアすれば看護師でもいいんだということであるならば、それはそれでこうして現場で対応してやっている病院・医師あるいは看護師が、その刑事罰の危険にさらされないで安心して仕事が出来るように、どっちか早急にしなきゃいけないじゃないですか、どっちにするんですか!?

 44:19 柳沢
 失礼しました、これは起訴猶予ということであれば、これは検察官の判断ということでございますので、その点は訂正致します。
 先ほど申したように、そうしたことを、仮に検察官であれ、指摘をされて、いわば省の処分を差し控えると、いうことはやはり我々の行政に対して重大な問題提起をしているということでございます。
 今、議員は、そもそもそうしたことを許してしまう、そういう法改正をすればいいじゃないかと、いうようなことを選択肢の一つとして申されたように私はお聞きしましたが、しかし私はやはりそうしたことはなすべきではないと、このように考えておりまして、我々は、看護師資格を持ちながら同時に助産師資格を持つ、これは両者を養成する過程等に顧みられればそんなに難しいことではない訳ですから、至急にですね、夜間の講習か何かによりまして、看護師資格を持つ者に助産師資格を与えるというような再教育を早急にやるべきであると、このように考えております。

 45:35 枝野
 あの、時間があれば後でやろうと思っていますが、私、助産師さんの、看護師さんとは別の・・・何というんでしょう、知識、技能というものをもっともっと生かさなきゃいけないと思っていますので、助産師さんが不足しているのであれば、その養成ということに早急に取り組む、それはまさにその通りでありますが、まさに最初の柳沢さんの例の松江での発言の、女性が頑張って欲しい・・・
 頑張るのは女性の前に厚生労働省なんですよ。これも、厚生労働省の今までの厚生行政のツケを現場の医師・看護師に押しつけてるじゃないですか。
 いや、これから養成するにしたってですよ、養成されて実際に現場が構造的な問題と検察から指摘されないようにしっかりと数がそろって、どの病院でも必要な助産師さんがそろうというまでに何年かかるんですか?
 その間、実際に目の前の患者さんを抱えている病院は、患者さんを抱えているけど助産師は足りないと、だけれども目の前に患者さんがいるんだからそれは対応しなきゃならないと、そういうことの中で形式的には違法であると、形式的には違法であるけれどもそれをやらなければ現場が回らない、そのツケを現場の病院に押しつけているんですよ。
 そういう発想が、こういう社会政策にとってあべこべだと言っているんですよ。
 どうするんですか、養成、育成する、何年かかるんですか?
 そろうまでに。構造的な問題が解消されるまでに。
 その間、違法な状態、どうするんですか?
 いやあ、じゃあ違法じゃない状態で、実際に患者さんが来ても、うちは助産師さんが足りないから他へ行って下さい、ということで、たらい回しするんですか。
 どうするんですか!?

 47:34 柳沢
 もちろん、中期的というか、先生は時間が掛かるというのであえて私は中期的というお話しをさせて頂きますけれども、厚生労働省としては先ほど申し上げるように看護師に特別な研修をして助産師資格も持って頂くと、これも一つの方法です。
 それからまた現にですね、現役を引退している助産師さんを再研修して、至急即戦力の現場に戻って頂くと、こういうことも考えておるわけでございます。
 同時に、先程来申し上げております通り、とにかく拠点病院を中心とするネットワークシステムというものを構築致しまして、これに対して対応していく。これは周産期医療につきましてもそうですし他の医療についてもそうした考え方で、とにかく医療を今までのようにポツポツと独立して切り離されて存在している病院あるいは診療所の問題ではなくて、その地域全体のネットワークの中で、医療ニーズをきっちりと対応していく、こういうようなことを考えているということでございます。

 49:00 枝野
 答えて頂いてないんですよ。
 現場の病院はどうすればいいんですか?
 厚生労働省の05年12月に出している看護職員需給見通しでもですね、助産師について、平成22年で1000名不足をする、厚生労働省自身の需給見通しでも平成22年で1000人不足すると、出ているんですよ。現場の実態からすれば、これの平成18年度の需要見通しと供給見通しと、ま、こういうところで需要と供給と使っていいのかと人の問題なんでそもそもそう思いますけれども、厚生労働省の文章にそう書いてありますからそのまま読みますが、1700と出ているんですが、現場の実態こんなもんじゃないですよ、助産師さんの不足は。その甘い見通しに基づいても、そして5年後の22年でも1000名不足すると言っているんです。
 その間、これ実際に検察から書類送検をされているんですね、病院は。
 書類送検されているけれども、構造的な問題だから、起訴は勘弁してあげましょうと言われているんですね。でも構造的な問題だから、この病院はもしかするとこういう事件で書類送検されたから、助産師さんを何とかかき集めてやるかもしれないけど、構造的な問題なんですからどっかでやっぱりまた同じように書類送検されるかもしれない、今度はもしかすると起訴されるかもしれない、だけど助産師さんは実際足りない、こういう状況が数年間放置されるんですよ。
 そのツケを現場に回すんですかと、聞いているんですよ!?

 50:34 柳沢
 これは、重ねての答弁になりますが、今のシステムを、各診療所あるいは病院がバラバラにあまり連携しないで対処しているというものを、もっとネットワーク化していろいろなところに円滑に、一番適切な医療を受けられる所に患者さんを持って行く。こういうことによって、需給の、まあ確かに需給という言葉を使ってはいけないのかもしれませんけれども、マッチというものを、我々としては的確に計っていきたいという施策を当面追求している、もちろん、マンパワーの不足についてもこれを軽視するとか等閑しているとかではなくて、それはそれとして対処しようとしている。その両面から対処している、というのが現状であります。

 51:42 枝野
 あの~、ネットワーク化・拠点化自体の話、先程来私はそれ自体がこのケース、このケースというのは産科医療について、どれぐらい意味があるのかということ自体疑問に思っていますが、仮にそれがあったとしてもですよ?、助産師さんというのは、その拠点病院のような大きな、つまりリスクのある患者さんについて妊婦さんについて対応すべき病院にだけいればいいんじゃなくて、まさに日常の、かかりつけ的診療所においても、内診等について医師か助産師でなきゃできないことになっていて、その特に診療所における、診療所における助産師の充足率・・・基準に対しても何人いるのかということについても、大幅に不足しているんですよ。
 だからネットワーク化が解決策にはならないんですよ。