ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師不足受け「里帰り出産」を制限 中津川市民病院 (中日新聞)

2007年02月12日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地域の分娩施設がどんどん減ってしまい、最後の最後に1つだけ残った施設に、地域の妊産婦さんがすべて集中するようになったにもかかわらず、常勤の産婦人科医の数は従来通り2人のままで据え置きという状況のようです。

いくら「里帰り出産」をすべて断ったとしても、常勤の産婦人科医が2人だけで、地域のハイリスク症例もすべて受け入れて、年間900件の分娩を扱うというのでは、お二人の先生方の勤務状況が、あまりにも厳しくなり過ぎるのではないか?と心配です。

参考:中津川市民病院での「里帰り分娩」に対するお願い中津川市公式ホームページ

****** 毎日新聞、2007年7月21日

託したい:07参院選・岐阜/1 医師不足

 年金問題や格差問題など、国政を大きく揺さぶる争点が浮き彫りになってきた参院選も、中盤戦に突入する。県内だけでは解決できない問題を国会へ届け、政策として生かすのが国会議員の役割でもある。県が抱える課題を追った。

◇広がる地域格差

 恵那市内で唯一、分べんを扱っていた「恵那産婦人科」を今年5月、22年間務めてきた1人の産婦人科医が辞めた。一杉明員(あきかず)医師、60歳。「今夜、自分の身に何かあったら、患者はどうなるのか」。1人で24時間対応しなくてはならない緊張と体力が、還暦を迎えた自分にはなくなっていた。考え抜いた末の結論だった。

 1人の産婦人科医が年間に扱う分べん数は100~150件が理想と言われる。一杉医師は平均約450件に及んでいた。一杉医師の退職で、同医院は閉院に追い込まれた。いま恵那市には、分べんできる産婦人科は存在しない。

   ◇

 土岐市立総合病院は、唯一の常勤医だった産婦人科部長(39)の退職で、今年9月から産婦人科を休診することを決めた。後任が見つかり次第、再開する予定だが、医師確保の見通しは立っていない。飛騨市民病院でも今年4月、常勤医が11人から6人に減り、小児科の常勤医がいなくなった。

 医師不足の進展にあせる県は同月、「県地域医療対策協議会」を設立し、医療関係者らとともに医師確保や病院支援などの議論を始めた。だが「国の医療費削減と医師数抑制政策が招いた結果。県や病院ができることはほとんどない」との声が上がる。医師の卵が研修先を選ぶ「研修医制度」も医療の地域格差を招いた。医学部生は卒業後4年間、研修医として勤務するが、選ぶのは最先端の医療技術を学べる都市部の病院が多い。結果、地方には研修医が来ず、現場の医師の負担が重くなっている。土岐市立総合病院の加藤靖也事務局長は「地方の医師不足の波は止められない。ならば、地方の中核都市に医師を集めて手厚い医療体制を整える方が、医師の負担も減り患者にも充実した医療を提供できるのではないか」と話す。

   ◇

 一杉医師は今年6月から、中津川市民病院(中津川市)で勤務を始めた。3人の医師が常勤している。「患者に責任ある医療を提供できる。恵那を辞めてよかった」と思うという。今月、同病院で出産した母親は以前、一杉医師が恵那で取り上げた赤ちゃんだった。「赤ちゃんが母親になるまで、医師としてずっと成長を見守れる。地方医療だからこそ味わえる感動とやりがい」。自分の口から出た言葉と現実とのギャップに、一杉医師はうつむいてしまった。

(毎日新聞 2007年7月21日)

****** 中日新聞、2007年2月11日

医師不足受け「里帰り出産」を制限 中津川市民病院

 東濃東部2市の産科医師不足を受け、中津川市は臨時に「里帰り出産」の市民病院での受け入れを5月以降制限することを決めた。恵那市の開業産婦人科医院が4月限りで診療を休止することを受け、この地域から“お産難民”を出さないための窮余の策。産科医師の確保を急ぐとともに、緊急事態への理解を求めている。

 恵那、中津川両市はここ数年、3医療機関で4人の産科医師が年間約1000件のお産を取り扱ってきた。中津川市民病院ではこのうち2人の産科医師を擁して昨年度は450件を扱い、本年度は500件を超す勢い。そこで、恵那市の開業医師が診療休止すると、900件前後を2人の医師で扱う緊急事態が予測されている。

 医師の勤務状況のさらなる悪化はお産のリスクを高め、医師が倒れるケースも予測されるため取扱件数の制限が必要になる。しかし、単純に人数を制限すると、地元でお産できない「お産難民」を生み出す可能性があるため、「里帰り出産」制限の策を選んだ。

 市の広報やホームページに掲載したところ、不満の声も寄せられているが、地域の産科事情を説明して理解を求めている。

 医師不足の背景として、臨床研修医制度により新人医師が都市部に集中することや、リスクの高い産婦人科を志望する人が減ったことがあるとみられる。同市民病院では「出産の機会の里帰りを楽しみにする親御さんの気持ち、中津川に愛着を持ってもらう機会を逸することは痛いほど分かるが、それ以前の瀬戸際にある。解除に向けて第一条件の医師の確保に手を尽くしたい」としている。【山本哲正】

(中日新聞、2007年2月11日)

****** 岐阜新聞、2007年1月31日

里帰り出産の受け入れ制限 中津川市民病院

 中津川市は30日までに、同市駒場の市民病院に開設している産科について、今年5月から、同市出身の妊婦が実家に戻って出産する「里帰り出産」の受け入れを制限する方針を明らかにした。

 隣接する恵那市に唯一ある産院が5月以降の出産受け入れを停止することから、地域医療として市民病院が担う両市在住の妊婦の受け入れを優先させるためで、中津川市は異例の措置に理解を求めている。

 中津川市と恵那市の産科医療は、中津川市民病院と両市に1施設ずつある民間の産院が担い、3施設で4人の産科医が年間計約1000件の出産を担当している。年間約400件を行ってきた恵那市の産院で受け入れ停止が続いた場合、中津川市の2施設で産科医療を行うことになる。

 同市民病院は2人の産科医がいるが、2002(平成14)年度に340件だった出産が05年度は450件で、年々増加傾向にある、このため、受け入れの増加は産科医の負担を増やし、出産の安全確保や産科の維持が困難になると判断し、「里帰り出産」の受け入れ制限を決めた。

 同市民病院は、大学病院などに医師の派遣増員を働き掛けているが困難な状況で「地域で暮らす妊婦の受け入れを優先する必要があると考えた。里帰り出産を予定している人は居住地での出産をお願いしたい」としている。受け入れの制限は同市の広報やホームページに掲載して伝えている。

(岐阜新聞、2007年1月31日)

****** 中日新聞、2007年1月19日

恵那市内 産科医ゼロの危機 4月で不在に、派遣要望進展なし

 恵那市で開業する唯一の産婦人科医院が4月限りで診療を休止することになり、同市の産婦人科医がゼロとなる可能性が高まっている。市は市内で働いてもらえる産婦人科医を探しているが、めどが立っておらず「お産がしにくくなれば、地域の人口減や少子高齢化に歯止めがかからなくなる」と危機感を募らせている。 (鈴木智行)

 診療を休止するのは、同市長島町中野の「恵那産婦人科」。同病院によると、五月から産婦人科医が不在となる見込みとなったため、お産は四月までしか受け付けていない。病院は閉鎖しないが、後任の医師が見つかるまで休むという。

 もし休止が続けば、市民は市中心部からでも車で三十分近くかかる中津川市、瑞浪市などの医療機関でしか出産ができなくなる。休止を知った市内の主婦からは「当面、次の子どもを産むのは控えた方がいいのかしら」という不安の声も上がっている。

 山間部の過疎化が進む恵那市は、新総合計画で二〇一五年の人口を現在から約二千人減の五万五千人にとどめる目標を設定。昨春には少子化対策推進室を設置するなど力を入れていただけに「(同病院に)何とか続けるようお願いしてきたが…」と頭を抱える。

 市は同病院の診療休止を把握する前から、市幹部らが厚労省や県外の医療機関に出向き、市立恵那病院などへの産婦人科医派遣を要望しているが、具体的な話は進んでいない。市は「努力を続けていきたいが、全国的な産科医不足は深刻。今後は首長らの協力で、自治体の枠を超えた医療態勢の構築も必要になる」としている。

 <県内の産科の状況> 県などによると現在、県内で産科医がいない市は本巣市だけだが、近くの岐阜市や北方町の病院で出産ができる。また、美濃市は、市立病院で、週二回大学病院から婦人科医が来て診察、山県市や飛騨市の病医院では婦人科の診療はしているが、三市ともお産はできない。

(中日新聞、2007年1月19日)