コメント(私見):
多くの分娩を取り扱ってきた産婦人科の一つが分娩の受け入れを休止すれば、近隣の病院の産婦人科に地域の妊婦が集中することになり、近隣病院の労働環境も急激に悪化します。
今は、どの病院の産婦人科でもギリギリの体制で維持されてますから、急激な業務量の増加にはそうそう簡単に対応できません。それどころか、労働環境が急激に悪化してスタッフの中に離職者が続出するような事態となれば、それまで順調に運営されていた病院の産婦人科であっても、一気に分娩の受け入れを休止せざるを得なくなってしまうこともあり得ます。
そして、今、全国各地で、分娩できない地域(お産空白地帯)が急速に拡がっています。
絶滅の危機に瀕している近隣の病院間で、病院の生き残りを賭けて少ない医師を奪い合っていれば、共倒れの危険性が高くなっていくだけです。分娩を取り扱う病院の数を維持することにこだわっても、現場のスタッフがどんどん辞めてしまうような施設ばかりでは全く意味がありません。
現実を直視し、分娩を取り扱う病院の数を維持することよりも、まずは、『産婦人科医師数の減少をくい止めるためにはどうしたらいいのか?』を最優先に考えていく必要があります。
今は何よりもまず、現場で辞めずに必死に頑張っている産婦人科医、小児科医、麻酔科医などのトータルの数を維持することが最も重要だと思います。
****** 読売新聞、2007年11月20日
11月20日付 よみうり寸評
案ずるより産むがやすい――物事は初めはあれこれ考え心配なものだが、いざ実行となると案外簡単だということ。取り越し苦労をするなという慰め、決断の勧め、事後の述懐などの言葉になる。お産に例えたものだが、近ごろは比喩(ひゆ)のもとであるお産の方が何やらあれこれ心配しなければならない状況になっている。
先日の読売新聞の全国調査によると、昨年4月以降に出産の取り扱いを休止した病院が全国で少なくとも127か所に上る。また来春までに休止の方針という病院が12か所あった。合わせて出産を扱う病院全体の約1割。産科医不足の深刻な反映。お産の「空白地帯」が広がった。
1994年に1万1391人いた産婦人科医は2004年には1万594人で約7%の減。妊婦が集中する病院では勤務医の労働環境が悪化、救急搬送拒否の問題もある。産科医不足の背景には、激務に加えて、訴訟リスクの高いこともある。
厚生労働省は「医師の偏在はあるが、不足はない」という立場だったが、もうそれは通らない。
案ずるより産むはやすくない。
(読売新聞、2007年11月20日)
****** 熊本日日新聞、2007年11月20日
未管理妊婦36人、23人が緊急出産 06年県内
一度も健診を受けないまま容体が悪化し、急きょ産婦人科で治療を受けた「未管理」の妊婦が二〇〇六年の県内で三十六人おり、そのうち二十三人は緊急出産していたことが二十日、県の調査で分かった。県は「妊娠二十四週の早産など極めて危ないケースもあった。妊娠・出産のリスクをもっと啓発する必要がある」と話している。
今年八月に奈良で起きた妊婦のたらい回し事件を契機に、県内の全産婦人科八十四施設にアンケート。そのうち七十三施設が回答した。
三十六人のうち一人が即日入院、二人が別の施設に搬送や紹介され、十人は外来治療後に帰宅した。妊娠三十七週以降の「満期」を迎えていたのは二十二人。たらい回しになったケースはなかった。
未管理の理由は「経済的理由」が最多の十五人、「未婚、婚外の妊娠だから」が十二人、「受診が遅れた」が六人だった。年齢別では三十代前半が十人と最も多く、二十代前半と同後半がそれぞれ八人、十代は五人。
県健康づくり推進課は「約一万六千人の出生数と比べると割合は高くないが、命にかかわることなので注視している。特に十代では未婚が目立つ。思春期の性教育の充実を学校などに働き掛けていきたい」と話している。【梅野智博】
(熊本日日新聞、2007年11月20日)
****** 読売新聞、2007年11月19日
飛び込み出産 病院悲鳴
「お金かかる」未受診の妊婦増加
妊婦健診を受診せず、陣痛が始まって初めて病院に駆けつける「飛び込み出産」の増加に対し、「健診を受けていないため、母体と胎児の状態が分からず、責任が持てない」と病院側に困惑が広がっている。
搬送拒否、2年で4倍 「責任持てぬ」
総務省が先月まとめた救急搬送の実態調査では、飛び込み出産を理由に医療機関に搬送を拒否された回数が、2006年は延べ148件と、04年の4倍になった。経済的な理由で健診を受けていないケースも多いため、自治体が健診費用の助成に乗り出しているが、まだ自治体間で格差があるのが実情だ。
「お金がかかるし、糖尿病で中絶を勧められるかもしれないから、妊婦健診は受けなかった」
10月中旬の深夜。夫に連れられ、埼玉県の川口市立医療センターに突然やってきた20歳代の女性は、健診を受けてこなかった理由をそう説明した。母子手帳もなく、最初は母体や胎児の状態が全く分からない。当直の医師が診察した結果、妊娠38週と判明。胎児の心音に乱れがあったため、翌朝、帝王切開手術で出産した。
女性は初産で、市に妊娠の届けを出していなかったため、川口市の場合だと2回まで無料で健診を受けられることも知らなかった。
別の病院関係者が打ち明ける。「飛び込み出産した後、出産費用を払わない人は病院によって3~5割にも上る。病院にとっては、経済的なリスクも大きい」
今月8日、横浜市内で医療者と救急関係者を集めて開かれたシンポジウムでは、昨年8月に妊娠30週で切迫早産になった30歳代の妊婦が、健診を受けていないことを理由に11病院から搬送を断られたケースが紹介された。最終的に12病院目での受け入れが決まるまで、1時間15分を要したという。
救急救命士は「何とか受け入れてもらいたいと、病院に電話しても、『そんな無責任な妊婦を連れて来るな』と怒られることもある」。医師側からは「妊娠何週目かや合併症の有無などを基に(自分の病院で)受け入れ可能かどうかを判断しており、母体と胎児の状態が全く分からない妊婦を安易に引き受けることは出来ない」との意見が出された。
病院側の負担は深刻だ。神奈川県内の大学病院など8基幹病院で扱った飛び込み出産は、03年の20件から年々増え、06年は44件。今年は4月までに既に35件で、100件を超える勢いだ。横浜市大の平原史樹教授(産婦人科)は「飛び込み出産の急増で救急病院の負担が大きくなり、本来の業務に支障をきたしている」と困惑を隠さない。
出産を取り扱う医療機関の減少で、出産出来る病院を見つけられずに飛び込み出産になるケースもあるという。だが、同大付属市民総合医療センターの小川幸医師は、多くは〈1〉妊娠への対応が分からなかった若い未婚女性〈2〉低所得の(すでにお産を経験した)経産婦〈3〉不法滞在の外国人――の3パターンだと分析する。合併症やアレルギーを持つ妊婦も多い上、早産や未熟児の生まれる割合が高いなどリスクは高く、生まれた三つ子が全員死亡したケースもあるという。
平原教授は「健診は母体と胎児の状態を把握する大切なもので、受診しなければ出産のリスクは一気に高まる。受診を促す体制整備も必要だ」と話した。
健診助成 自治体で格差 秋田10回、大阪1.3回
妊娠は病気ではないため、1回あたり数千円から1万円程度かかる妊婦健診は、自己負担が原則だ。健診の回数は、13~14回程度が望ましいとされているが、このうち市町村の負担で一部または全額無料で受けられる回数は、全国平均2・8回。最も多い秋田県は平均10・0回、最も少ない大阪府は同1・3回と、自治体間の格差が大きい。
厚生労働省は今年1月、健診を受けない妊婦が増えている実態を踏まえ、最低でも5回程度は公費負担するよう各都道府県などに通知した。同省によると、全国1827市区町村のうち、今年度から公費負担の回数を増やしたか、増やす予定なのは約23%。59%が来年度以降に増やすことを検討しているという。
(読売新聞、2007年11月20日)
****** 千葉日報、2007年11月18日
19病院で産科消える
医師不足が深刻化 県内
国の医療制度改革が本格化してから、県内で産科があった十九の病院で、廃院もしくは産科の廃止・休止が相次いでいる。救急搬送中の妊婦が十数回も受け入れを断られた事例も発覚、国は医師の偏在を主張している中で、いずれの病院も廃止・休止の理由を「医師が確保できない」と口をそろえており、産科医不足が急速に進んでいることが浮き彫りになった。
県医療整備課によると、二〇〇二年度から開院した産科・産婦人科のある病院は八千代市の東京女子医大八千代医療センターのみ。一方で、廃院したのは大多喜町の川崎病院をはじめ四病院。産科・産婦人科を廃止したのは、八千代市のセントマーガレット病院など六病院。産科・産婦人科(ぶんべつ)の看板を掲げながら分娩できない休止中の病院は船橋市の千葉徳洲会病院など九病院。
「廃止」とされた千葉社会保険病院は「あくまで休止。医師がいればすぐにでも再開したい」と反論するが、「退職をした後の補充がない。非常勤の先生しかおらず、お産ができない」と嘆く。
国保匝瑳市民病院は「休止として医師の募集はしているが、産科病棟はなくなっている」と事実上の廃止を認めた。〇三年一月には小児科も休止していることから、「他の科も医師確保が難しくなっている。特に産科は二十四時間体制で仕事が厳しい」と話した。
また、白井市の白井聖仁会病院は、一九九六年十二月に分娩を取りやめていたといい、県も県内全体の実態を把握しきれていない。
事実、「休止」とされた千葉市若葉区のみつわ台総合病院は、「すでに保健所に再開する考えはないと届け出た」とし、銚子市立総合病院は「助産師も辞めた。(産科病棟の)療養病棟への切り替えを検討中」という。
妊婦の受け入れ拒否問題について同課は、「かかりつけ医がないケースだった」と廃止・休止の増加との関係は否定。ただ、産科・産婦人科医師の不足は「医療訴訟も多い。労働環境も厳しい」と分析した。
国がまとめた二〇〇二年と〇四年の県内産科・産婦人科医師数の比較では十二人増えているが、病院の廃院・廃止・休止は〇四年以降がほとんど。
同課は「国は医師不足ではなく、偏在しているというが、現場は不足しているという声しかない」と国のとらえ方に首をひねった。
(千葉日報、2007年11月18日)
****** 神奈川新聞、2007年11月18日
産科医療機関と産科常勤医、ともに過去5年で最大の減少/神奈川県内
県内で分娩(ぶんべん)を扱う産科医療機関がこの一年間で十五施設減少し、産科常勤医も三十五人減ったことが、県産科婦人科医会(八十島唯一会長)の実態調査で分かった。ともに過去五年間で最大の減少幅で、激務を背景とした産科医の「お産離れ」が一段と進んだ形。少子化に伴う出生減のペース以上のため、限られた産科に出産が集中。現場が疲弊し、担い手がさらに減る悪循環に歯止めがかからない。
実態調査は同医会加盟の病院や診療所を対象に年一回行われ、これで三回目。今年七月現在の常勤医数や二〇〇六年の分娩実績などを尋ねた。
それによると、〇六年一月から今年七月までに分娩を一件以上扱ったのは百三十八施設(病院六十八、診療所七十)。百五十三施設(病院七十五、診療所七十八)だった前回調査以降、横浜と川崎で各三施設、平塚と相模原で各二施設、横須賀、鎌倉、藤沢、秦野、寒川で各一施設減った。
【1】人手不足の大学病院から産科医が派遣されなくなる【2】開業産科医が高齢化し、婦人科診療などに特化する-のが主な理由。横浜市大病院産婦人科部長の平原史樹教授は「(帝王切開で女性を死亡させたとして産科医が刑事責任を問われた)福島県立大野病院の事件や横浜市の堀病院への強制捜査が及ぼした影響も大きい」と指摘する。
分娩を扱う県内の産科は〇二年に百七十四(病院七十一、診療所百三)を数えたが、五年間で約20%減少。この間、常勤医も五百十五人から四百四十一人へと七十四人(約15%)少なくなった。一方、分娩件数は七万二百六十二件(〇二年)から5%程度しか減っておらず、分娩を続ける産科がしわ寄せを受けている。
調査に当たった小関聡医師によると、「一人や少数の産科医でなんとか維持している病院も少なくない」という。
苦肉の策として、女性が実家近くの産科で産む「里帰り出産」や分娩予約を制限する動きが進むが、負担軽減にはつながっていない。調査を基に試算した〇六年の常勤医一人当たりの年間分娩件数は、横須賀(一七七・六件)や湘南(一七五・一件)、西湘(二七二・一件)などで県平均(一四三・九件)を上回り、地域格差も拡大している。
横浜市栄区や川崎市麻生区、厚木市などで調査後に分娩を休止した産科があるほか、横浜市緑区や三浦市、寒川町では十年以内に出産ができなくなる見通し。同医会は「危機的状況」と訴える。
(神奈川新聞、2007年11月18日)
****** 朝日新聞、2007年11月17日
「飛び込み出産」が急増、経済苦や産科施設減が背景
妊婦健診を一度も受けず、生まれそうになってから病院に駆け込む「飛び込み出産」が増えている。今夏、奈良など各地で妊婦の搬送受け入れ拒否が発覚したが、病院側が断った理由の一つは「未受診」だった。医学的にもリスクが高く、振り回される医師からは「妊婦としての自覚をもって」との悲鳴が上がる。背景には経済苦や産科施設が減って遠くなったことなど、様々な格差が横たわる。
◇
「破水した」――。
大阪市浪速区の愛染橋病院に、40歳代の女性がいきなり訪れたのは7月上旬の夜。妊娠30週で一度も妊婦健診を受けていなかった。そのまま入院、2日後、帝王切開で出産。早産のため、赤ちゃんは新生児集中治療室(NICU)に入った。
その10日ほど後にも、この病院に未受診妊婦が救急車で運ばれてきた。妊娠40週。すでに産道が開きかけており、到着30分後に出産した。
同病院によると、今年1~7月、20週以上で未受診のまま陣痛や異常を訴えて駆け込んできたのは、19歳~40代の18人。「妻が無職で夫の欄が空欄」か「夫婦ともに無職」が11世帯、生活保護を5世帯が受けていた。同病院など府内2院が96~00年に受け入れた205人のうち、カルテから未受診の理由が分かる99人の半数が「経済的理由」をあげた。
神奈川県産科婦人科医会が、周産期救急搬送システムの八つの基幹病院を調べたところ、03年に20件だった飛び込み出産が、07年1~4月には35件。通年では100件を超える見込みだ。
同県内では産科医不足などで昨年度、7病院が産科を閉じた。調査をまとめた横浜市立大学の平原史樹教授は「妊娠は病気ではないという安全神話が広まったところに、分娩(ぶんべん)施設の相次ぐ閉鎖が追い打ちをかけた。健診費が比較的安い公立病院から産科が撤退、収入が少ない若い貧困層が健診を敬遠している。経産婦も上の子の手を引いて遠くの病院を受診するのはおっくうなのでは」。
●現場は疲弊●
未受診出産は、医師不足でかつかつの現場をさらに疲弊させている。
日本医科大多摩永山病院が、未受診妊婦41人を分析したところ、子が死亡したのは4例。周産期(妊娠22週~生後1週間)の死亡率は、通常の約15倍だった。11人が出産費用を支払っていなかった。
調査した中井章人・同大教授は「医学的にハイリスクで、高次医療機関でしか対応できない。未収金のリスクもあり、病院側の負担が増す」。
奈良で11病院に搬送受け入れを断られ死産▽千葉で16病院に断られ切迫流産▽大阪で19病院に断られ自宅出産。8月から相次ぎ発覚したケースはいずれも未受診妊婦だった。
搬送受け入れ拒否問題を受け、奈良県立医大が緊急調査をしたところ、同大学病院への飛び込み出産は98~06年に50件。98年の3件が、03年に11件と3倍以上に増えていた。妊婦・新生児ともに異常は多く、妊婦の胎盤早期剥離(はくり)は2人で通常の10倍、呼吸障害など治療が必要な新生児は19人と通常の約20倍だった。同医大産婦人科の小林浩教授は「未受診だとリスクが非常に高い。妊婦さんも家族もそのことをよく知って、必ず健診を受けてほしい」と話す。
●少ない助成●
ただ、未受診の背景には経済苦が広がる。生活保護の出産扶助で現金支給を受けた人は、97年の839人から06年には1396人に。これとは別に、低所得者の出産費に自治体が配布する「助産券」を利用した人は97年の3392人から05年には5756人に増えた。受診できる態勢づくりも必要だ。
妊婦健診は1回5千~1万円程度かかる。出産までに14~16回受診する必要があるが、自治体の公費助成は平均2.8回。厚生労働省は今年1月、5回程度が望ましいとしたが、多くの自治体が財政難などを理由に回数増には踏み切っていない。特に関西は1回の自治体が、大阪32、兵庫19、奈良24と低調だ。
大阪府の阪南中央病院産婦人科の加藤治子医師は、最近、こんなケースに遭遇した。「派遣社員で妊娠を機に退職したが、前年度に課税所得があり、助産券が交付されなかった」「国民健康保険の滞納があったため、出産一時金はその解消に充てられた」
茨城県立医療大学の加納尚美教授(助産学)は「国は妊娠・出産に関し最低必要な医療内容と費用を算出し、その部分は公費で手当てしてほしい」と話す。
(朝日新聞、2007年11月17日)
****** 読売新聞、関西発、2007年11月17日
兵庫・明石市民病院産婦人科 入院と出産業務休止へ 常勤医減で来年6月から
兵庫県明石市立市民病院(佐々木享院長、398床)は16日、常勤の産婦人科医が3人から2人に減るため、来年6月から入院と出産業務を休止すると発表した。すでに予約を受けている患者については対応するが、新規の患者の受け入れはしない。同病院は診療体制の見直しも検討しており、「県医師会や大学への要請などを通じて、早期に再開できるよう努めたい」としている。
同病院によると、2005年4月に常勤の産婦人科医が4人から3人に減少した。06年にはさらに2人が退職したため、京都府立医科大(京都市)などから2人の派遣を受け、3日に1回の泊まり勤務をするなどして急場をしのいでいた。
しかし、うち1人が08年5月末で契約が切れ、新たな医師も見つかっていないことから、「常勤医2人では24時間体制で取り組むお産に対応できない」と判断、休診を決めた。
昨年の明石市への出生届2779件に対し、同病院で扱った出産の数は441件。市内の分娩(ぶんべん)可能な病院はほかに6病院あるが、市民病院は中核病院としての機能を果たしており、今後、リスクの高い患者は、県立こども病院(神戸市)や加古川市民病院へ搬送されることになる。
また、常勤医が2人になることで、通常業務への負担も増えることから、同病院は「新たな医師が確保できない場合、産婦人科を婦人科だけにするなど、診療体制を見直す必要もある。年明けには対応を決めたい」としている。
兵庫県内の産科医療を巡っては、医師不足などを理由に西宮市立中央病院や高砂市民病院、小野市民病院などが産科を休診している。
(読売新聞、関西発、2007年11月17日)
****** 神戸新聞、2007年11月17日
明石市民病院が出産休止 早期の再開は困難
医師不足、明石でも-来春以降の産科医が確保できず、来年六月から、出産受け入れの休止を決めた明石市立市民病院。病院側は「医師を確保し早急に再開したい」とするが、早期の再開は困難な見通しだ。合併症などリスクの高い妊婦も受け入れてきた中核病院での出産休止に、市内のある病院の産婦人科医師は「どの病院も産科は医師不足。(妊婦を)受け入れる負担は大きい」との悲鳴も聞こえる。(川口洋光、永田憲亮)
市民病院の産婦人科常勤医三人は、夜間当直勤務を三日ごと、月に八回こなす。当直明けでも、午前中から再び外来診療を担当し、手術などが入れば引き続き夜まで勤務することもある。
同病院事務局は「連続三十時間以上の当直勤務がある。お産には年末年始や土日も関係ないので、休みにくい」と勤務の過酷さを訴える。
同病院は地域医療の拠点として、出産に二十四時間対応するため、産科医一人が夜間に常駐する。常勤医師はかつて四人いたが、二〇〇七年四月から三人に。
非常勤医師が週に一回宿直を担当するが、ぎりぎりの態勢で勤務を回してきた。「常勤医三人は最低人数。二人以下だと診療が成り立たない」と和田満・事務局次長はため息をつく。
■リスク伴う出産、市外受け入れも
十八の診療科と約四百床のベッド数を有する市民病院は、地域の中核病院として一次、二次医療を担う。産婦人科は、昨年一年間で四百四十一件の出産を取り扱った。
自然分娩(ぶんべん)だけでなく、妊婦が合併症でほかの診療科との連携や高度医療設備が必要な場合の出産にも対応。「市内産婦人科病院のバックアップ」(同病院事務局)にも当たる存在だった。
しかし、出産の中止で今後は市内外のほかの医院、病院に頼らざるをえない。リスクが伴う出産のケースは、態勢が整う県立こども病院(神戸市須磨区)や加古川市民病院(同市米田町)が受け入れ先となる可能性が高いという。
(神戸新聞、2007年11月17日)
****** 毎日新聞、島根、2007年11月17日
県立中央病院:出産予約、1月から制限 母子医療センター機能、維持限界に
◇分娩増加で
県立中央病院(出雲市)は早産や帝王切開が必要なハイリスクの患者への対応能力を維持するため、来年1月以降、出産予約の制限を始める。同病院は県内唯一の総合周産期母子医療センターの指定を受けているが、近年は県内の分娩(べん)施設の減少や里帰り出産の増加で、通常分娩への対応も急増。分娩受け入れを制限することで、同センターとしての機能を維持することが目的だという。
予約を制限するのは、里帰り出産などで途中からの受診となったり、同病院での初診が遅かったケース。妊娠初期から通院する妊婦や、他の病院からの紹介者、早産などハイリスク出産には、従来通り対応する。
里帰り出産の増加、妊婦の総合病院志向などで、同病院では00年度以降に産婦人科での出産対応が急増。年間900件前後で推移していたが、06年度は1099件と1000件を越えた。40床ある産婦人科病床は満員状態が続いているという。
一方で、同病院の産婦人科医は9人(うち3人は嘱託)。06年には総合周産期母子医療センターに指定され、出産のうち4分の1が帝王切開で、常に重症の妊産婦や新生児、緊急時への対応も求められている。
岩成治・母性小児診療部長は「物理的にセンターとしての機能に限界がきている。医師も足りない中で、これ以上分娩取り扱いが増えると、安全確保が困難になる」としている。【細川貴代】
(毎日新聞、島根、2007年11月17日)
****** 中国新聞、島根、2007年11月16日
出産予約を来年から制限 島根県立中央病院
▽件数急増、医師不足続く
島根県内で唯一、総合周産期母子医療センターに指定されている県立中央病院(出雲市)が来年一月以降、出産予約を制限することが十五日、分かった。妊娠初期から通院する妊婦は従来通り対応する一方、里帰り出産など転院を伴う出産の予約は、一部受け入れない可能性がある。産婦人科不足を背景に近年、同病院の出産件数が急増し、センター機能の低下が生じる恐れがあるためで、医師不足は基幹病院にも影を落としている。
■周産期医療の役割維持
予約を制限するのは、同病院での初診が遅かったり、里帰り出産などで途中からの受診となるケースで、その場合、他の病院を紹介する。初診から通う妊婦をはじめ、早産や帝王切開などハイリスク出産は受け入れる。
予約制限の導入に踏み切るのは、産婦人科での出産対応件数が急増したため。一九九七年度は五百九十四件だったのに対し、二〇〇二年度は八百九十七件、〇六年度は千九十九件と初めて千件を超えた。お産を扱う病院の減少や、里帰り出産の増加、総合病院での出産を望む妊婦や家族の安全志向なども増加の要因とみられる。
出産件数の増加に対し同病院の産婦人科医の人手不足は解消されておらず、本年度は嘱託を含めて九人しかいない。四十床の産婦人科のベッドは満員状態が続いている。
さらに、同病院は〇六年一月、重症の妊婦や新生児治療の中核を担う総合周産期母子医療センターに指定。出産件数の四分の一は帝王切開が占めるなど、県内各地からリスクが高い妊婦を受け入れ、通常の出産とともに緊急出産への対応も求められる。
母性小児診療部の岩成治部長は「人的、設備的に、出産を希望する妊婦すべて受け入れるには限界を迎えている。不便をおかけするが、総合周産期母子医療センターの役割を維持するため協力してほしい」と呼び掛けている。(城戸収)
●クリック 総合周産期母子医療センター
合併症のある妊娠や重い妊娠中毒症、切迫早産、胎児の異常など、正常な出産が困難な病気やリスクが高い妊娠に対応するため、24時間態勢で妊産婦と新生児を受け入れる医療施設。新生児集中治療室(NICU)病床数などに基づき、都道府県が指定する。厚生労働省は各都道府県に1施設以上の設置を目指している。
(中国新聞、2007年11月15日)
****** 読売新聞、関西発、2007年11月15日
出産取り扱う病院 兵庫では10か所休止
産科医不足の深刻化に伴い、昨年4月以降に出産の取り扱いを休止した病院が、全国で少なくとも127か所に上ることが読売新聞の全国調査でわかった。出産を扱う病院がこの1年半で約1割減ったことになる。休止は、地域医療の中核を担う総合病院にも及び、お産の「空白地帯」が広がっているほか、その近隣の病院に妊婦が集中し、勤務医の労働環境がさらに悪化する事態となっている。
調査は、各都道府県が休止を把握している病院の数に、休止を周知している病院への取材も加えて集計した。それによると、2006年4月以降にお産の扱いを休止した病院は132病院だったが、このうち5病院は、産科医を確保するなどして再開。また、来春までに休止方針を打ち出している病院も12か所あった。
国は3年に一度、出産を扱う病院数を調査しており、直近の05年10月現在では1321病院だった。これを母数とした場合、すでに休止した127病院は全体の9・6%に相当し、来春までの休止予定も含めると、10・5%の病院がお産の扱いをやめることになる。
都道府県別では、兵庫の10か所が最多。北海道の9か所、福島、東京、新潟の6か所、大阪、千葉、神奈川、山梨、長野の5か所と続く。主な休止理由は〈1〉医師不足に伴い、大学医局からの派遣医を引き揚げられた〈2〉労働条件の悪化を理由に、勤務医が開業医や(お産を扱わない)婦人科に転身してしまい、穴埋めができない〈3〉産科医不足対策の一環で、近隣病院に産科医を集約する――などとしている。
(読売新聞、2007年11月15日)
****** 毎日新聞、長野、2007年11月18日
上田でバースセンター設立運動
「産み方」選びたい
上田市の住民を中心に、助産師が主体となってお産を担う「バースセンター」(助産院)の設立を訴える運動が熱を帯びている。産科医が不足している現状に加え、「お産という人生の一大事にあって、『産み方』の選択肢を増やしたい」という母親たちの切なる願いが運動の背景にあるようだ。 【川口健史】
「病院で産んだ子は愛しにくい」。上田市でバースセンター設立を訴える「安心してお産と子育てができる地域をつくる住民の集い」のメンバーのほとんどは、病院と助産師によるお産を経験している女性たち。彼女たちが口をそろえるのは病院出産に対する不満だ。
同市の主婦、斉藤八重子さん(31)も病院出産と、助産師出産の両方を経験した。東京都内の病院で最初の子を産んだ時の経験は今でも鮮明に覚えているという。「分娩(ぶんべん)台にあおむけで乗せられ、機械的に処理された。子供が生まれてもすぐに引き離され、苦痛だけが記憶に残った」
助産師による自然分娩を積極的に取り入れている「上田市産院」(同市常磐城)で、出産を経験したことがある同市の武田千秋さん(29)は、「安心感が違う」と利点を強調する。助産師の出産は、分娩台に乗せられず、恥ずかしい格好をさせられたり、苦しい体勢を強いられることがない。また陣痛促進剤を使われるなど医療行為もないという。病院での出産とは異なり、出産で最も重要な「精神的な負担が軽減された」と話す。
住民グループの副代表、桐島真希子さん(32)は、病院と助産院との出産のすみ分けを図ることが必要と力説する。桐島さんは「緊急度が高く難しいお産は病院に。安全な自然分娩を望む人は助産師による出産を選ぶことで、医師不足問題も解決するし、お産に対する恐怖心も薄れ、少子化対策にも役立つのではないか」と指摘する。
日本助産師会によると、県内の助産院は長野市や須坂市、松本市など数カ所しかない。一方で県内でお産を取り扱う産科施設は49カ所。病院での出産が圧倒的多数を占める。多くの妊婦にとって「助産院での出産」という選択肢が用意されていないのが現状だ。
住民グループでは、9月からバースセンターや、院内助産院の設立を求める署名活動を展開している。今月末には県や上田市に請願書を提出する予定だ。助産師を活用する出産に積極的な上田市産院の広瀬健・副院長も「産前産後の周産期の母親のケアに有効であることと、医師の負担が軽減でき、重症度の高い患者に向き合えるようになる」と利点を強調した。
(毎日新聞、長野、2007年11月18日)
****** 毎日新聞、長野、2007年11月14日
上田市産院:甲藤院長が辞職届 分娩体制維持、困難に
年間の分娩(ぶんべん)件数が700件近くある「上田市産院」(上田市常磐城)の甲藤一男院長(57)が年内をめどに辞職する意向であることが13日、分かった。辞職の理由について、甲藤院長は「年齢的に体力、気力が限界にきている」と説明。辞職すると常勤、非常勤あわせて医師2人体制になり、現在の分娩体制を維持することが難しくなる。
関係者によると、甲藤院長はおよそ2カ月前から、管理者である母袋創一市長らに辞意を漏らしていた。母袋市長が慰留したものの、本人の意思が固く、9日に母袋市長に辞職届を提出した。母袋市長は辞職届を正式に受理していないが、「本人の希望に沿う形になるだろう」と述べ、辞職を了承する意向だ。
同市では、近く対策会議を開いて今後の対応を協議する。母袋市長は「廃院は考えていない」としているが、特定の地域に医師が偏る問題が県内各地で表面化しており、新たな医師確保は厳しい状況だ。母袋市長は「分娩回数を減らすことも視野に入れている」と語り、規模を縮小して存続することを示唆した。
同産院によると、年間分娩件数は688件(06年度)。上田市などで分娩を扱う病院が減少した影響などで、前年度より149件も増えた。医師1人あたりの分娩回数は平均150~200件とされ、「医師の負担はかなり大きくなっていた」(産院関係者)という。
同産院を巡っては、05年に常勤医師が信州大に引き揚げられたことで、廃院問題が浮上。存続を求める市民らが約9万人の署名を集めるなどして、常勤医師を確保して存続した経緯がある。【川口健史】
(毎日新聞、長野、2007年11月14日)
****** 朝日新聞、島根、2007年11月13日
1月から「分娩」休止へ/どうなる出産
松江生協病院(松江市西津田8丁目)の分娩(ぶん・べん)業務が存続の危機に立たされている。女性診療科(産婦人科)の常勤医3人のうち2人が来月いっぱいで退職し、後任医師を確保するめどが立っていないためだ。同病院は安全な出産のためには「複数の常勤医での対応が必要」との立場。このまま補充できなければ、来年1月から分娩を休止する方針だ。(上原賢子)
≡常勤医複数確保できず≡
同病院によると、2人の常勤医が9月下旬から10月初めにかけて、相次いで退職の意向を示した。直後から医師探しを始め、10月11日には医師の派遣を受けている鳥取大医学部を大田誠・病院長らが訪ね別の医師の派遣を要請したが、大学側も医師不足で派遣できないと回答があった。12日に院内で協議した結果、「12月末までに医師を確保するのは難しい」として、来年1月から出産への対応を中止する方針を決めた。
その後、職員に文書などで知らせるとともに、女性診療科の外来窓口で、「分娩の一時休止についてのお詫び」と題したチラシを配り始めた。
1月以降の分娩を予約していた54人には、松江市内の病院や診療所を紹介しているという。外来の妊婦健診は続ける。
同病院は87年に産婦人科病棟を設け、ここ10年の分娩件数は年200件前後。不妊治療の専門外来もある。
昨年同病院で出産し、今回の事態を知った女性たちが呼びかけ人になり、署名活動を展開。「産科及び不妊外来の継続に関する嘆願書」を11月3日、1482人分の署名とともに病院に提出した。
大田病院長は「患者さんの気持ちに応えるために分娩業務は続けたいが、全国的に産科医が不足するなか、私たちの力だけでは医師確保は難しい」と話している。
(朝日新聞、島根、2007年11月13日)
****** 読売新聞、群馬、2007年11月13日
産婦人科 もう志だけでは続かない
「地域の総合病院に産科がないなんて、どこで産めというのだろう」
2005年に長女を出産した館林市の主婦(39)は首をかしげる。不妊治療の末に妊娠。高齢出産で比較的リスクが高いため、総合病院で産もうとしたが、すでに館林地区の中核病院である館林厚生病院は、06年3月で分娩(ぶんべん)を休止することになっていた。群馬大が産婦人科医2人を引き揚げるためだ。この主婦は出産後のことも考え、結局、太田市の病院に1時間近くかけて通って出産したという。
館林市内の別の主婦(40)は、埼玉県内の総合病院の近くにある個人病院にかかった。「厚生病院がだめなら、遠くても総合病院に産科がある他市の病院に行った方が、危険な時にすぐ運んでもらえそう」というのが理由だった。休止は今も続いている。
地元の開業医も「リスクが高い場合の搬送先探しが難しい」と認める。県内で産科が比較的整った病院までは1時間近くかかる。隣接する栃木県内の病院に運ぶと、「県内でどうにかならないか」と言われてしまうという。開業医は「この地域のお産は見捨てられたのかな」とつぶやいた。
◇
県内の中核病院の大半を占める群馬大派遣の産婦人科医は、2000年の69人から05年は49人に減少。病院に1人の医師では当直態勢が組めず、突発的な重症患者に対応できないことがあるため、同大は分娩を行う病院に医師を3人以上集めている。その結果、医師が引き揚げられた館林厚生病院や原町日赤病院(東吾妻町)などは分娩が行われなくなり、地域的な穴が開いている。
減少要因の一つに、厳しい労働環境で若いなり手が少ないことがある。当直が月10回の病院もあり、夜間の分娩で呼び出され、翌日も勤務という時も珍しくない。女性の割合が高く、家庭生活が成り立たずに辞める例も多い。県内の産婦人科医のうち30歳代は10%強で、全国平均より10ポイントほど低いうえ、その6割が女性だ。群馬大の峯岸敬教授は「女医への対応がなければこの態勢は続かない」と指摘する。こうした中、公立富岡総合病院(富岡市)は院内保育所を設置し、個々の事情に合わせて勤務時間を変えるなど、女医の受け入れに取り組む病院は増えつつある。柴山勝太郎院長は「朝から昼過ぎまでの非常勤でも戦力になる。女医の新しい働き方を考えなくては」と語る。
佐藤病院(高崎市)は03年から、分娩をしない9診療所と提携し、妊婦検診を診療所で受け、分娩は病院で行う「セミオープンシステム」を始めた。病院は分娩に集中でき、患者も近くの診療所で受診できる利点がある。女医や高齢の医師の働き場も広がるという。佐藤雄一副院長は「今までも無理をしてきたが、もう志だけでは続かない」と語り、労働環境の改善の必要を訴えた。
(読売新聞、群馬、2007年11月13日)