ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

分娩体制崩壊の危機

2007年11月25日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

基幹病院の産科が機能不全に陥ってしまうと、単にその病院で出産する予定だった妊婦さんの分娩場所がなくなってしまうというだけにとどまらず、その医療圏内の産科診療所や助産所などのバックアップ機能もなくなってしまうわけですから、その医療圏では安全に分娩が取り扱えなくなってしまうことを意味し、その地域全体にとって大問題となります。

現在、基幹病院に勤務する中堅の産科医がどんどん離職していく中で、産科医の需給バランスは著しくくずれていますので、どこの基幹病院の産科も離職者の補充は容易でなく、医療提供体制の維持が非常に難しい状況に追い込まれつつあります。

一つの医療圏の分娩体制が崩壊すれば、その医療圏の妊婦さん達が大挙して近隣の医療圏に押し寄せて行くことになるわけですから、近隣医療圏の産科の負担も急増してしまいます。ですから、近隣の医療圏同士の壮絶な生き残り戦の末に結局は共倒れになってしまうという可能性も十分に考えられます。

数年後に県内のどの基幹病院の産科がこの世に生き残っているのか?の予測は非常に難しいです。最悪でも全滅だけは避けたいと思っています。

参考記事: 

 周産期医療が危ない   

 分娩取り扱う病院 激減

 産める病院が1年半で1割減、読売新聞全国調査

 産科医療に関する新聞記事

****** 毎日新聞、山梨、2007年11月22日

お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/上 分娩体制崩壊の危機

 ◇産婦人科医の確保に限界

 全国的に産婦人科医不足が進み、県内でも分娩(ぶんべん)できる医療機関が激減する中、妊婦が安心して身近な施設で出産できない「お産難民」が現実になりつつある。県は医師確保に奔走する一方、助産師の存在に着目し、妊婦の健診を行う「助産師外来」の検討に入った。ただ、県内の医療機関における助産師の充足率は全国最低レベルという問題を抱える。助産師はお産難民を救えるのか――。可能性を探った。【吉見裕都】

 県東部で唯一出産ができる都留市立病院(都留市)の関係者らが10月中旬、市民約2万人の署名を携えて山梨大医学部付属病院(中央市)の星和彦病院長を訪れた。きっかけは、都留病院の産婦人科に医師を派遣している付属病院が示した08年4月からの引き揚げ方針。付属病院の医師不足が理由だが、都留病院は同3月から分娩中止に追い込まれるため、関係者が医師の派遣継続を付属病院に訴えた。

 集まった署名は、約1カ月で18歳以上の市民の9割近く。短期間での盛り上がりに、市議会の藤江厚夫議長は語気を強めた。「市民も切羽詰まっている証拠だ」

 同様の理由で、9月末で分娩を取りやめた甲州市の塩山市民病院でも、医師の派遣継続を求めて約7万7000人が署名した。

 30年にわたり甲府市下石田2で開業している「杉田産婦人科医院」(杉田茂仁院長)も、10月から分娩を取りやめた。1人で対応してきた杉田院長(70)は「365日24時間働き、人間的な生活はできないと覚悟してきたが、年齢的に厳しくなった」と話す。長男(40)は千葉の病院で産婦人科医として勤務するが、「医師1人の開業は安全面で懸念を持っているようだ」とした。

 県内の分娩可能な医療機関はここ10年で半数以下の17カ所に減少。うち9カ所が甲府市内に集中している。

  ×  ×  ×

 困窮の度合いを増すお産現場の改善に向け、分娩場所の拠点化や医師の集約化が議論に上っている。国立病院機構甲府病院の外科系診療部長で産婦人科医の深田幸仁医師(44)は「若い医師が安全に安心して働ける勤務環境を整えないと産婦人科医は増えない」と訴え、この動きを支持する。

 受け入れ病院が決まるまでの照会件数は、消防庁によると、県内は04年のゼロから06年は▽1回1件▽3回2件▽5回1件――と急増した。集約化により、既に分娩場所のない峡南地域など都市部以外の妊婦に、さらなる長距離移動を強いることにつながりかねないとの指摘もある。

 県産婦人科医会の武者吉英会長は「2、3年後には県内の分娩体制が崩壊する恐れがある」と警鐘を鳴らす。県は、県内で医師として働くことを条件にした奨学金制度の導入などに着手したが、限られた産婦人科希望の学生を全国で奪い合う構図に「限界がある」との声も漏れる。

 そんな中、横内正明知事は9月議会で助産師外来設置の検討を表明した。病院によっては1人の医師が1日で70人もの妊婦に行う健診を助産師に担ってもらい、医師の負担を減らすのが狙いだ。医師不足をカバーしようと、同医会も助産師を養成しやすい仕組み作りを行政に働きかけ始めた。「医師が一人前になるには何年もかかる。助産師養成の方が早く、頼もしいパートナーになり得る」。武者会長も期待を寄せる。

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助産師 保健師助産師看護師法(保助看法)で定められた国家資格。助産師になるには、大学の看護学科で学んだり、看護師資格を取得して「養成所」に1年間通った後、国家試験に合格する必要がある。保健指導や正常分娩の介助、子宮収縮の状態を調べる「内診」などの助産行為にあたることができる。

(毎日新聞、山梨、2007年11月22日)

****** 毎日新聞、山梨、2007年11月23日

お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/中 助産師主導に賛否両論

 ◇医療事故時の対応に課題

 「生まれた赤ちゃんをすぐに母親の胸に置くと、赤ちゃんは慣れ親しんだ心音を聞き、泣きもせずに静かに過ごします。へその緒も急いで切る必要はなく、1時間もすると自分でおっぱいに吸いつく。この時間が母子にかけがえのないきずなを築かせるんです」

 今月2日、甲府市内で行われた講演会。自然分娩(ぶんべん)を中心に行っている上田市産院(長野県上田市)の広瀬健副院長は、分娩のあるべき姿として熱っぽく語った。

 一方で、一般的な病院での分娩は「訴訟に対する『医師の安全』を優先している」と疑問を表明。妊娠から分娩、産後まで長期的に助産師が主導し、異常出産時に産婦人科医がバックアップする体制の確立を訴えた。

 ただ、助産師が分娩まで行う助産院は、県内に2施設しかない。その一つ、韮崎助産院(韮崎市富士見1)を訪れると、甲府市善光寺2、主婦、田中真理さん(30)が助産師の雨宮幸枝さん(65)と紅茶を飲みながらくつろいでいた。「病院での分娩は不自然さを感じます。本来人間に備わっている力でお産をしたい」。田中さんは助産院を選んだ理由をこう話し、雨宮さんに絶対の信頼を置いている様子だった。

 出産をスムーズに行うため、病院分娩では陣痛促進剤がよく使われ、会陰切開も少なくなく、赤ちゃんは母親と離れて数日間、新生児室で過ごす。助産師による自然分娩を望む妊婦もいるが、甲州市のサークル「子育てネットこうしゅう」の坂野さおり代表(38)は「妊婦と病院で産みたいスタイルにズレがあるが、出産施設の減少で選択肢がない」と妊婦の悩みを代弁する。

 一方、医師側は「助産師主導」の早期展開に懐疑的だ。県産婦人科医会の武者吉英会長は、情報化の進展で妊婦は高度な出産知識を持っているとして、「助産師に妊娠から産後まで任せるといっても、医療事故まで受け入れられないだろう。仮に妊婦にその気持ちがあっても、夫や両親といった周辺は納得しない」と分析。韮崎助産院でも分娩直前に家族に促され、最終的には病院でお産をする妊婦も時折いるという。

 国立病院機構甲府病院の産婦人科医、深田幸仁医師(44)は、さらに「リスクを背負うことになり、助産師自身が主導を望んでいるかどうか」と指摘する。今年2月には新生児の死亡は助産師の過失が原因として、横浜市の医院が慰謝料など5320万円を求められる訴訟が起こされ、06年には栃木県の助産所の助産師が新生児の死亡事故で提訴され、3700万円で和解している。

 武者会長は「医師の厳しい勤務環境が続く中、助産師に仕事が流れるなどという思いはなく、助産師の活躍の場が広がるのをむしろ歓迎する」と話す。ただ、深田医師は「助産師主導」について、「検討する前に、妊婦と助産師の意向を確認する必要がある」と述べ、前のめりの議論にくぎを刺した。【吉見裕都】

(毎日新聞、山梨、2007年11月23日)

****** 毎日新聞、山梨、2007年11月26日

お産難民のゆくえ:求められる「助産師」像/下 医師との分業体制

 ◇“ダンス踊れる”連携必要

 「スタッフがついてこれるか、いつも気にしています」
 助産師外来を導入している渕野辺総合病院(神奈川県相模原市)の尾崎信代看護師長は10日、甲府市であった県母性衛生学会で講演後、参加者の質問にこうもらした。
 助産師外来とは、妊婦への健診や保健指導を助産師が行い、分娩(ぶんべん)は医師の責任下に置く分業体制で、同病院は05年10月に開設。尾崎さんは「異常の発見ではなく、お産が正常に進むように妊婦の『セルフケア』を誘導していくのが助産師の役割」と述べ、医師との分担の必要性を説く。

 課題は「マンパワー」。同病院の常勤助産師8人のうち外来は4人で担当しているが、実際は尾崎さんが8割を担う。長く医師のサポート役だったこともあり、助産師が責任を負う外来に行きたがらないという。

 助産師のかかわり方として、▽助産師主導の分娩▽病院の助産師外来▽地域で開業した助産師が健診、分娩は病院――などさまざまな方法が考えられ、医師の仕事量が減るのは間違いない。これにより、激務のため敬遠していた医学生が産婦人科医を志す可能性は高い。

 しかし、医師と同様、絶対数が少ないのは助産師も同じだ。助産師の数は全国でピーク時5万人を超えていたが、今は2万人台で、県内も158人(06年12月末)と減少傾向。日本産婦人科医会によると、県内の助産師の充足率(06年3月)は診療所が16・28%と全国ワースト2位、病院も71・33%で同4位と低水準に陥っている。

 県内で助産師になるには、県立大看護学部か山梨大医学部看護学科で学ぶしかないが、枠は十数人分しかなく、何人かは県外へ出てしまう。他県には看護師を対象に1年間で助産師資格が取れる「養成所」があるが、県内にはない。県立大の伏見正江准教授(助産学)は定員や教員の増加を訴え、県産婦人科医会の武者吉英会長は行政による養成所設置を提案する。

 助産師の熱意の醸成も重要だ。活躍の場が広がることを期待する助産師ばかりではないが、韮崎助産院(韮崎市富士見1)の助産師、雨宮幸枝さん(65)は訴える。「妊婦さんにはいい状況といえないが、助産師が見直されるチャンス。母子の命を守る厳しい仕事だが、お産の喜びはたまらないはず」。尾崎さんも「自分の技術でお金をもらうんだからプロ意識を持って」と強調する。

 県内でも、医師と助産師が連携する動きが出てきた。近くの産婦人科医、中島達人医師(58)や国立病院機構甲府病院の深田幸仁医師(44)と連携する雨宮さんは「恥をかいてもいいから早めの相談。状況が悪くなってからではお医者さんも困るでしょう」と相互連絡の“ツボ”を話す。

 ただ、深田医師は懸念する。「新生児集中治療室(NICU)のある病院がない郡内地域では医師もバックアップできない。そもそも忙しい医師が十分に助産師を支えられるのか」。医師確保も重要というわけだ。

 自分の体験も踏まえ、雨宮さんは医師との協力関係をたとえた。「医師と助産師はチークダンスを踊れるような関係じゃないといけないんですよ」【吉見裕都】

(毎日新聞、山梨、2007年11月26日)

****** 東京新聞、茨城、2007年11月24日

妊婦『受け入れ拒否』の危機 分娩施設が激減 医師は『もう限界』

 奈良県橿原市で八月、妊婦の救急搬送依頼が相次いで拒否され、胎児が死亡した問題は、出産の安全性が脅かされている現実を浮き彫りにした。茨城県で同様の事例報告はないが、分娩(ぶんべん)施設は激減し、産科医からは「もう限界」と悲鳴も上がる。県は「今のままでは『たらい回し』が起きかねない」と危機感を強め、妊婦の受け入れ先を見つけられるシステムの検討を始めた。 (生島章弘)

 常陸大宮市野口の主婦小室孝子さん(32)は、自宅から車で約四十分かけて水戸市の水戸済生会総合病院まで通う。双子の妊娠が分かり、地元の診療所の紹介で転院した。

 県から「総合周産期母子医療センター」に指定される同病院の産科医は六人。年間約六百件の出産を扱うが、半数はほかの医療機関から搬送される妊婦。「ベッドがすべて埋まったり、陣痛室が定員オーバーしたりすることはたびたび」(山田直樹センター長)という綱渡りの運営が続き、今年からは「里帰り出産」の受け付けも中止した。

 年末に帝王切開手術を受ける予定の小室さんだが「出産が早まったとき、受け入れてもらえるか」という不安が頭をかすめる。「心配しても仕方ない。出産にリスクはつきもの」と、自分に言い聞かせている。

■救急搬送が難航

 県は医療機関が連携する周産期医療体制を整備している。ただ、この仕組みの搬送対象は、産婦人科を受診している妊婦だけ。かかりつけ医がいなければ、救急隊が受け入れ先を探すほかなく、その点では橿原市のケースと変わりない。

 県の調査によると、妊婦の救急搬送で医療機関に六回以上受け入れを照会したケースは昨年一月から今年八月までに十六件。産婦人科を受診した妊婦はスムーズに受け入れ先が決まる一方、かかりつけ医がいない場合は見つかりにくい傾向を示した。ある産科医は「情報のない妊婦をいきなり診るのは無理。結果が悪ければ訴訟に発展することもあり、簡単に『はい、どうぞ』とはいかない」と明かす。

■労働環境も悪化

 事態を深刻化させているのは医師不足だ。県内の産科医は約百五十人で、分娩施設は十年前から半減して五十カ所。石渡勇・県産婦人科医会長は「産科医はほとんど休みが取れず、出産の安全を確保できるとは言い切れないほど労働環境が悪化している」と焦りをのぞかせる。

 県は一人でも多くの産科医を確保しようと、医学部生への奨学金制度を創設。「たらい回し」防止策としては、現行の周産期医療体制の搬送対象を拡大し、かかりつけ医がいない妊婦も含めるよう、医療関係者でつくる「救急医療対策検討会議」に提案したい考えだ。

 しかし、医療関係者の間では、これ以上の負担に反対が根強く、実現性は不透明。県医療対策課は「現行の制度上、『たらい回し』の可能性は否定できない」と危機感を募らせている。

<メモ>県内の周産期医療体制 「県北・県央」「県南・鹿行」「つくば・県西」の3ブロックの総合周産期母子医療センターと、「県北・県央」内の「県北サブ」ブロックの地域周産期母子医療センターを中心に運営。高度医療を提供する4カ所のセンターは、ブロック内の診療所などが手に負えない場合の妊婦を引き受けるほか、病院をあっせんする役割を果たす。

 県産婦人科医会によると、母体搬送の70%はブロック内で実施。不測の事態に対応するため、受け入れ先の病院までは原則、かかりつけ医や看護師らが付き添う。

(東京新聞、茨城、2007年11月24日)

****** 中国新聞、2007年11月22日

呉圏の産科が2院に集約 来年4月

▽医療センターと中国労災病院、地元専門部会が承諾

An20071122036501 産科医師不足を受け、広島大や広島県が産科医療の集約化を検討する中、呉市地域医療検討専門部会(豊田秀三会長)は二十一日、呉、江田島市をエリアとする呉二次保健医療圏で来年四月から、分娩(ぶんべん)可能な医療機関を呉市の国立病院機構呉医療センターと中国労災病院に集約することを承諾した。呉共済病院での分娩はできなくなる。

 ■広島大・県の意向反映

 呉市、五つの公的病院、呉市医師会で構成する専門部会は、十月十五日から三回開いた。高度医療に対応できる設備や地理的条件などを考慮し、二病院に医師を集中させる広島大と県の提案を承諾。広島大などに三病院体制の継続も要望したが実現しなかった。

 集約の方針は二十九日、県や江田島市を含めて開く呉地域保健対策協議会で報告される。

 産科医師数は現在、呉医療センターが七人、呉共済病院が三人、中国労災病院は二人。

 集約化で、広島大が医師を引き揚げる呉共済病院に産科医師はいなくなるが、呉医療センターに現在と同じ七人、中国労災病院には広島大からの派遣で六人が配置される予定という。

 三病院での分娩件数は昨年度、五百六十八~六百十五件だった。今後の分娩については、産科医師が実務者会議で振り分けを考え、広島市内の病院への受け入れ要請も検討。呉市は近く、市保健所内に市民の不安を解消するための相談窓口を設ける。(増田咲子)

(中国新聞、2007年11月22日)

****** 秋田魁新報社、2007年11月22日

県内産科医、7カ月で1割減少 中堅の県外転出が顕著

 県内の病院などに勤務し、お産を扱う産婦人科医が、今年4月からの7カ月余りで7人減ったことが、日本産婦人科医会県支部の調査で分かった。出身地に移ったり、結婚を機に配偶者の居住地に転居するなど県外へ転出したケースがほとんどで、4月に比べ医師数は実に1割以上減った計算。同支部は「残された勤務医の激務に拍車が掛かっている。激務に燃え尽きて病院を去るという悪循環も懸念される」と警戒する。

 同支部によると、県内でお産を扱う医師は18年度末時点で69人いたが、21日現在で62人に減少した。1人は開業に伴い、お産の取り扱いをやめた医師だが、ほかは全員が県外に転出。同支部が把握しているだけで、年内にさらに勤務医1人が県外に出る見込みだ。転出医師の大半を30?40代の中堅が占めているのも特徴。

 県によると、お産を扱う病院・診療所は計30施設。この中には2人いた医師が1人に減り、通常分娩(ぶんべん)を取りやめてハイリスク分娩だけに対応している病院もある。

 一方、出生数は16?18年の3年間、7000人台後半とほぼ横ばいで推移しており、医師1人当たりの負担が大きくなっている様子がうかがえる。

(秋田魁新報社、2007年11月22日)

****** 読売新聞、岩手、2007年11月22日

周産期医療圏見直し  医大へ搬送集中回避、県が方針

 県は、低体重児の出産などリスクが高い分娩(ぶんべん)が岩手医大に集中している現状を改善するため、三つに分かれている現行の周産期医療圏を見直し、県南部に新たな医療圏を設ける方針を決めた。現在の体制では、中央(盛岡市)、久慈、大船渡の県立3病院に置かれた地域周産期医療センターが、リスクの高い出産に対応し、より高度な医療技術が必要な場合に岩手医大の総合周産期母子医療センターに搬送することになっているが、地域センターのない県南部からは、中央や大船渡病院を経ずに医大に搬送するケースが多かった。

 県によると、2005年中に医大に搬送後、母体胎児集中治療室(MFICU)や付属病院内の産科で出生した妊婦は153人。このうち、医大が受け入れ対象としている1500グラム未満の新生児を出生した割合は77人。これに対し、想定外の1500グラム以上を出生した妊婦は76人に上った。

 この76人を追跡調査したところ、58人については、多胎や異常分娩など危険なケースだったが、医大以外で完全に対応可能だったリスクの低い妊婦は18人と全体の11%を占めていた。県内の医療関係者は、「地域の拠点病院が機能していれば、ハイリスク妊婦の何割かは医大以外でも対応できた」とし、県内の医師不足が背景にあると指摘する。

 また、医大の新生児集中治療室(NICU)に運ばれた新生児32人では、1500グラム未満は4人で、残り28人は1500グラム以上。このうち20人は、高熱や気胸などで急を要したケースだが、残り8人は医大以外で対応できたとされる。

 県内の周産期医療体制は3医療圏に分かれ、1500グラム以上の胎児のハイリスク分は、中央、久慈、大船渡の県立3病院が受け入れることになっている。地域センターが置かれていない奥州市や一関市の県南部では、中央、大船渡両病院に搬送する取り決めだが、「中央への搬送は1時間以上かかる」「大船渡では医師が不足している」などとし、医大に直接搬送されるケースが多いという。

 このため、県は、県南部の大規模病院を新たに地域周産期母子医療センターに指定し、県内の周産期医療体制を現行の3医療圏から4医療圏体制に改めることで、医大の負担軽減を図ることにした。県はさらに、病院間の患者データを共有する仕組みを作り、医大搬送の前段階の各医療圏の分娩扱い数を増やすことも検討している。

(読売新聞、岩手、2007年11月22日)

****** 神奈川新聞、2007年11月22日

妊産婦の搬送先決定まで30分以上が急増/相模原市

 救急隊が妊産婦を病院に運ぶ際、搬送する病院が決定するまでに三十分以上かかったケースが相模原市内で急増していることが、二十一日までの同市消防局の調査で分かった。今年一月から十月までの産科搬送件数の一割に当たる十七件で、昨年一年間の七件を大きく上回っている。決定まで一時間半もかかるケースもあり、同市の厳しい周産期救急の現状が浮き彫りになった。

 同市内の産科救急医療について対策を検討する市医療対策協議会(産科医療対策)の二十日の会合で、市側が明らかにした。

 それによると、救急隊の現場到着から搬送病院が決まるまでに三十分以上かかったのは二〇〇五年が三件だったのに対し、〇六年は七件、〇七年は十月までで既に十七件と急増。産科搬送件数に占める割合でも〇五年の1・4%から〇六年は3・2%、〇七年は10・3%となっている。

 〇七年では、受け入れ決定までの依頼回数は七回が最高だが、所要時間が一時間を超えたケースが二件あり、最大一時間二十六分だった。

 また横浜市戸塚区や海老名市など市外への搬送が四件あった。症状別では、切迫早産や切迫流産が多かった。

 市消防局救急対策課は、分娩を扱う市内の医療機関が減少している上、適切な受け入れ先を探すための症状把握に時間を要するケースが増えているためと分析。「収容までの依頼回数だけでなく、時間短縮も大きな課題」と指摘している。

 二十日に行われた医療対策協では、こうしたデータを基に対応策を議論。「症状別に一次・二次・三次救急の“線引き”を行うべき」「未受診者を減らすためにも妊婦検診の公費負担を増やす必要がある」といった意見が出された。同対策協は来年三月までに、相模原市の産科救急医療体制案をまとめる予定。

(神奈川新聞、2007年11月22日