ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

飛び込み出産の増加

2008年03月15日 | 地域周産期医療

どの産科施設でも、その施設のスタッフと設備の規模に応じて、自ずと患者受け入れ数の限界が存在します。施設の許容量を超えて無制限に患者を受け入れてしまえば、安全な医療ができなくなってしまいます。分娩の予約数が受け入れ限界に達した場合、その月の予約はそれ以上に増やすことはできませんから、分娩予約の受け付けは一定数で中止せざるを得ません。スタッフが激務に耐えかねてどんどん辞めてしまうような事態となれば、その施設の産科部門は閉鎖せざるを得ません。いったん閉鎖されてしまった産科施設を、また一から立ち上げて業務再開までこぎつけるのは至難の業だと思います。ですから、施設の限界以上に業務量が増え過ぎないように、常に最大限の配慮をしていく必要があります。

『飛び込み出産』の場合は、妊娠中に妊婦健診を受けず、妊娠満期に陣痛発来して初めて、救急車などを利用して病院を受診する想定外のケースです。もしも今後『飛び込み出産』の件数がどんどん増えていき、どの医療機関もその受け入れを拒否できないということになれば、それだけで地域における産科崩壊の大きな要因となり得ます。健康教育の充実や健診の公費負担拡充などが求められていますが、中には第一子の時も第二子の時も『飛び込み出産』で医療費全額未払いのままというような悪質なケースもあり、なかなか解決の難しい問題だと思われます。非常に悪質なケースでは、重大な犯罪行為として厳罰に処す必要もあると考えます。

****** 読売新聞、2008年3月14日

飛び込み出産の増加 貧困と知識不足 健診の公費負担拡充を

 妊娠中の定期的な健診である妊婦健診を受けないまま、出産のため医療機関を突然訪れる未受診妊婦の飛び込み出産が全国で増加傾向にある。【生活情報部・月野美帆子】

 未受診妊婦の存在は、昨年8月に奈良県の妊婦が救急搬送中に死産した問題でクローズアップされた。その後、全国各地で妊婦の救急搬送の受け入れ不能が明らかになった。背景には、未受診妊婦側が救急搬送を依頼しても、母体や胎児の状態がわからないとして、病院側が受け入れを敬遠する構図がある。

 読売新聞が今年1月、高度な産科医療機能を持つ全国の医療機関を対象に行った調査では、67施設から回答があり、昨年1年間に301人の未受診妊婦の飛び込み出産があった。「以前よりも未受診妊婦が増えた」とする医療機関は、回答した67か所中、20か所あった。

 日本産科婦人科学会の産婦人科医療提供体制検討委員会委員長で北里大医学部教授の海野信也医師はこの調査結果から推定して、「全国的には年間1000人~2000人の未受診妊婦がいるのではないか。産科医療の現場が混乱する大きな要因で対策が必要」と指摘する。

 妊婦が未受診のまま飛び込み出産に至る要因は、貧困と情報・知識の不足にある。

 読売新聞の調査では、妊婦が未受診になった理由は「経済困窮」が最も多く、146人いた。また107人が未婚者だった。

 健診・出産には数十万円の費用がかかり、未婚であれば負担は一段と重い。調査でも、出産費用の一部または全額を病院に払っていない未受診妊婦は98人いた。健診費用の公費負担を拡充することが、何より求められている。

 負担軽減のため、国は今年度中をめどに、妊婦健診を公費負担する回数を5回程度に増やすよう通知している。だが、公費で何回負担するかは自治体の裁量に任されている。厚生労働省が昨年行った全国調査によると、都道府県別平均では1・3回~10回と、自治体間の格差が大きいことが判明している。

 公費負担による健診回数が最少レベルだった兵庫(1・4回)、奈良(1・6回)にある病院は、読売新聞の調査に対し、過去5年に比べ未受診妊婦の数が「増えた」と答えていた。

 費用補助が充実したとしても、当事者に利用可能な情報として伝わらなければ意味がない。

(以下略)

(読売新聞、2008年3月14日)