周産期医療の立て直しのためには、基本的には、周産期や救急に対応できる病院を集約化するという基本方針で医療提供体制を変えていくしかないと思います。現在はその変革の途上にあります。病院数が減少する過程では強い抵抗があるのは当然ですが、地域住民や行政に病院集約化の重要性を理解してもらうことが重要です。
****** ネット上の談話内容より抜粋
吉村泰典 談
(日本産科婦人科学会理事長)
(前略)
今はまだ50代、60代の産婦人科開業医がお産を扱っています。しかし10年後は彼らが引退し、誰もお産が扱えなくなってしまうんです。私が教授になってから医局員のうち二十数人が開業しましたが、お産を扱っている人はいない。私たちは、これから先、誰がお産を扱うかという問題に直面しているのです。
では、周産期医療を立て直すには、具体的にどうすればよいのか。私は、お産や救急に対応できる病院を集約化することが、何より大切だと思っています。
日本には10万人につき220人程度の医者がいるとされています。米国では230人ぐらいです。医師不足が叫ばれていますが、そんなに騒ぐほど医者が少ないわけではありません。ところが、10万人当たりのベット数で比べてみると、日本は米国の5倍ぐらいある。病院も10倍ぐらいあるかもしれません。医師が足りないというよりは、病院の数が多いのです。
だから、ただ医師の数を増やすよりも、現在のパイでどのようにシステム作りをしていくかという視点が必要です。でなければ、医師を増やしても、10年後には再び医師が余ってしまうといった事態にもなりかねません。だからこそ、お産や救急に対応できる病院を集約化すべきだと思うのです。病院を集約化し、その病院に患者さんに足を運んでもらうという考え方です。
例えばの話ですが、あなたが下北半島の大間に住んでいるとしたら、病院を集約化すると、大間でお産をすることは困難になります。その場合は、妊婦が青森市に出てきて、1 カ月なりの滞在日数分の滞在費を行政などから補助として受け取って、そこで生むわけです。お産時の給付金を手厚くして、子供を生む人がお金をかけずに産める仕組みを作れば、病院の集約化にも対応可能なはずです。これからは、お産のあり方を見直し、女性に子供を産んでもらえるようにシステム作りをしないといけないのです。
もちろん病院の集約化は、どこかの病院をなくすことにつながります。それには強い抵抗があるでしょうから、「国」として方針を決めて進めないと実現しません。よく言われることですが、周産期医療の受益者は明日の社会です。妊娠してもお産ができないという状態では、明日の社会はありません。学会としては、行政や国に重要性を分かってもらうために様々な働きかけをしなければならないと思っています。
(引用終わり)
****** 読売新聞、2008年3月28日
妊婦受け入れ改善、厚労省が産科病床数の上限撤廃
産科医不足で、全国の産科医療機関が相次いで閉鎖されるなか、厚生労働省は、現在診療を受け入れている産科医療機関の能力を最大限に活用するため、地域ごとに設定されている病床の上限数から、産科病床を例外的にはずすことを決め、27日、各都道府県に通知した。
医療機関の病床数については、医療法により各都道府県が地域ごとに必要な基準病床数を設定。この基準より実際の病床数が多いベッド過剰地域では、新たな増床は原則として認められない。基準病床数は診療科に関係なく全体の総数で決められているため、受け入れに余力がある産科の医療機関が増床を申し出ても、ほかの診療科の病床が多い場合、この規制により、認められなかった。
同省では、医療法の施行規則の一部を改正し、出産を扱う医療機関の病床は、基準病床数を超えていても新たな増床を認めることにした。各医療機関の要望を受け、都道府県の医療審議会で必要と認められた場合、都道府県と国が協議した上で許可する。
これを受け、愛育病院(東京都港区)では産科病床を増やす方針を表明している。
中部地方の産科医院では周囲の病院が医師不足などで産科を閉鎖したため、妊産婦が殺到。増床を申し出たが、県はこの地域がすでに基準病床数を超えていることから認めなかった。今回の決定を受け、同医院では「今までベッド数が足りなくて、受診制限をせざるを得なかった。増床が認められれば、もっと多くの妊婦が受け入れられる」と話している。
(読売新聞、2008年3月28日)