ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

産科医療補償制度の開始

2008年07月15日 | 出産・育児

脳性麻痺は、『受胎から新生児期までの間に、脳の運動野の形成異常や損傷により、運動と姿勢を制御する能力が損なわれた状態を総称する病態で、進行性の神経疾患を除く。』と定義され、一定の確率(出生1000に対して平均 2件程度)で発生します。

従来は脳性麻痺の多くは分娩時低酸素症に起因すると考えられてきましたが,最近の研究では、分娩時低酸素症に起因する脳性麻痺の頻度は10%未満であり、70~80%は出生前の因子(絨毛羊膜炎、未熟性、子宮内感染など)が関っているとされます。

多くの場合、脳性麻痺の原因の特定は非常に難しく、過失があったかどうかの判断も非常に困難です。一般に『出産は正常が当たり前』と思われていますが、現実には一定の確率で脳性麻痺などの不幸な結果も起きています。この一般の認識と現実とのギャップが、産科訴訟多発の原因の一つともなっています。

産科医療立て直しのために着手すべき課題は多くありますが、産科医療補償制度の創設はその中でもまず最初に着手しなければならない非常に重要な課題です。いよいよ来年1月1日から産科医療補償制度の運用が開始されます。

本制度の補償対象は、原則として出生体重2000g以上かつ在胎週数33週以上で、身体障害者等級1級、2級に相当する重度の脳性麻痺児となります。在胎週数28週以上33週未満の場合でも一定の条件を満たせば補償対象となる場合もあります。先天性要因などの除外基準に該当する場合は補償対象となりません。補償対象であるかどうかは、日本医療機能評価機構が、中立・公正な立場から一元的に審査を行います。

審査によって補償対象と認定された児に対して、住宅改造費、福祉機器購入などの準備一時金として600万円と、看護・介護費用として総額2400万円を児が20歳となるまで分割して給付します。

本制度の補償対象となる者は概ね500~800人程度と見込まれます。保険料 3万円は医療機関が負担することになりますが、妊婦が支払う出産費用に上乗せされるとみられ、このため厚生労働省は健康保険の出産育児一時金を引き上げる方針とのことです。