産科医、新生児科医、麻酔科医などは絶対数が圧倒的に不足し、どこでも奪い合いになっています。医師数は急には増やせませんから、産科施設減少の今の流れは、まだまだ当分の間は続くことでしょう。
地域から周産期医療を担う者が誰もいなくなってしまって、本当に困った状況に陥ってからあわてても、もはや事態を打開することは難しいと思います。
現在の社会情勢を反映して、産婦人科、小児科、麻酔科、救急などの急性期医療の現役の担い手たちが、医療現場からどんどん逃げ出しています。国策として、医師たちが先を争ってこのような診療科をやりたがるような好待遇を提示しない限りは、医師不足の問題は絶対に改善しないと思います。
****** 日本海新聞、2008年7月29日
医療崩壊の足音 -鳥取市立病院小児科休止の波紋-
鳥取県内の地域医療が大きく揺らいでいる。医師は足りず、診療は縮小が続く。今年十月から小児科を休止するという鳥取市立病院のかじ取りは、深刻な事態を象徴する決断だった。今、地域の医療現場で何が起きているのか。現状を取材した。
集約化の衝撃 大病院がまさか 足りぬ医師一層激務に
「将来的にはさらなる増員も考えています」
四月十六日の昼下がり。鳥取市立病院を訪ねた鳥取大学医学部(米子市)小児科の教授らが本論に入る。
市立病院の小児科医は三人で、いずれも鳥取大からの派遣。この時はすでに、一人が開業による退職を申し入れていた。
来春以降の補充にめどが立ち、さらに小児救急の拠点として体制を強化する。教授らの説明はこうだった。
向き合った市立病院の武田行雄事務局長は胸をなで下ろす。「何とかやっていける」
方針が一転したのはそれから四十日後。医学部の担当者が残り二人を引き揚げ、県立中央病院(鳥取市)へ異動させると伝えてきた。
拠点病院に医師を集める「集約化」。小児科は休止が免れなくなった。
受け皿どうなる
五月二十六日、鳥取大医学部。県立中央病院の武田倬院長は食い下がった。
「市立病院の小児科がなくなると本当に困るんです」
だが、決定は変わらない。
市立病院の患者の半分でも中央病院が診療することになれば、激務は避けられず、退職者も続出しかねない。
「せめて一人でも二人でも小児科医を集めてもらわないと、今度はうちがつぶれる。東部の医療がぐちゃぐちゃになります」
市立病院の小児科では昨年度、延べ一万四千五百六十一人が受診、七千九十八人が入院した。休止となればその受け皿はどうなるのか。
鳥取生協病院(鳥取市)の富永茂寿事務長は言う。「地域の人たちが医療を受けられないことは不幸なこと。何か対応策を検討せざるを得ない」
一方、医師の引き揚げは、鳥取大にとっても苦渋の判断だった。
医師二人体制では、当直や自宅待機が増え、疲弊感は増す。医学部付属病院の豊島良太院長は「医師がつぶれるのは目に見えている。集約化はやむを得ない」と窮状を訴える。
(以下略)
(日本海新聞、2008年7月29日)
****** 日本海新聞、2008年7月30日
医療再編の波 研修医が都市集中 次は病院統合か
(略)
連携と機能分担
鳥大医学部付属病院の豊島良太院長は「診療科を集約化しないと、経営そのものが成り立たない」と言い切る。
例えば県東部の病床数は三千七百九十床(二〇〇五年)。人口十万人当たりの比較では全国平均より二割多い。しかし、病院勤務医数(〇四年)は十万人当たり百二十人と平均を五十人も下回っていた。勤務医不足はさらに深刻化している。
県東部二十五万人の医療圏に県立中央、鳥取市立、鳥取赤十字と四百床前後の総合病院が三つある。規模が似通った病院同士で同じ診療科を構えれば、人材は分散する。高度な診療装置をそれぞれ導入しても採算が合わない。診療科再編の次には、病院統合という選択肢もささやかれる。
県は昨年末、東・中・西の各圏域で、主要病院と「持続可能な医療制度あり方検討会」を設置した。連携や機能分担について協議し、医師不足の打開を狙う。
しかし、実際にはなかなか議論が前に進まない。各病院とも総論には賛成だが、どの診療科をどこに残すかとなると意見が食い違う。「それぞれが生き残れるように旗を振りたいが…」。県医療政策課の大口豊課長は青写真を描けないでいる。
仕方なしの集約
一方、地域医療を担ってきた公立病院には戸惑いの声がある。四月から小児科を休診している西伯病院(南部町)の三鴨英輔病院事業管理者は「経営のことばかり注目されるが、地域住民の安心を確保するには不採算部門を抱えることも必要」と不満をにじませる。
ある病院の院長は憂えた。「どちらにしろ、今回のような“慌ただしく仕方なく”の集約は適切じゃない」。医療機関の思いや目指す地域医療の姿を論じる間も与えないスピードで医療再編が進もうとしている。
(日本海新聞、2008年7月30日)