ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

長野病院 来年3月末で産科医不在に

2008年07月25日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

上田市を中心とした「上小医療圏」(人口:約22万人、分娩件数:約1800件)では、国立病院機構長野病院の産婦人科が唯一の産科二次施設としての役割を担ってきました。昨年11月に派遣元の昭和大学より常勤医4人全員を引き揚げる方針が病院側に示され、新規の分娩予約の受け付けを休止しました。来月より来年3月までは常勤医1人の派遣が継続されますが、今後は分娩に対応しない方針とのことです。同医療圏で分娩に対応する医療機関は、上田市産院、上田原レディース&マタニティークリニック、角田産婦人科内科医院の3施設となります。ハイリスク妊娠や異常分娩は、信州大付属病院(松本市)、県立こども病院(安曇野市)、佐久総合病院(佐久市)、長野赤十字病院(長野市)、篠ノ井総合病院(長野市)などに紹介されます。

母児の急変はいつ発生するか全く予測ができません。例えば、分娩経過中に、突然、胎児心拍が非常にゆっくりとなってそのまま全く回復しない場合があり、そのような場合には放置すれば子宮内胎児死亡となりますから、とにかく超緊急帝王切開を実施するしか手はありません。分娩取り扱い施設では、『帝王切開と決定してから児が娩出するまでに30分以内』を常に達成できる態勢が求められていますが、常勤医が大勢いてもこの条件を常に満たすことは非常に難しく、時間帯によっては帝王切開の決定から児娩出までに30分以上かかる場合もあり得ます。まして常勤医1人の態勢でこの条件を常に満たすのは絶対に無理です。

現代の周産期医療は典型的なチーム医療の世界で、産科医、助産師、新生児科医、麻酔科医などの非常に多くの専門家たちが、勤務交替をしながら一致団結してチームとして診療を実施しています。地域内に周産期医療の大きなチームを結成し、毎年、新人獲得・専門医の育成などのチーム維持の努力を積み重ねて、チームを10年先も20年先も安定的に維持・継続していく必要があります。もはや、1人や2人のスーパードクターの熱意だけではどうにもならない世界です。

参考記事:

長野病院の全産科医派遣の昭和大、引き揚げ方針

****** 医療タイムス、長野、2008年7月25日

長野病院 来年3月末で産科医不在に

8月以降1人体制、分娩は対応せず

 上田市の国立病院機構長野病院(進藤政臣院長)は24日、現在2人体制の産婦人科医師が派遣元の昭和大学への引き揚げに伴い8月から1人となり、来年3月末で派遣打ち切りになると発表した。来年4月以降については、現時点で医師確保の見通しが立っておらず、産婦人科の再開は困難な情勢だ。

 8月以降、医師は1人となるため婦人科の外来診療のみとなり、分娩、入院、手術は扱わない。必要に応じて昭和大が非常勤医師を、国立病院機構が月に1~2回、非常勤医師を同院に派遣し、残る医師をサポートする。

 今後同院は、現在7人いる助産師の研修に取り組み、来年4月からの助産師外来開設を検討するという。

 進藤院長は、関東などの大学医局への医師派遣要請が実らなかったことを挙げ、「新たな医師確保は非常に厳しい状態」との認識を示した。ただ、「この病院の機能からすれば正常分娩、ハイリスクを担当するのは当然であり、最大限の努力をしたい」と関係機関の協力を得ながら、引き続き医師確保に取り組むとした。

 同院の散会し引き揚げをめぐっては、昨年11月に派遣元の昭和大が当時、同院へ派遣していた4人全員を3月いっぱいで引き揚げる方針を提示。その後、分娩の予約が入っていた7月末まで派遣が継続されることになったが、2、5の両月で1人ずつ引き揚げとなっていた。

 これで上小地域では、市内の3医療機関が年間1800件の分娩を引き受けることになる。また、同院が年間200件前後扱っていたハイリスクや異常分娩は、信大付属、佐久総合、県立こども、長野日赤、篠ノ井総合の各病院へ紹介される。

(医療タイムス、長野、2008年7月25日)

****** 信濃毎日新聞、2008年7月24日

長野病院の産科医8月から1人に 計3人が引き揚げ

 国立病院機構長野病院(上田市)に昭和大(東京)が8月以降も派遣を続ける産科医は1人にとどまることが、23日、分かった。派遣していた4人のうち3人を引き揚げることになる。1人で出産を扱うのは困難なため、昨年12月から中止している出産の受け付けは再開できない見通しだ。上田小県地域の危険度の高い「ハイリスク出産」は当面、長野や佐久など他地域の病院に搬送される。

 残留するのは女性医師で、派遣は来年3月まで。常勤医1人態勢となるため、出産は扱わず、妊婦が希望する地域の病院などを紹介する。婦人科の外来診療は続ける。国立病院機構側は月に1、2日応援する医師を確保し、女性医師の負担軽減を図る。

 昭和大は昨年11月、都内の産科医不足に対応するため、4人いた派遣医の引き揚げ方針を病院側に示し、現在は残っている医師は2人。5月下旬、既に受け付けていた出産が終了する7月末以降も派遣をゼロとしない方針を固めたが、人数や派遣期間は未定だった。

 長野病院は、上田小県地域の年間約2000件の出産のうち、4分の1近くに当たる500件弱を担い、ハイリスク出産も引き受けていた。同病院は引き続き産科医の確保を目指す方針だ。

上田小県の有志 厚労相に陳情書

 上田小県地域の住民有志でつくる「上小の地域医療を支える住民の会」の半沢悦子代表らは23日、厚生労働省を訪れ、国立病院機構長野病院(上田市)の産科継続や麻酔科医確保、基幹病院としての機能うぃ維持するよう求める陳情書と31000人余の署名を舛添要一厚労相に手渡した。舛添厚労相は「長期的には医師を増やす政策に転換した。とにかく努力する」とした。

 住民の会側は「長野病院を今後どうするのか」と質問。舛添厚労相は「公立、私立を問わず、拠点病院は機能を残すことが重要。仮に(病院経営が)赤字であっても残すべきところは残す。住民の声を無視することはない」と話した。

(信濃毎日新聞、2008年7月24日)

****** 読売新聞、長野、2008年7月25日

産科医 来月以降1人に

長野病院、医師確保難航

 国立病院機構長野病院(上田市緑が丘、進藤政臣院長)の産科医引きあげ問題で、長野病院は24日、8月以降、常勤の産科医が1人になると正式発表した。新たな医師確保のめどは立っておらず、出産の扱いの再開は厳しい見通しだ。

 同病院では8月以降、妊婦健診などの外来診療を行い、出産については近隣医療機関に紹介する。進藤院長は、「地域住民に迷惑をおかけするが、出産受け入れを再開させるため、今後とも医師確保に向けて全力で努力していく」とのコメントを発表した。

 長野病院に医師を派遣していた昭和大は昨年11月、付属病院での医師不足などを理由に、4人の常勤産科医の引きあげを通告。今年7月末までに全員引きあげる方針だったが、今年5月に、上田市など5市町村で構成する上田地域広域連合に対し、来年3月までは1人か2人の産科医を残すと伝えていた。

(読売新聞、長野、2008年7月25日)

****** 読売新聞、長野、2008年7月24日

医師確保 厚労相に要望

長野病院問題で「住民の会」

 国立病院機構長野病院(上田市)の産科医引きあげ問題を巡り、地元住民らで作る市民団体「上小の地域医療を支える住民の会」が23日、厚生労働省を訪れ、舛添厚労相に、病院勤務医数の充実などを要望した。

 この日は、同会代表の半沢悦子さん(69)と会員6人が、舛添厚労相に、産科医などの確保を求める陳情書を、3万1362人分の署名を添えて手渡し、「長野病院は危機的な状況」と訴えた。

 これに対し、舛添厚労相は「全力を挙げて医師を探す」と約束。一方で、全国的な医師不足のために確保のメドが立たない可能性にも触れ、「開業医や長野赤十字病院との連携が取れるよう手を打つ」と話した。

 この問題では、昭和大が来年3月末で派遣している産科医を引きあげる方針を示している。これを受け、同会は4月20日~6月末に、街頭活動などで署名を集めていた。

(読売新聞、長野、2008年7月24日)

****** 中日新聞、長野、2008年7月25日

長野病院がお産休止 

来月から 医師不足で存続困難

 国立病院機構長野病院(上田市)は24日、産科医を確保できないため8月からお産を休止すると発表した。

 同病院は年間400-500件の出産を扱い、上小地域の中核的な役割を担ってきた。しかし、昨年12月に常勤医を派遣していた昭和大(東京)が、既に予約を受けた出産が終わる7月ごろまでに医師を引き揚げる方針を発表。新規予約を中止していた。

 同病院は存続を目指して厚生労働省などに医師派遣を依頼していたが、新たな常勤の医師を確保できなかった。現時点で来年3月まで常勤の産科医は1人となり、存続は困難として休止に踏み切った。

 進藤政臣院長は「大変厳しい状況だが、再開を目指して今後も医師確保に努めたい」と述べた。【福田真悟】

(中日新聞、長野、2008年7月25日)

****** 毎日新聞、長野、2008年7月25日

国立病院機構長野病院:来月から産科医1人 分娩や手術が不可能に

 国立病院機構長野病院(上田市)は24日の会見で、8月1日以降、産婦人科常勤医師が1人体制になることから分娩(ぶんべん)・手術が不可能になり、診療も婦人科の外来診療のみに限定すると発表した。常勤医師も来年3月までの期限付きとしている。

 同病院の産婦人科は昭和大(東京都)から派遣されているが、4医師全員の引き揚げを通知され、昨年12月から出産予約を休止した。病院側は派遣の継続、他大学に派遣を依頼してきたが実現しなかった。2、5月に1人ずつ医局に戻り、7月中に全員引き揚げ予定だったが、常勤医師1人は確保してもらったという。

 上田・小県地域では年間1800件前後の出産があり、同病院が扱う500件弱は上田市産院と2産婦人科病院が引き受ける。ハイリスク、異常分娩は佐久、長野など周辺病院が対応する。進藤政臣院長は「産科医確保に引き続き努力するが厳しい。常勤医がいる間に助産師外来開設に向け研修を進めたい」と語った。【藤澤正和】

(毎日新聞、長野、2008年7月25日)