Respiratory Syncytial Virus (RSV)
【発症時期】 冬季に多く、ときに大流行をみることがある。
【好発年齢】 乳幼児、とくに1歳以下の小児で多い。
【病態】 RSVが細気管支に感染すると、粘液の分泌物が多くなり細気管支が細くなる。息を吸う場合には横隔膜の力が補助の働きをするため吸うことはできるが、息を吐くことが充分にできず、空気を肺に取り込んだま まの状態となって呼吸困難となる。
【症状】
・ RSVは成人や年齢の高い小児では上気道感染(鼻汁、咳)を起こすだけであるが、乳児がRSVに感染すると、上気道感染に引き続き、下気道感染(肺炎、細気管支炎)を引き起こし、38~3度の発熱や無呼吸発作を認めることがある。
・ RSV感染では、早産児(とくに肺障害をもつ場合)、免疫不全患者、心疾患患者(とくに大きな右→左シャントのある場合)で、重篤な肺炎、細気管支炎に罹患し、ときに人工呼吸を要したり、死亡に至ることもある。世界では人口10万人当たり5.3人、年間60万人の乳児がRSV感染によって死亡しており、百日咳と並び、生後6カ月までの乳児にとって最も怖い感染症である。
・ 1歳までに7割が感染し、初感染した乳児の3分の1が下気道感染を起こす。急性期を超えても影響が残り、RSV細気管支炎で入院した児はその後2年間の入院率・死亡率が高いことや、喘鳴、喘息のリスクが高いことが報告されている。3歳までにRSV下気道感染を起こした場合、反復性喘鳴などの影響が11歳ころまで残るというデータもある。
・ 年長者・成人では、RSVに感染しても軽症であるため、単なるかぜ症候群として見過ごされていることが多く、これらの者が周囲の小児へのRSV感染源となりうることに十分留意する必要がある。
【診断】 咽頭ぬぐい液による迅速反応。
胸部X線写真:息を吸えるが吐き出せない状態のため、肺の含気量は増加し、心陰影は縮小する。
【RSV感染予防】 パリビズマブ Palivizumab(商品名:シナジス)
・ パリビズマブはRSVに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体である。
・ RSV流行期間中、効果を維持するためには、毎月1回の筋肉注射が必要である。
・ 早産児や、肺・心疾患をもち、RSV感染により重症化が予想される乳幼児に限り、使用される。
・ 副作用はほとんどない。
パリピズマブ(商品名:シナジス)の投与適応:
RSウイルス感染流行初期において
・ 在胎期間28週以下の早産で、12ヵ月齢以下の乳児。
・ 在胎期間29~35週の早産で6ヵ月齢以下の乳児。
・ 過去6ヵ月以内に気管支肺異形成症(慢性肺疾患)の治療を受けた24ヵ月齢以下の乳幼児。
・ 24ヵ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患の乳幼児。
投与の用法・用量は、体重1kgあたりパリビズマブ15mgをRSV流行期を通して月1回筋肉内に投与する。
****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ803 36週未満早産児が退院する時、RSV(Respiratory Syncutrial Virus)感染症に関する情報提供は?
Answer
1. 36週未満早産児はRSVに感染すると重症化しやすいことを伝える。(C)
2. 予防的薬剤が存在し、RSV感染流行期に投与することにより症状軽減が期待できると伝える(C)。
3. 予防的薬剤の投与可能施設についての情報を提供する。(C)
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(表1)「日本におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン」における早産児に対するパリビズマブ投与適応
在胎期間35週以内で出生した早産児については慢性肺疾患(chronic lung disease: CLD)の有無にかかわりなく、下記グループに対してパリビズマブの投与を考慮する。
a. 在胎期間28週以下(または出生体重1000g未満)で出生し、RSV流行開始時に生後12ヵ月齢以下のもの
b. 在胎期間29~32週(または出生体重1000~1800g程度)で出生し、RSV流行開始時に生後6ヵ月齢以下のもの
c. 在胎期間33~35週で出生し、RSV流行開始時に生後6ヵ月齢以下でRSV感染症のリスクファクターを持つ乳幼児については、投与の必要性を個別に判断し、必要に応じて投与を考慮する(リスクファクターを下記に示す)
在胎期間33~35週の早産児で考慮すべきRSV感染症のリスクファクター
1. 呼吸器疾患のある小児
2. RSV流行時に退院する小児
3. 人工換気療法または長期酸素療法を受けた小児
4. 退院後に託児所。保育所を利用する小児
5. 受動喫煙に暴露される小児
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在胎34~36週(Late Preterm)で出生した早産児は、出生直後に呼吸障害や新生児仮死がなければ、新生児科を介入させずに、正常新生児として一次産科診療施設を退院する可能性がある。しかし、在胎36週未満早産児は、RSVに感染すると重症化しやすいので、退院時にRSV感染症に関する情報を提供する必要がある。