ventricular septal defect
【定義】 心室中隔に欠損孔があり、左室と右室の間に交通がある先天性心疾患。先天性心疾患の中で発生頻度が一番高い。
【Kirklin分類】
漏斗部欠損(Ⅰ型): 高位欠損。右室流出路の肺動脈弁直下の欠損で、大動脈弁閉鎖不全症を合併しやすい。東洋系人種に比較的多い。
膜性部欠損(Ⅱ型): 中間位欠損。心室中隔の膜性部およびその周辺の欠損で、頻度は最も多い。自然閉鎖の傾向が強い。
流入部欠損(Ⅲ型): 後方欠損。頻度は最も少ない。Down症に合併する頻度の高い心奇形のひとつである。
筋性部欠損(Ⅳ型): 低位欠損。多孔性のことがある。頻度は少ない。自然閉鎖例が多い。西洋人に多い。
【臨床症状と経過】
・ 小欠損孔: 無症状、ほとんど自然閉鎖。
・ 大欠損孔: 肺血流増加による多呼吸、哺乳不良、体重増加不良、拡大した肺臓脈や左心房が気管圧迫し喘鳴や呼吸困難を呈する。
・ 加齢にともない肺血管抵抗は高値となり、やがて肺血管抵抗が体血管抵抗を凌駕してEisenmenger 症候群となる。
【臨床所見】
1)聴診所見
・小欠損孔: 出生数日後から胸骨左縁第3~4肋間に汎収縮期雑音。
・大欠損孔: 胸骨左縁第3~4肋間の収縮期雑音、心尖部の拡張期ランブル音、肺高血圧合併例では心雑音は聴取されずⅡ音が亢進。
2)胸部X線所見
心拡大(左2、3、4弓の突出)、肺血管陰影の増強。
3)心電図所見:
肺高血圧が合併しなければ左室肥大所見のみ。
肺高血圧合併により両室肥大所見。
Eisenmenger化すると右室肥大所見のみ。
4)心エコー
欠損孔の確認で診断確定、欠損孔の位置、大きさ、負荷所見(左心房、左心室の肥大)、合併心奇形の検索に有用。
5)CTおよびMR
心エコーのみで欠損孔の形態の評価が困難な場合に実施。合併する大血管の異常の評価に有用。
6)心臓カテーテル検査
肺体血流比、肺血管抵抗の測定を行い、手術適応を決定する。
【内科的治療】
・ 小~中欠損孔:自然閉鎖の可能性が高いため経過観察。
・ 大欠損孔:利尿剤、ACE阻害薬投与。
【外科的治療】 パッチによる欠損孔の閉鎖
・体重増加不良、肺高血圧合併症例では早期に手術。
・容量負荷所見が明らかな場合(肺/体血流比>1.5)は手術適応あり。
・漏斗部欠損症例で大動脈弁の変形を認めた場合にも手術適応。
****** 問題
心室中隔欠損症で可能性のある自然経過はどれか。3つ選べ。
a 自然閉鎖はまれである。
b 小児期を無症状で経過する。
c 乳児期にうっ血性心不全を呈する。
d Eisenmenger症候群になる。
e 感染性心内膜炎の合併はまれである。
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正解:b、c、d
a 膜性部VSDは自然閉鎖が多いが、漏斗部VSDではまれである。
b VSDでは欠損孔が大きくなければ、小児期をほとんど無症状で経過することが多い。
c VSDでは欠損孔の大きい例では、生後1年頃より肺うっ血をきたす。肺高血圧を合併した例では早期にうっ血性心不全を呈することがある。
d 大欠損孔では、肺高血圧をきたしてEisenmenger化することがある。
e VSDでは感染性心内膜炎を合併しやすい。
****** 問題
心室中隔欠損症の乳児にみられる心不全の治療に用いるのはどれか。2つ選べ。
a 補液
b 利尿剤
c 強心剤
d 気管支拡張薬
e プロスタグランジンE1 薬
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正解:b、c
a 通常補液は必要ない。かえって、過剰な補液は容量負荷を増大させ、心不全を悪化させる。
b 容量負荷を軽減するために利尿剤を投与する。
c 強心剤の投与はよく行われる。
d 気管支拡張薬の投与はVSDによる心不全には無意味である。
e プロスタグランジンE1 薬は動脈管依存性心疾患に投与する。VSDは動脈管依存性心疾患ではない。