Cytomegalovirus: CMV
サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルス科のDNAウイルスで、どこにでもいるありふれたウイルスであるため結果的にほとんどのヒトが感染する。CMV感染は直接的、間接的なヒトとヒトの接触によって起こり、感染源になりうるものとしては、尿、唾液、鼻汁、子宮頸管粘液、腟分泌液、精液、母乳、涙、血液などが知られている。人類に広く分布し、ほとんどのCMV感染症は不顕性であるが、健常人でも初感染に際して伝染性単核球様の症状を呈する場合がある。主に臨床的に問題となるのは、胎児CMV感染症および免疫不全患者での日和見感染症である。
胎児CMV感染症は、TORCH 症候群(トキソプラズマ、梅毒、風疹、CMV、単純ヘルペスウイルス)のひとつである。先天性CMV感染症あるいは巨細胞封入体症とも呼ばれる。症状は重篤なものから軽症まであり、低出生体重、小頭症、水頭症、脳室周囲石灰化、黄疸、出血斑、肝臓・脾臓腫大、聴力障害、視力障害(脈絡膜炎)、知能障害など多彩である。
感染妊婦検出と児予後改善のための母体CMV抗体スクリーニング検査の有用性については、児障害程度の予測が困難、有効な胎児治療法が確立されていない、ワクチンがない、感染児の90%が無症候性であり治療適応は定まっていない、等の理由によりいまだ結論は出ていない。
****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ609 サイトメガロウイルス(CMV)感染については?
Answer
1. 児予後改善のための母体CMV抗体スクリーニング検査の有用性は確立されていないと認識する。(C)
2. 超音波検査で胎児発育不全、脳室拡大、小頭症、脳室周囲の高輝度エコー、腹水、肝脾腫等を認めた場合、胎児感染を疑ってもよい。(C)
3. 母体CMV抗体検査を行った場合の解釈については以下を参考にする。(B)
1)妊娠初期母体CMV IgG陰性であったものが、妊娠中にIgG陽性になった場合、妊娠中初感染と判断する。
2)妊娠初期母体CMV IgG陽性(妊娠以前の感染)でも母子感染は起こりうるが、その頻度と胎児への影響は初感染に比し少ない。
3)母体CMV IgM陽性の場合、最近の感染を疑うがIgM陽性が長期間持続する現象(persistent IgM)が知られているので注意する。
4. 「胎児治療については現時点で確立されたものはない」と説明する。(B)
5. CMV感染胎児は分娩時に心拍パターン異常を示しやすいので注意する。(C)
6. 臍帯血CMV IgM陽性、もしくは生後 2週以内の新生児尿からCMVが同定された場合、胎児感染が起こったものと判断する。(B)
7. 胎内感染児については聴覚の長期フォローアップを専門医に依頼する。(B)