ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

NT(nuchal translucency)

2011年09月04日 | 周産期医学

妊娠初期の胎児を超音波断層法の矢状断面で観察している時に、項部(後頸部)付近の皮膚が浮き上がって膨隆した形に見えることがある。膨隆した部分は無構造で、超音波が透過した抜けた形であるため、これを胎児項部透過像(NT: nuchal translucency) とよぶようになった。

NTの臨床的意義

1992年にNicolaidesらが、妊娠初期の胎児のNTの幅とダウン症の発生頻度に正の相関がみられることを報告した。さらにその後の研究によって、妊娠初期の胎児のNT肥厚例では、染色体異常、先天性心疾患、中枢神経疾患、消化器疾患、泌尿器疾患、神経筋疾患、代謝障害などの疾患に罹患している可能性があることが明らかとなってきた。

すなわち、妊娠11~13週の胎児(CRL:45~84 mm)の正中矢状断面で計測し、NTの幅が3mm以上の場合に、Down症などの染色体異常や先天性疾患などの胎児異常の確率が増加するといわれている。 しかしながら、NT肥厚例であっても染色体異常も先天異常もない児が数多く存在するという事実を決して忘れてはならない。NTは胎児異常の可能性を示すものであって、確定診断にはならない。

NTは染色体異常や先天異常のマススクリーニング法として欧米で急速に広まった検査項目であるが、現在の我が国ではこのようなマススクリーニング法が容認される状況ではない。我が国での周産期医療でNT計測は標準的検査ではない。産婦人科医には、「NT 検査の存在を積極的に妊婦に知らせる義務」はない。

NTが異常に増大した胎児に染色体異常や心奇形を伴う例が多いことは事実だが、我が国の出生前診断は、カウンセリングやサポート体制が整っているとは言い難く、このような状況を考慮すると、NTと胎児異常との関連を強調しすぎることは、現時点ではむしろ慎むべきとの考え方が主流である。

「NT検査を受けるかどうか」「NT異常が発見された場合の告知をどうするか」について十分な話し合いが持たれていない状態で、意図せずにNT異常が発見される場合も比較的多い。偶然にNT異常が発見された場合の対処については、施設ごとに方針をたてることになるが、遺伝カウンセリングが可能な施設に紹介することも考慮する。

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NT計測の正しい条件:

・ NTは妊娠10~14週間、あるいは妊娠11週~13週6日(CRLが45~84mm の時期)に測定するように勧められている。
・ 画像内に胎児頭部と胸郭上部のみが描出される程度までに拡大した画像上での測定が推奨される。
・ 胎児矢状断面で胎児頸部皮下貯留液最大幅を測定する。胎児が反屈位では実際よりNT が大きく、逆に屈位が強いと小さく評価されることに注意する。

正常胎児のNT
Normalnt

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NT肥厚例
Increasednt 

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産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ106  NT(nuchal translucency)肥厚が認められた時の対応は?

Answer

1. NT が測定された状況を確認する。正確な判定には以下が必要である。
・ 妊娠10~14週間での測定。(C)
・ 超音波画像の拡大率が十分であり、胎児上半身が大きく描出されていること(図 1)。(C)
・ 矢状断面で計測されていること(図 1)。(C)

2. 検査前から「胎児異常に関する情報提供」を希望している妊婦に対しては所見を説明する。(B)

3. 「情報提供を希望しない」妊婦もいる。「胎児異常に関する情報提供」の希望有無が確認できていない妊婦に対しては慎重に対応する。(A)

4. 上記 2、3 いずれの場合にも倫理的側面に配慮する。(A)

5. 正確に測定された NT 値の持つ意味、今後の診断過程については以下のように説明する。(C)
・ NT 値が3mm、4mm、5mm、および 6mm 以上の場合、trisomy21、trisomy18、あるいは trisomy13の確率は当該患者の年齢別確率よりも約3倍、18 倍、28 倍、および36 倍高くなる。(図 2)
・ NT≧3.5mmで染色体正常の出生児は、90%強の無病生存が期待できる。
・ 染色体異常児の約 70% が NT 値≧95 パーセンタイル値を示す。95 パーセンタイル値は週数増加(11 週~13 週 6 日間)につれ 2.1mm から 2.7mm へと増大する。週数に関連なく 99 パーセンタイル値は 3.5mm である。
・ 染色体異常の確定診断のためには羊水検査が必要である。

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NT (nuchal translucency)

Inc20nty
(左:正常例、右:NT肥厚例)
Fetal Diagnostic Centers, Dr. DeVore

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency_2
(NT肥厚例、5.8mm)
OBGYN.net, Daniel Cafici

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency_3
(NT肥厚例、4.1mm)
OBGYN.net, Joseph Allen Worrall

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency
(NT肥厚例、3.7mm)
OBGYN.net, Mario Ernesto Libardi

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency_h
(NT肥厚例、13mm)
OBGYN.net, Martin Horenstein

Nt
(日本産婦人科医会研修ノートNo.74。必ずしも項部に最大厚みがみられるわけではない。このNTは項部で2.6mm、後頭部で3.8mm)

****** 問題

NT(nuchal translucency)で正しいのはどれか。1つ選べ。

a. 胎児全身の皮下浮腫である。
b. 妊娠16~20週で測定する。
c. 児の横断面で計測する。
d. 染色体異常の確定診断には羊水検査が必要である。
e. 染色体正常のNT異常児には骨形成異常が多い。

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正解:d

****** 問題

NT(nuchal translucency)で正しいのはどれか。1つ選べ。

a. 妊娠10~14に計測した値を用いる。
b. 胎児冠状断面で計測した値を用いる。
c. 経腟超音波で計測した値のみを用いる。
d. NT値3mmの場合、同年齢での比較で胎児染色体異常は約30倍である。
e. NT肥厚があり染色体正常の場合、最も多い異常は溶血性貧血である。

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正解:a