ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

パルボウイルスB19(PB19)感染症

2011年09月17日 | 周産期医学

human parvovirus B19

PB19は伝染性紅斑(リンゴ病)、貧血、関節炎の原因ウイルスである。PB19は赤血球系前駆細胞に感染し、赤血球造成を一時的に抑制する(一時的貧血、一過性骨髄無形成発作、transient aplastic crisis)。

妊婦が感染すると経胎盤胎児感染が懸念され、感染した胎児の一部は貧血、胎児心不全、あるいは胎児水腫を示し死亡に至る場合もある。

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ614 パルボウイルスB19(PB19)感染症(リンゴ病)については?

Answer

1. 以下の2点を認識する。(B)
 ・ 同居者のPB19感染は妊婦PB19感染の危険因子である
 ・ 感冒様症状、それに伴う発疹(紅斑)、関節痛等はPB19感染を示唆する

2. 妊婦PB19感染を疑った場合、PB19-IgMを測定する。(B)

3. 妊婦PB19感染の場合、「胎児貧血、胎児水腫、あるいは胎児死亡が約10%に起こり得る」ので、胎児貧血・胎児水腫について評価する。(C)

4. 胎児水腫の原因検索時にはPB19感染を考慮する。(B)

5. 他妊婦への感染防止のために感染妊婦には手洗い・マスク着用を勧める。(C)

6. パルボウイルス感染について表1内容の報告があると認識する。(C)

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(表1) 胎児パルボウイルス感染に関する報告

・ 胎児水腫発症例の9割は母体感染後 8週以内に発症(中央値・3週)

・ 20週未満感染例では20週以降感染例に比し胎児死亡率が高い

・ 胎児水腫の約1/3 が自然寛解する

・ 胎児輸血が予後改善に有効である可能性

・ PB19 感染に起因する諸所見焼失後の児は、非感染児と同等の予後を示す

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[感染経路] 主として飛沫感染。接触感染やまれに輸血、血液製剤による。

単発でも発生するが3~10年ごとの流行もみられる。

成人では70%以上がPB19-IgG抗体をもつとの英国からの報告があるように、成人に達するまでに免疫を獲得している場合が多い。

未感染者中、医療従事者、保健事業従事者、学校、保育所勤務者は感染リスクが高い。

家庭内にリンゴ病患者がいる妊婦の場合は約50%が感染し、リンゴ病が流行している学校に勤務する妊婦では約20%に感染がみられ、リンゴ病流行がみられる地域に居住する妊婦には約6%に感染の可能性があると推定する報告がある。

ヒトのみがPB19の宿主となるので、家畜、ペット等を通じては感染しない。

[潜伏期間・ウイルス血症・症状]

成人がPB19に感染した場合、約4 日ないし10日の潜伏期間の後にウイルス血症となり、その期間は5 日程度持続する。

網状赤血球と血小板、白血球数はウイルス血症と同時期に低下、最低値を認める。一方、貧血はウイルス血症から約3~5日遅れて出現し、ウイルス血症の改善時に最も高度となる。

ウイルス血症のピーク時数日と感染から2週間経ったウイルス血症消失後に特徴的な紅斑や関節痛を示す(二相性症状)。しかし、25%の感染者は無症状であり、50%が風邪症状のみで、典型的なリンゴ病の症状を示す症例は25%にすぎない。

皮疹は頬部、大腿部、腕などに赤い斑点、あるいはまだら模様として出現する。患部は熱感をもち、掻痒感を伴うことがある。直接日光を浴びたり、入浴後に掻痒感は増強する。

Pb19

[感染期間]

発疹の発現する7~10日前のかぜ様の前駆症状期に最もウイルス排泄量が多く、発疹が現れたときにはウイルス血症は終息しており、ウイルスの排泄はほとんどなく感染力はほぼ消失している。

【妊婦感染の診断】 欧米では、妊婦の約0.25~1.0%にPB19感染が起こる。

母体のPB19急性感染の診断には、
①  PB19-IgMの検出、
②  PB19-IgGが4倍以上増加したこと、
③  PB19-DNA を定量または定性する方法、
④ NS1 蛋白またはVP1あるいはVP2を直接測定する方法
などが挙げられるが、①の方法が実際的である。

【胎児感染の診断】 

・ 胎児PB19感染の診断は、羊水中のPB19-DNA あるいは、胎児体液中のPB-19-DNA の証明により行う。

・ 分娩後であれば、臍帯血中PB19-IgMが診断の助けになる。

[胎児への影響]

・ 経胎盤感染が成立すると、胎児の赤芽球系細胞に感染、破壊し高度の胎児貧血をもたらし、胎児は非免疫性胎児水腫(non-immune hydrops fetalis)となる。

・ PB19感染妊婦の約2~10%が胎児水腫を合併する。胎児水腫は母体感染から1~8週間の間(中央値・3週間)に発生し、胎児水腫発生からは数日から数週間で胎児死亡となるか、あるいは自然に軽快する。

・ PB19感染妊婦の3.9%(40/1018)に胎児水腫が発生したが、妊娠32週未満感染例での頻度(4.4%)はそれ以降の頻度(0.8%)に比して高かった。

・ 子宮内胎児死亡は妊娠20週未満感染例で多かった。PB19感染妊婦1343例中、胎児死亡は110例(8.2%)に認められたが、うち98例は20週未満感染例であった。子宮内胎児死亡に至った110症例中、胎児水腫が確認された症例は51例であり、胎児水腫が必ずしも胎児死亡に先行していない可能性もある。

・ 胎児水腫の自然寛解も報告されている。胎児水腫539例の34%自然寛解が認められており、うち66%は5週間以内に、20%が5~8週間で自然寛解した。

・ 重症の胎児水腫の自然寛解は稀であることが示唆されている。

・ 胎児輸血の有効性を示唆している報告がある。

・ 本邦では「胎児腹腔内免疫グロブリン投与」の効果について多施設共同で検討されている。奏功例も報告されているが、まだその有効性については確立されていない。

・ PB19感染の催奇形性については否定されている。胎児感染後の生存例においては、その後の新生児期の問題点は指摘されていない。長期予後・成長予後についても、非感染妊婦から出生した症例と差がないという報告もある。

****** 問題

パルボウイルスB19(伝染性紅斑)感染に関して正しいのはどれか。2つ選べ。

a. B19抗体保有率は約90%である。
b. 母体に感染すると約80%に胎児感染が成立する。
c. 妊娠20週以降の感染で胎児水腫になる例が多い。
d. 胎児水腫による流死産の原因となる。
e. 赤芽系細胞に感染し、胎児貧血となる。

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正解:d、e


成人T細胞白血病(ATL)

2011年09月17日 | 周産期医学

Adult T-cell leukemia

HTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type-1: ヒトT細胞白血病ウイルス1型)は、成人T 細胞白血病(ATL)、HTLV-1 関連脊髄症(HAM)などの重篤なHTLV-1 関連疾患の原因ウイルスであり、母子感染する。

ATL 患者の大多数は、母子感染に起因する成人キャリアからの発症例で占められており、この点、HTLV-1 母子感染予防対策は重要である。ただし、キャリアが将来ATLを発症する確率は必ずしも高いとは言えない。

ATLは現時点で確立された治療法はなく予後不良である。しかし、ATLの発症年齢のほとんどが50歳以上であるので、妊婦自身や妊娠・分娩経過あるいは胎児に対する影響はない。

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ612 妊娠中にHTLV-1抗体陽性が判明した場合は?

Answer

1. スクリーニング検査(ゼラチン粒子凝集法や酵素抗体法)には偽陽性があることを認識する。(A)

2. スクリーニング検査陽性の場合、確認検査(ウェスタンブロット法)を行い、確認検査陽性の場合にHTLV-1 キャリアと診断し、妊婦に結果を伝える。(A)

3. HTLV-1 キャリア本人への告知は特に慎重に行う。(A)

4. 家族への説明可否は、妊婦本人の希望に基づき判断する。(B)

5. HTLV-1 キャリアの場合、経母乳母子感染予防の観点から、以下の栄養方法を選択肢として呈示する。(B)
 1) 人工栄養
 2) 凍結母乳栄養
 3) 短期間(3ヵ月以内)の母乳栄養

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【キャリア診断】

HTLV-1 感染(キャリア)診断は、
① スクリーニング検査(血中HTLV-1抗体測定)、
② スクリーニング検査陽性例に対する確認検査
という2段階の手順を踏む。

スクリーニング検査としては、ゼラチン粒子凝集法(PA法)や酵素抗体法(EIA法)に基づくキットがよく用いられる。しかし、これらの方法には非特異反応による偽陽性が少なからず存在する。

スクリーニング検査で陽性と判定されたら、ウェスタンブロット法(WB法)を用いて確認検査を行う。確認検査陽性であった場合にHTVL-1 キャリアと診断し、妊婦に結果を説明する。家族への説明は妊婦本人が希望した場合にのみ行う。

確認検査であるWB法でも診断がつかず「判定保留」となる例が10~20%いることが知られており、この場合、キャリアの確定診断は困難である。診断のためにPCR法(保険未収載)の結果が参考になることがあるが、これも絶対ではない。こうした女性の中にも、頻度は不明ながらキャリアが存在することが知られている。

【母子感染予防】

HTLV-1 は主に経母乳感染する。低頻度だが、子宮内感染、産道感染もある。長期母乳栄養哺育児への感染率は15~40%と報告されている。

母子感染率低減に有効な方法として以下3法が推奨されている。 

1) 人工栄養
感染Tリンパ球を含んだ母乳が児の口に入らないため、経母乳感染予防には最も確実な方法である。しかし、人工栄養を用いても母子感染率は3~6%あるとされる。これは子宮内感染や産道感染は防止できないためである。

2) 凍結母乳栄養
搾乳した母乳をいったん冷凍(-20℃・12時間)した後に解凍して与える方法である。感染T リンパ球が不活化されるために母子感染予防効果が得られる。

3) 短期間(3ヵ月以内)の母乳栄養
母体からの移行抗体が母乳中に存在するとされる短期間だけ母乳栄養を行い、その後人工栄養を選択する方法である。ただし、中和抗体にも個人差があり、理論的に確実である保障はない。なお、母乳栄養を行う場合には、「その量が少ないほど、また期間が短いほど母子感染率が低下する」ことはほぼ確実である。

【HTLV-1の病原性について】

HTLV-1 感染(主に母子感染)によりキャリアになった成人において、CD4 陽性T 細胞の腫瘍性増殖が起こることがある。これがATL であり、HTLV-1 はATL の原因ウイルスである。

HTLV-1 キャリアからのATL の生涯発症率は3~7%程度と報告され、40歳以上のキャリア約750~2000人の中から1 年に1 人発症してくる。本邦発症者数は約700人/年である。

いったんATLが発症すると、化学療法の治療成績は完全寛解率16~41%、生存期間中央値3~13ヵ月、と極めて予後不良である。

我が国のHTLV-1 キャリア成人数は約108万人と推計されている。キャリア成人の地域分布には特徴があり、沖縄や九州地方でキャリア率が高い。近年キャリア全体に占める他地域在住キャリアが占める割合増加が指摘されている。

HTLV-1 感染経路は、母子感染、血液の移入(輸血、臓器移植、注射)、性交による男性から女性への感染に限られる。針刺し事故によるHTLV-1 感染の可能性はほとんどないとされている。

****** 問題

母乳による新生児感染が重要とされるのはどれか。2つ選べ。

a. ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
b. ヒトパピローマウイルス
c. B型肝炎ウイルス
d. 成人T細胞白血病ウイルス
e. インフルエンザウイルス

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正解:a、d