human parvovirus B19
PB19は伝染性紅斑(リンゴ病)、貧血、関節炎の原因ウイルスである。PB19は赤血球系前駆細胞に感染し、赤血球造成を一時的に抑制する(一時的貧血、一過性骨髄無形成発作、transient aplastic crisis)。
妊婦が感染すると経胎盤胎児感染が懸念され、感染した胎児の一部は貧血、胎児心不全、あるいは胎児水腫を示し死亡に至る場合もある。
****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ614 パルボウイルスB19(PB19)感染症(リンゴ病)については?
Answer
1. 以下の2点を認識する。(B)
・ 同居者のPB19感染は妊婦PB19感染の危険因子である
・ 感冒様症状、それに伴う発疹(紅斑)、関節痛等はPB19感染を示唆する
2. 妊婦PB19感染を疑った場合、PB19-IgMを測定する。(B)
3. 妊婦PB19感染の場合、「胎児貧血、胎児水腫、あるいは胎児死亡が約10%に起こり得る」ので、胎児貧血・胎児水腫について評価する。(C)
4. 胎児水腫の原因検索時にはPB19感染を考慮する。(B)
5. 他妊婦への感染防止のために感染妊婦には手洗い・マスク着用を勧める。(C)
6. パルボウイルス感染について表1内容の報告があると認識する。(C)
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(表1) 胎児パルボウイルス感染に関する報告
・ 胎児水腫発症例の9割は母体感染後 8週以内に発症(中央値・3週)
・ 20週未満感染例では20週以降感染例に比し胎児死亡率が高い
・ 胎児水腫の約1/3 が自然寛解する
・ 胎児輸血が予後改善に有効である可能性
・ PB19 感染に起因する諸所見焼失後の児は、非感染児と同等の予後を示す
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[感染経路] 主として飛沫感染。接触感染やまれに輸血、血液製剤による。
単発でも発生するが3~10年ごとの流行もみられる。
成人では70%以上がPB19-IgG抗体をもつとの英国からの報告があるように、成人に達するまでに免疫を獲得している場合が多い。
未感染者中、医療従事者、保健事業従事者、学校、保育所勤務者は感染リスクが高い。
家庭内にリンゴ病患者がいる妊婦の場合は約50%が感染し、リンゴ病が流行している学校に勤務する妊婦では約20%に感染がみられ、リンゴ病流行がみられる地域に居住する妊婦には約6%に感染の可能性があると推定する報告がある。
ヒトのみがPB19の宿主となるので、家畜、ペット等を通じては感染しない。
[潜伏期間・ウイルス血症・症状]
成人がPB19に感染した場合、約4 日ないし10日の潜伏期間の後にウイルス血症となり、その期間は5 日程度持続する。
網状赤血球と血小板、白血球数はウイルス血症と同時期に低下、最低値を認める。一方、貧血はウイルス血症から約3~5日遅れて出現し、ウイルス血症の改善時に最も高度となる。
ウイルス血症のピーク時数日と感染から2週間経ったウイルス血症消失後に特徴的な紅斑や関節痛を示す(二相性症状)。しかし、25%の感染者は無症状であり、50%が風邪症状のみで、典型的なリンゴ病の症状を示す症例は25%にすぎない。
皮疹は頬部、大腿部、腕などに赤い斑点、あるいはまだら模様として出現する。患部は熱感をもち、掻痒感を伴うことがある。直接日光を浴びたり、入浴後に掻痒感は増強する。
[感染期間]
発疹の発現する7~10日前のかぜ様の前駆症状期に最もウイルス排泄量が多く、発疹が現れたときにはウイルス血症は終息しており、ウイルスの排泄はほとんどなく感染力はほぼ消失している。
【妊婦感染の診断】 欧米では、妊婦の約0.25~1.0%にPB19感染が起こる。
母体のPB19急性感染の診断には、
① PB19-IgMの検出、
② PB19-IgGが4倍以上増加したこと、
③ PB19-DNA を定量または定性する方法、
④ NS1 蛋白またはVP1あるいはVP2を直接測定する方法
などが挙げられるが、①の方法が実際的である。
【胎児感染の診断】
・ 胎児PB19感染の診断は、羊水中のPB19-DNA あるいは、胎児体液中のPB-19-DNA の証明により行う。
・ 分娩後であれば、臍帯血中PB19-IgMが診断の助けになる。
[胎児への影響]
・ 経胎盤感染が成立すると、胎児の赤芽球系細胞に感染、破壊し高度の胎児貧血をもたらし、胎児は非免疫性胎児水腫(non-immune hydrops fetalis)となる。
・ PB19感染妊婦の約2~10%が胎児水腫を合併する。胎児水腫は母体感染から1~8週間の間(中央値・3週間)に発生し、胎児水腫発生からは数日から数週間で胎児死亡となるか、あるいは自然に軽快する。
・ PB19感染妊婦の3.9%(40/1018)に胎児水腫が発生したが、妊娠32週未満感染例での頻度(4.4%)はそれ以降の頻度(0.8%)に比して高かった。
・ 子宮内胎児死亡は妊娠20週未満感染例で多かった。PB19感染妊婦1343例中、胎児死亡は110例(8.2%)に認められたが、うち98例は20週未満感染例であった。子宮内胎児死亡に至った110症例中、胎児水腫が確認された症例は51例であり、胎児水腫が必ずしも胎児死亡に先行していない可能性もある。
・ 胎児水腫の自然寛解も報告されている。胎児水腫539例の34%自然寛解が認められており、うち66%は5週間以内に、20%が5~8週間で自然寛解した。
・ 重症の胎児水腫の自然寛解は稀であることが示唆されている。
・ 胎児輸血の有効性を示唆している報告がある。
・ 本邦では「胎児腹腔内免疫グロブリン投与」の効果について多施設共同で検討されている。奏功例も報告されているが、まだその有効性については確立されていない。
・ PB19感染の催奇形性については否定されている。胎児感染後の生存例においては、その後の新生児期の問題点は指摘されていない。長期予後・成長予後についても、非感染妊婦から出生した症例と差がないという報告もある。
****** 問題
パルボウイルスB19(伝染性紅斑)感染に関して正しいのはどれか。2つ選べ。
a. B19抗体保有率は約90%である。
b. 母体に感染すると約80%に胎児感染が成立する。
c. 妊娠20週以降の感染で胎児水腫になる例が多い。
d. 胎児水腫による流死産の原因となる。
e. 赤芽系細胞に感染し、胎児貧血となる。
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正解:d、e