水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: VZV)の初感染により水痘(varicella)を発症する。神経根に潜んだVZVの再活性化が帯状疱疹(herpes zoster)を起こす。
ほとんどの妊婦は小児期に水痘罹患し抗体を有しており問題ないが、未罹患妊婦が水痘罹患すると非妊時より重症化しやすく、妊娠末期では肺炎の合併が増し、死亡率は2~35%と報告されている。また、VZVは経胎盤的に胎児に移行し、その時期により種々の影響がでる。
****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011
CQ611 妊娠中の水痘感染の取り扱いは?
Answer
1. 水痘に関して問われたら以下のように答える。
1)水痘感染既往なく、ワクチン接種歴のない妊婦は、水痘患者との接触を避ける。(A)
2)妊娠中の水痘感染の場合、妊娠初期では0.55%に、妊娠中期では1.4%に、妊娠末期では0.0%に先天性水痘症候群が認められたとの報告がある。(B)
3)妊娠前3か月以内に、あるいは誤って妊娠中にワクチン接種をうけた場合、現在までの報告では先天性水痘症候群あるいはワクチン接種に起因する奇形の報告はない。(B)
2. 妊婦に対して水痘ワクチン接種は行わない。(A)
3. 過去2週間以内に水痘患者と濃厚接触(顔を5分以上合わせる、同室に60分以上等)があり、かつ「抗体がない可能性が高い妊婦」においては予防的ガンマグロブリン静注(2.5g~5.0g)を行う。ただし、保険適用はない。(C)
4. 感染妊婦には母体重症化予防を目的としてアシクロビルを投与する(有益性投与)。(C)
5. 母親が分娩前5日~産褥2日の間に発症した例では以下の治療を行う。
・ 母体にアシクロビル投与(B)
・ 新生児へのガンマグロブリン静注(B)
・ 児が発症した場合は児へのアシクロビル投与(B)
6. 入院中母親が発症した場合、他の妊婦への感染に配慮し個室管理等を行う。(C)
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(表1) 先天性水痘症候群の主な症状(文献※)より引用)
1)感覚神経の障害
皮膚症状:皮膚の瘢痕、色素脱出
2)視覚原器の障害
小眼球症
網脈絡膜炎
視神経萎縮
3)頸髄と腰仙髄の障害
四肢の低形成
指趾の無形成
運動・知覚障害
深部腱反射の喪失
瞳孔不同・ホルネル症候群
肛門括約筋・膀胱括約筋の機能障害
4)中枢神経系障害
小頭症
水頭症
脳内石灰化
5)その他
低出生体重児
体重増加不良
※)中野貴司:水痘の母児感染と対策.産婦人科治療.2005:600-604
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【病原体】 水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)
【感染経路】 空気感染と水疱内容物の接触感染。
【潜伏期間】 水平感染では接触後14~16日、垂直感染では妊婦の症状出現後9~15日。
妊婦に帯状疱疹がでることもあるが、帯状疱疹を発症した妊婦からは一般的にVZVは垂直感染しないとされている。
【症状】 38℃台の発熱、倦怠感、食欲不振、皮疹(3~4mm大の紅色疹)。皮疹は紅疹→丘疹→水疱→膿疱→痂皮と変化し、顔面から始まって全身性に広がる。皮疹にはさまざまな段階が混在する、有毛頭部にも出現するなどの特徴がある。
初期の水痘:紅い点状の小丘疹が出現し、一部露滴状の水疱を形成している。
【診断】 臨床像から診断可能である。ウイルス学的には、血清VZV-IgM抗体の検出、血清抗体価の上昇、VZV抗原の検出、水疱からのウイルス分離などにより確定できる。
【治療】
・ 過去2週間以内に水痘患者と濃厚接触(顔を5分以上合わせる、同室に60分以上等)があり、かつ「抗体がない可能性が高い妊婦」においては予防的ガンマグロブリン静注(2.5g~5.0g)を行う。ただし、保険適用はない。
・ アシクロビル(ACV)は水痘に有効である。妊婦水痘では重篤化しやすいことを考慮して、ACV点滴静注(10mg/kgを1日3回)を勧める報告もある。 特に、妊娠末期の感染では母体の重症化、分娩前5日~分娩後2日の罹患では児水痘の重症化のリスクが高いため、ACV投与を考慮する。
・ 水痘ワクチンは生ワクチンのため妊婦への接種は禁忌である。
【母体水痘罹患の児への影響】
・ 先天性水痘症候群(Congenital varicella syndrome:CVS): 妊娠20週以前の罹患では2%に四肢低形成、四肢皮膚瘢痕、眼球異常などが出現する(表1)。その後の多数例の集計では、妊婦が水痘に感染すると、1st trimesterでは0.55%(4/725)に、2nd trimesterでは1.4%(9/642)に、3rd trimesterでは0.0%(0/385)にCVSが認められた。
・ 妊娠20週~分娩21日前までに妊婦が水痘に感染すると、出生した児の9%は水痘に罹患することなく乳幼児期に帯状疱疹を発症する。
・ 分娩前21日~分娩前6日の罹患では、生後0~4日に児に水痘が発症しても母体からの移行抗体のために軽症で済む。
・ 分娩前5日~分娩後2日の罹患では30~40%の児に生後5~10日に水痘を発症し重症化することがあり、死亡率は30%である。このため、この期間に罹患した母親から出生した児に対しては、出生直後の静注用ガンマグロブリン(IVIG):200mg/kg投与と、水痘発症した場合はアシクロビル(ACV)投与が勧められる。
また、妊娠末期に妊婦が水痘を発症した場合、新生児重症化防止目的のために(保険適用はないが)子宮収縮抑制剤を投与し妊娠期間延長を図る場合もある。