ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

新生児黄疸

2011年09月08日 | 周産期医学

neonatal jaundice

【定義】 黄疸とはビリルビンによる皮膚の黄染を意味し、新生児期はほとんどすべての児に発現する。このうちビリルビン値の急激な上昇や血清中の異常な高値、長期に遷延する場合を病的黄疸とよび、検査と治療を要する。

【病態】 新生児は生理的に多血症であり、新生児の赤血球寿命が短いためビリルビン産生が増加しやすい。

【病的黄疸の原因】
・ 溶血性疾患: 血液型不適合、赤血球形態異常など。
・ 血管外の多量の血液貯留: 頭血腫、帽状腱膜下血腫など。
・ 消化管からのビリルビンの吸収亢進: 消化管の機械的閉塞、蠕動の減少など。
・ 肝臓におけるビリルビン処理の減少: 肝臓・胆嚢の疾患(先天性胆道閉鎖や拡張症など)における肝臓でのビリルビンの取り込み減少や排泄障害、グルクロン酸抱合の低下。

【時期による分類】
早発黄疸: 生後24時間以内に見られる黄疸
生理的黄疸: 生後2日~2週間程度に見られる黄疸
遷延性黄疸: 生後2週間以上見られる黄疸

【病態による分類】
高間接(非抱合)ビリルビン血症
  早発: 母児間血液型不適合
  遷延性: 母乳性黄疸
高直接(抱合)ビリルビン血症
  早発: 敗血症
  遷延性: 新生児肝炎、先天性胆道閉鎖症

【症状】 重篤な場合、特有な中枢神経症状(哺乳力低下、かん高い泣き声、筋緊張亢進、後弓反射など)を呈する。これを核黄疸といい、脳障害の後遺症を残す。

Opisthotonus
後弓反射(Opisthotonus)

【検査】
・ 血清総ビリルビン値と肝臓でグルクロン酸抱合を受けていない非抱合型ビリルビン(間接ビリルビン)を測定する。
・ 間接ビリルビンは血液脳関膜を通過しやすいので中枢神経障害の原因となる。
・ ビリルビンには聴神経毒性があり、聴性脳幹反応(ABR)の異常は間接ビリルビン値とよく相関している。

【治療】
光線療法: 
 光線をあてて血中ビリルビンを分解する治療法である。光線によって尿からの排出を促進する。最近は副作用の少ない470~620μmの波長のグリーンライトが使用されている。この治療法は間接(非抱合型)ビリルビンを低下させる目的にしか使えず、直接(抱合型)ビリルビンが高いとブロンズベイビー症候群を起こすので禁忌となる。

Icterus
     光線療法の基準
   体重・日齢・ビリルビン値

交換輸血
 光線療法だけでは血中ビリルビン値が低下しない場合は、交換輸血を施行する。
 血中の抗体及び、抗体と結合した赤血球を交換することによって根治的に重症黄疸(新生児溶血性疾患=母児間血液型不適合)を治療する。

ガンマ-グロブリン大量点滴療法
 この治療法は交換輸血と同程度の効果があり、交換輸血の頻度は大幅に減少している。


マラリア

2011年09月05日 | 周産期医学

malaria

感染症の話[マラリア](国立感染症研究所・感染症情報センター)

Malaria
ハマダラカ

【病原体】
 従来、ヒトにマラリアを起こす原因となるのは、
熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、
三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、
四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、
卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)
の4種のマラリア原虫とされてきたが、近年、
サルマラリア原虫(Plasmodium knowlesi)
が5種目として大きな注目を集めている。

 マラリア原虫は脊椎動物で無性生殖を、昆虫で有性生殖を行う。したがって、ヒトは終宿主ではなく中間宿主である。
 ハマダラカで有性生殖を行なって増殖した原虫は、スポロゾイト(胞子が殻の中で分裂して外に出たもの)として唾液腺に集まる性質を持つ。メスのハマダラカは産卵のために吸血を行うが、その際に唾液を注入するので、その中のスポロゾイトがヒト体内に侵入する。
 血液中に入ると45分程度で肝細胞に取り付く。肝細胞中で1~3週間かけて成熟増殖し、分裂小体(メロゾイト)が数千個になった段階で肝細胞を破壊し赤血球に侵入する。赤血球内で 8~32個に分裂すると赤血球を破壊して血液中に出る。分裂小体は新たな赤血球に侵入しこのサイクルを繰り返す。これが無性生殖のサイクルである。
 三日熱マラリア原虫と卵形マラリア原虫の場合には、肝細胞内で長期間潜伏状態となる休眠原虫も形成され、これが後になって分裂を開始して血中に放出されると、再発を生ずることになる。
 無性生殖を繰り返しているうちに、一部の原虫は雌雄の区別がある生殖母体(有性原虫)ヘと分化する。これはヒト体内では合体受精をしないが、ハマダラカに吸われるとその中腸内で合体受精して最終的にオーシストとなり、その中に多数のスポロゾイトが形成され、それらが唾液腺に集積する。

【好発年齢】 特になし

【性差】 なし

【分布】 熱帯アフリカ、インド亜大陸、東南アジア、オセアニア、中南米、その他

【疫学】
・ 世界全体でマラリア罹患は年間3億~5億人、死亡は年間150万~270万人と推定されている。そのほとんどは熱帯アフリカの小児であるが、インド亜大陸、東南アジア、オセアニア、中南米、そのほかにも広く分布する。

・ 疫学的にもマラリア流行は改善どころか悪化している面が大きく、特に熱帯熱マラリアでの薬剤耐性は重要問題である。

・ わが国への輸入例は、最近では年間120例前後であり、死亡例も年間3例程度はあるとみられる。それ以外に日本人の現地での発病や死亡も無視できない。特に、途上国援助、若者の旅行形態の変化などは重要な原因である。

【感染経路】 ハマダラカによる刺咬、まれに輸血や針刺し事故。通常の接触では二次感染はないと考えてよい。

【潜伏期】 熱帯熱マラリアで1~3週間、他のマラリアで10日~4週間であるが、時には数か月~1年以上の場合もある。これは原虫が肝臓に侵入してから増殖して血中に出て、さらに血中で増殖して発病に至る期間に相当する。

【臨床症状】 
・ 三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリア:
 基本的に良性マラリアであり、発熱とそれによる症状はあっても、生命が危険になることは通常ない。初期には毎日発熱し、悪寒のみならず戦慄を伴うことが多い。
 三日熱マラリア、卵形マラリアでは症状は似ており、治療が開始されないと数日後に1日おきの発熱パターンに移行するが、四日熱マラリアでは2日おきの発熱パターンに移行する。四日熱マラリアが慢性化した場合に、ネフローゼ症候群を合併することが知られている。

・ 熱帯熱マラリア:
 毎日あるいは1日2~3回不規則に発熱し、悪寒を伴うが戦慄は必ずしも伴わない。発熱に伴う頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛なども高度で、解熱している時間帯でも健康感はない。時に悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状、咳などの呼吸器症状を伴うことがある。
 熱帯熱マラリアで診断・治療の開始が遅れた場合、治療が適切でない場合などに種々の臓器あるいは系統の障害をきたす。
 脳症では軽度の場合に頭痛、傾眠程度であるが、重症になると錯乱、痙攣、昏睡にまで発展し、死亡の危険もある。
 肺水腫では息切れ、呼吸困難、起座呼吸などから呼吸不全で死亡することもある。
 急性腎不全では尿毒症症状を起こし、他に重症貧血、出血傾向、代謝性アシドーシスなどがみられる。
 黄疸を呈するほどの肝機能障害もみられる。
 特に小児や妊婦の場合、あるいはキニーネ使用時などに低血糖を生じることもある。

・ サルマラリア:
 サルマラリアは24時間以下の周期で急激に原虫が増加し、他のマラリアと異なりほぼすべての赤血球に侵入するため症状は重篤になることが多い。マレーシア・サラワク州では今日のマラリア症例の70%がサルマラリアによるものであることも報告されている。タイでも報告例がでてきた。当該地域でのマラリアコントロールは新たな手法による対応を迫られている。

【一般検査所見】 血小板減少、LDH上昇、総コレステロール(特にHDLコレステロール)低下、血清アルブミン低下などが高頻度にみられる。貧血は長期化するとみられるが、病初期にはみられないことも多い。

【病原診断】 血液塗抹標本をギムザ染色して光学顕微鏡で検査し、マラリア原虫を検出する。原虫が認められた場合には原虫種の判定を行うが、熱帯熱マラリア原虫とそれ以外のマラリア原虫とを区別することが重要である。

血液塗抹標本で見られる熱帯熱マラリア原虫は通常、輪状体のみであり、数が少ないときなど見逃しやすい。したがって他の検査手段、すなわち抗原検出法やPCR法などを併用することが望ましい。

Plasmodium_falciparum_ring
赤血球内に感染している熱帯熱マラリア原虫の輪状体
(スケールは10μm)

Plasmodium_falciparum
熱帯熱マラリア原虫
愛媛大学のホームページより)

【治療】 急性期には、クロロキン、キニーネ、スルファドキシン・ピリメタミン合剤(商品名:ファンシダール)、メフロキン(商品名:メファキンエスエス)、ドキシサイクリン(商品名:ビブラマイシン)などが用いられる。クロロキンは他の薬剤よりは副作用が少ないため、予防薬や治療の際最初に試す薬として使われることが多いが、クロロキンに耐性を示す原虫も存在する。

プリマキンは、三日熱マラリア、卵形マラリアでの急性期治療の後に根治療法薬として使用されるが、肝細胞内休眠原虫に対しての効果による。

近年では、漢方薬を由来としたチンハオス系薬剤(アーテミシニン、アーテメーター、アーテエーター、アーテスネート、ジヒドロアーテミシニン)が副作用、薬剤耐性が少ないとされ、マラリア治療の第一選択薬として広く使用されるようになった。

重症熱帯熱マラリアでは、適切な抗マラリア薬療法以外に、合併症の病態に応じた適切な支持療法も重要である。欧米での最近の傾向として交換輸血が積極的に行われている。

【予防の3原則】 
1)蚊による刺咬を避けること
2)予防的に抗マラリア薬を服用すること
3)マラリアが疑われるときに、自らの判断で抗マラリア薬を服用すること(スタンバイ治療)

【感染症法における取り扱い】 マラリアは四類感染症であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る。

【妊娠中のマラリア感染】
・ マラリア感染は、妊娠第2三半期、第3三半期から分娩後2カ月の間に、通常の3倍から4倍に増える。

・ 妊娠によって熱帯熱マラリアの重症度は増し、特にマラリアに感染したことのない未経産の女性はその傾向が強い。

・ マラリアにより流・早産率は上昇する。

・ 胎盤や胎児への感染により死産が起こることがある。

・ マラリア原虫は脱落膜血管に親和性があるため、胎児には感染していなくても広範囲にわたって胎盤感染を起こすことがある。

・ 新生児感染は少なく、マラリアに抗体のない母体から生まれた新生児で先天性マラリアを発症するのは7%である。

・ 通常用いられる抗マラリア薬は、妊娠中に禁忌ではない。

・ マラリアが流行している地域に旅行する妊婦には、化学的予防が推奨されている。マラリアが蔓延している地域に入る1~2週間前からクロロキン(500mg1週間に1回内服)を開始し、マラリアが流行していない地域に戻ってから4週間はこれを続ける。 


NT(nuchal translucency)

2011年09月04日 | 周産期医学

妊娠初期の胎児を超音波断層法の矢状断面で観察している時に、項部(後頸部)付近の皮膚が浮き上がって膨隆した形に見えることがある。膨隆した部分は無構造で、超音波が透過した抜けた形であるため、これを胎児項部透過像(NT: nuchal translucency) とよぶようになった。

NTの臨床的意義

1992年にNicolaidesらが、妊娠初期の胎児のNTの幅とダウン症の発生頻度に正の相関がみられることを報告した。さらにその後の研究によって、妊娠初期の胎児のNT肥厚例では、染色体異常、先天性心疾患、中枢神経疾患、消化器疾患、泌尿器疾患、神経筋疾患、代謝障害などの疾患に罹患している可能性があることが明らかとなってきた。

すなわち、妊娠11~13週の胎児(CRL:45~84 mm)の正中矢状断面で計測し、NTの幅が3mm以上の場合に、Down症などの染色体異常や先天性疾患などの胎児異常の確率が増加するといわれている。 しかしながら、NT肥厚例であっても染色体異常も先天異常もない児が数多く存在するという事実を決して忘れてはならない。NTは胎児異常の可能性を示すものであって、確定診断にはならない。

NTは染色体異常や先天異常のマススクリーニング法として欧米で急速に広まった検査項目であるが、現在の我が国ではこのようなマススクリーニング法が容認される状況ではない。我が国での周産期医療でNT計測は標準的検査ではない。産婦人科医には、「NT 検査の存在を積極的に妊婦に知らせる義務」はない。

NTが異常に増大した胎児に染色体異常や心奇形を伴う例が多いことは事実だが、我が国の出生前診断は、カウンセリングやサポート体制が整っているとは言い難く、このような状況を考慮すると、NTと胎児異常との関連を強調しすぎることは、現時点ではむしろ慎むべきとの考え方が主流である。

「NT検査を受けるかどうか」「NT異常が発見された場合の告知をどうするか」について十分な話し合いが持たれていない状態で、意図せずにNT異常が発見される場合も比較的多い。偶然にNT異常が発見された場合の対処については、施設ごとに方針をたてることになるが、遺伝カウンセリングが可能な施設に紹介することも考慮する。

******

NT計測の正しい条件:

・ NTは妊娠10~14週間、あるいは妊娠11週~13週6日(CRLが45~84mm の時期)に測定するように勧められている。
・ 画像内に胎児頭部と胸郭上部のみが描出される程度までに拡大した画像上での測定が推奨される。
・ 胎児矢状断面で胎児頸部皮下貯留液最大幅を測定する。胎児が反屈位では実際よりNT が大きく、逆に屈位が強いと小さく評価されることに注意する。

正常胎児のNT
Normalnt

------

NT肥厚例
Increasednt 

******* 

産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ106  NT(nuchal translucency)肥厚が認められた時の対応は?

Answer

1. NT が測定された状況を確認する。正確な判定には以下が必要である。
・ 妊娠10~14週間での測定。(C)
・ 超音波画像の拡大率が十分であり、胎児上半身が大きく描出されていること(図 1)。(C)
・ 矢状断面で計測されていること(図 1)。(C)

2. 検査前から「胎児異常に関する情報提供」を希望している妊婦に対しては所見を説明する。(B)

3. 「情報提供を希望しない」妊婦もいる。「胎児異常に関する情報提供」の希望有無が確認できていない妊婦に対しては慎重に対応する。(A)

4. 上記 2、3 いずれの場合にも倫理的側面に配慮する。(A)

5. 正確に測定された NT 値の持つ意味、今後の診断過程については以下のように説明する。(C)
・ NT 値が3mm、4mm、5mm、および 6mm 以上の場合、trisomy21、trisomy18、あるいは trisomy13の確率は当該患者の年齢別確率よりも約3倍、18 倍、28 倍、および36 倍高くなる。(図 2)
・ NT≧3.5mmで染色体正常の出生児は、90%強の無病生存が期待できる。
・ 染色体異常児の約 70% が NT 値≧95 パーセンタイル値を示す。95 パーセンタイル値は週数増加(11 週~13 週 6 日間)につれ 2.1mm から 2.7mm へと増大する。週数に関連なく 99 パーセンタイル値は 3.5mm である。
・ 染色体異常の確定診断のためには羊水検査が必要である。

******

NT (nuchal translucency)

Inc20nty
(左:正常例、右:NT肥厚例)
Fetal Diagnostic Centers, Dr. DeVore

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency_2
(NT肥厚例、5.8mm)
OBGYN.net, Daniel Cafici

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency_3
(NT肥厚例、4.1mm)
OBGYN.net, Joseph Allen Worrall

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency
(NT肥厚例、3.7mm)
OBGYN.net, Mario Ernesto Libardi

Ob_1_abnormal_nuchal_translucency_h
(NT肥厚例、13mm)
OBGYN.net, Martin Horenstein

Nt
(日本産婦人科医会研修ノートNo.74。必ずしも項部に最大厚みがみられるわけではない。このNTは項部で2.6mm、後頭部で3.8mm)

****** 問題

NT(nuchal translucency)で正しいのはどれか。1つ選べ。

a. 胎児全身の皮下浮腫である。
b. 妊娠16~20週で測定する。
c. 児の横断面で計測する。
d. 染色体異常の確定診断には羊水検査が必要である。
e. 染色体正常のNT異常児には骨形成異常が多い。

------

正解:d

****** 問題

NT(nuchal translucency)で正しいのはどれか。1つ選べ。

a. 妊娠10~14に計測した値を用いる。
b. 胎児冠状断面で計測した値を用いる。
c. 経腟超音波で計測した値のみを用いる。
d. NT値3mmの場合、同年齢での比較で胎児染色体異常は約30倍である。
e. NT肥厚があり染色体正常の場合、最も多い異常は溶血性貧血である。

------

正解:a


RSウイルス感染症

2011年09月01日 | 周産期医学

Respiratory Syncytial Virus (RSV)

【発症時期】 冬季に多く、ときに大流行をみることがある。

Rsv_2

【好発年齢】 乳幼児、とくに1歳以下の小児で多い。

【病態】 RSVが細気管支に感染すると、粘液の分泌物が多くなり細気管支が細くなる。息を吸う場合には横隔膜の力が補助の働きをするため吸うことはできるが、息を吐くことが充分にできず、空気を肺に取り込んだま まの状態となって呼吸困難となる。

【症状】 
・ RSVは成人や年齢の高い小児では上気道感染(鼻汁、咳)を起こすだけであるが、乳児がRSVに感染すると、上気道感染に引き続き、下気道感染(肺炎、細気管支炎)を引き起こし、38~3度の発熱や無呼吸発作を認めることがある。

・ RSV感染では、早産児(とくに肺障害をもつ場合)、免疫不全患者、心疾患患者(とくに大きな右→左シャントのある場合)で、重篤な肺炎、細気管支炎に罹患し、ときに人工呼吸を要したり、死亡に至ることもある。世界では人口10万人当たり5.3人、年間60万人の乳児がRSV感染によって死亡しており、百日咳と並び、生後6カ月までの乳児にとって最も怖い感染症である。

・ 1歳までに7割が感染し、初感染した乳児の3分の1が下気道感染を起こす。急性期を超えても影響が残り、RSV細気管支炎で入院した児はその後2年間の入院率・死亡率が高いことや、喘鳴、喘息のリスクが高いことが報告されている。3歳までにRSV下気道感染を起こした場合、反復性喘鳴などの影響が11歳ころまで残るというデータもある。

・ 年長者・成人では、RSVに感染しても軽症であるため、単なるかぜ症候群として見過ごされていることが多く、これらの者が周囲の小児へのRSV感染源となりうることに十分留意する必要がある。

【診断】 咽頭ぬぐい液による迅速反応。

胸部X線写真:息を吸えるが吐き出せない状態のため、肺の含気量は増加し、心陰影は縮小する。

Rsvchest

【RSV感染予防】 パリビズマブ Palivizumab(商品名:シナジス
・ パリビズマブはRSVに特異的に結合するヒト化モノクローナル抗体である。
・ RSV流行期間中、効果を維持するためには、毎月1回の筋肉注射が必要である。
・ 早産児や、肺・心疾患をもち、RSV感染により重症化が予想される乳幼児に限り、使用される。
・ 副作用はほとんどない。

パリピズマブ(商品名:シナジス)の投与適応:
RSウイルス感染流行初期において
・ 在胎期間28週以下の早産で、12ヵ月齢以下の乳児。
・ 在胎期間29~35週の早産で6ヵ月齢以下の乳児。
・ 過去6ヵ月以内に気管支肺異形成症(慢性肺疾患)の治療を受けた24ヵ月齢以下の乳幼児。
・ 24ヵ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患の乳幼児。

投与の用法・用量は、体重1kgあたりパリビズマブ15mgをRSV流行期を通して月1回筋肉内に投与する。

****** 産婦人科診療ガイドライン・産科編2011

CQ803 36週未満早産児が退院する時、RSV(Respiratory Syncutrial Virus)感染症に関する情報提供は?

Answer

1. 36週未満早産児はRSVに感染すると重症化しやすいことを伝える。(C)
2. 予防的薬剤が存在し、RSV感染流行期に投与することにより症状軽減が期待できると伝える(C)。
3. 予防的薬剤の投与可能施設についての情報を提供する。(C)

******

(表1)「日本におけるパリビズマブの使用に関するガイドライン」における早産児に対するパリビズマブ投与適応

在胎期間35週以内で出生した早産児については慢性肺疾患(chronic lung disease: CLD)の有無にかかわりなく、下記グループに対してパリビズマブの投与を考慮する。
a. 在胎期間28週以下(または出生体重1000g未満)で出生し、RSV流行開始時に生後12ヵ月齢以下のもの
b. 在胎期間29~32週(または出生体重1000~1800g程度)で出生し、RSV流行開始時に生後6ヵ月齢以下のもの
c. 在胎期間33~35週で出生し、RSV流行開始時に生後6ヵ月齢以下でRSV感染症のリスクファクターを持つ乳幼児については、投与の必要性を個別に判断し、必要に応じて投与を考慮する(リスクファクターを下記に示す)

在胎期間33~35週の早産児で考慮すべきRSV感染症のリスクファクター
1. 呼吸器疾患のある小児
2. RSV流行時に退院する小児
3. 人工換気療法または長期酸素療法を受けた小児
4. 退院後に託児所。保育所を利用する小児
5. 受動喫煙に暴露される小児

******

在胎34~36週(Late Preterm)で出生した早産児は、出生直後に呼吸障害や新生児仮死がなければ、新生児科を介入させずに、正常新生児として一次産科診療施設を退院する可能性がある。しかし、在胎36週未満早産児は、RSVに感染すると重症化しやすいので、退院時にRSV感染症に関する情報を提供する必要がある。