月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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ウェズン・9

2014-12-22 06:56:11 | 詩集・瑠璃の籠

白い絹の上に幻想を描いて
あなたの生まれた朝を思うてみましょう
わたしはあなたを生んだ母になる
生まれてすぐのあなたを
薔薇の香りのする湯で洗って
きれいな布で包みましょう

泣かないで 怖くはない
どんなことをしても
幸せにしてあげますから
あなたが笑ってくれたら
薔薇も刺をひっこめてしまう
小鳥はおずおずと新しい歌を歌いはじめる

もういいでしょう もういいでしょう
あなたはもうずっと
幸せなままでいいのです
何もかも忘れていいのです

あなたが生まれて死んだ日の
カレンダーに薔薇のしるしをつけて
その日が来るたびに
両手いっぱいの薔薇を摘んできてあげましょう
ついてこなくていいというのに
小鳥がいっぱいついてくる
やさしい歌を歌うのに 伴奏がいるだろうと

その日太陽は澄んだ光を放ち
風は静かに漂い
木々がかすかに頭を下げて挨拶をする
忘れた記憶は 日向水に溶かして
少しずつ 川に流して捨てていきましょう
あなたを不幸にするものは
もう二度とあなたにさわれない

それは夏の初め
青空には まっすぐな飛行機雲
雲に紛れて白い月が笑っている
大地では 聞こえない声で
花々の全てが愛の歌を歌う
幸せにしてあげますから
必ず 幸せにしてあげますから

通り過ぎていった風を
呼び戻すことはできない
でも すきとおる夏の光の
みどりごのようなあなたに
薔薇をあげましょう
いくらでもあげましょう
薔薇はあなたを見ると
あわてて刺をひっこめる

幸せにしてあげますから
必ず 幸せにしてあげますから



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