< ちいさいから踏まれるのさ 弱いから折れないのさ たおれても その時 もし ひまだったら しばらく 空をながめ また起きあがるのさ -星野富弘さん- |
病院に運ばれて何日か後、だれかが廊下で、小さな声で話しているのがきこえます。
「今日か明日が峠らしいよ」
それをきいていた人が「わぁ~」と泣きだしました。
わたしは、天井をを見つめながら「死にやしないよ」と、心のなかでつぶやきました。でもどういうわけか、つぎからつぎへと涙があふれてきました。
涙を母や姉たちに見られるのははずかしいと思いましたが、涙をふく手がどこにあるのかさえわかりません。
天井の大きな電球が、涙でシャンデリアのようにかがやき、まぶしくてしかたがありませんでした。
☆
ここに、スケッチブックが七冊あります。
どれもが角がおれて、紙もうす茶色になってしまった、古いスケッチブックです。
1972年12月、私はこのスケッチブックの最初のページに、ひとつの文字を書きました。
かたかなで「ア」と書いたのが最初でした。
文字の大きさは、3センチくらい。書いたときは考えてもみなかったのですが、この「ア」が、わたしを新しい世界へとみちびいてくれたのです。
そしていま、たまにひらいてみるスケッチブックのその文字を見るたびに、わたしの心は“きりっ”とひきしまるのです。
-星野富弘著・「かぎりなくやさしい花々」より抜粋ー
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~-冬に咲く花-
夏に咲く花があり
冬に咲く花がある
どちらがしあわせ
などと
誰にも言えない
走る人がいる
自転車の人がいる
車椅子の人がいる
☆
-雨-
じゃがいも畑の横の道を
その子は後をつけてきた
麦畑をすぎ
墓場の角をまがっても
桃色のスカートを揺らせ
心配そうについてきた
「ありがとう」
家のそばで 私がいうと
その子は黙って
帰って行った
くるま椅子で
雨に降られた日のこと
-星野富弘さん-
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~夏に咲く花があり
冬に咲く花がある
どちらがしあわせ
などと
誰にも言えない
走る人がいる
自転車の人がいる
車椅子の人がいる
☆
-雨-
じゃがいも畑の横の道を
その子は後をつけてきた
麦畑をすぎ
墓場の角をまがっても
桃色のスカートを揺らせ
心配そうについてきた
「ありがとう」
家のそばで 私がいうと
その子は黙って
帰って行った
くるま椅子で
雨に降られた日のこと
-星野富弘さん-
2006.04.22