ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

平成筑豊鉄道が法定協議会の設置を要請した

2024年07月04日 10時00分00秒 | 社会・経済

 仕事の都合もあって気付くのが遅かったのですが、朝日新聞社が2024年6月29日の10時30分付で「平成筑豊鉄道『今後を考える場を』 沿線自治体に法定協要請」(https://www.asahi.com/articles/ASS6X51YVS6XTIPE002M.html?iref=pc_area_fukuoka_list_n)として報じていました。

 やはり、という印象も否めないのですが、とりあえず、この記事に沿いつつ、見ていくこととします。

 平成筑豊鉄道は、福岡県の福智町に本社を置く第三セクターの鉄道会社です。国鉄の路線であった伊田線(直方〜田川伊田)、田川線(行橋〜田川伊田)および糸田線(金田〜田川後藤寺)が特定地方交通線に指定されたことにより、福岡県、田川市、直方市などが出資して、1989年に会社が設立され、3路線を引き受けたのでした。また、北九州市が第三種鉄道事業者である門司港レトロ観光線の第二種鉄道事業者として、同線を運行しています。

 さて、平成筑豊鉄道が法定協議会の設置を要請したという話ですが、これは6月28日に株主総会が開かれた際に、社長から9市町村の首長に対してなされたことです。記事からでは詳しいことがよくわからないところもあるのですが、平成筑豊鉄道の輸送人員は1990年代前半がピークで342万人ほどであったのですが、それからは減少傾向が続いているようです。また、2023年度決算によると、同年度の輸送人員は2022年度より36000人ほど増加、旅客運賃収入も2022年度より1200万円ほど増加したとのことで、しかも2期連続の増加ですが、それでもCOVID-19より前の水準には達しておらず、ようやく8割程度であるとのことです。むしろ懸念すべきは赤字で、2023年度の営業損益は5億1890万円の赤字でした。営業赤字としては27年連続ということです。また、同年度の純損益は前年度よりも5459万円も悪化しており、5807万円の赤字となりました。国、福岡県、沿線市町村から経営安定化助成金や補助金として合計で5億8700万円の支援を受けたそうですが、それでも状況は悪くなっているという訳です。

 赤字が増えている理由は、輸送人員の減少や修繕費の増加ということのようです。修繕費については、記事に「枕木の老朽化など」と書かれています。さらに、記事には次のように書かれています。

 「株主総会後に記者会見した同社の河合賢一社長は、現状分析と今後の収支シミュレーションの結果、無線やレールなどの設備更新などで年間約10億円の赤字が継続的に発生する見込みとなったこと、26年以降は沿線市町村に現在の3倍以上の助成金をお願いすることが必要となる見通しを明らかにした。

 また、人口減少や、災害の頻発もあって、経営を巡る厳しさは『質的にも一段と変わってきた』と述べ、法定協設置への協力を呼びかけた。」

 読んだ瞬間に「そういう部分はあるだろう」と感じました。というのは、伊田線が全線複線であるからです。旧国鉄路線で第三セクターに転換されたものとしては唯一の例であり、往時の石炭輸送を思い知らされます。ただ、現在においては過剰設備ではないかと思えます。伊田線直方駅の時刻表を見ると、最も多い時間帯である午前7時台でも3本ですから(1990年代にはもっと本数が多かったかもしれませんので、今回はこれ以上のことを記しません)。

 平成筑豊鉄道は、JR九州より伊田線、田川線および糸田線を引き受けてから、新駅を設置するなど、積極的な乗客増加策をとりました。そのために沿線を走っていた西鉄バスが減便や路線廃止に追い込まれた程でしたが、その勢いも長くは続かなかったようです。同鉄道の営業エリアは筑豊地域および京築地域で、伊田線、田川線、糸田線のいずれも石炭輸送のための路線であったと言ってよいだけに、炭鉱が次々に閉山となって沿線の人口も貨物輸送も減少していました。産業構造の問題が人口の増減に関わるだけに、平成筑豊鉄道の輸送人員が減少していったのも自然の流れであったとも言えます。1970年代および1980年代、主として筑豊地域において、あの宮脇俊三が最後まで覚えられなかったという程に複雑な国鉄の路線網が解体・縮小されており、特定地方交通線に指定された路線の上山田線、添田線、宮田線、室木線、勝田線、香月線は完全に廃止されています(漏れがあるかもしれません)。後藤寺線がJR九州の路線として残っていますが、私が利用した時に思ったのは「よくぞ残った」ということでした。本数も少なく、乗客も少なく、沿線の人口も多くなさそうでした。一方、伊田線、田川線および糸田線は平成筑豊鉄道の路線となった訳ですが、貨物輸送もない現在、どの程度まで通勤通学運輸を担えているのかが気になります。

 上記記事には、株主総会に出席した行橋市長のコメントが掲載されています。「現状、今後の見通しを考えた場合、この地域全体で鉄道のあり方を検討していくことは避けては通れない」というものです。法定協議会の設置および参加の意向と考えられます。ただ、行橋市民が田川線の存在意義をどのように考えているのかが気になります。よく見られるように「乗らないけど必要」というのは論外で、そのようなことは口にすべきではありません。素直に「乗らないから不要」と表現すべきです。私は、内心で「乗らないから不要」と考えている人が多いのではないかと邪推しているのですが、いかがでしょうか。

 私は、大分大学に勤務していた時に田川線および伊田線を利用したことがありますし、大東文化大学に移ってからは西南学院大学での集中講義の機会を利用して糸田線および門司港レトロ観光線を利用しました。門司港レトロ観光線は名称通りの観光路線という性格なので別の話となりますが、残りの路線は典型的なローカル線以外の何物でもないという印象でした。とくに田川線は山間を走る抜けるようなコースをとっており、石炭輸送も遙か昔の物語ということがよく理解できました。一方、伊田線と糸田線は比較的平坦な場所を通りますが、伊田線は前述の通り全線複線で存在感にあふれるものの、石炭輸送で活気があった頃の名残という感じでしかありません。何しろ、1両編成か2両編成の気動車でワンマン運転、本数もそれほど多くありません。かつて富士重工が製造していたLE-DCというレールバス、現在は新潟トランシスが製造するNDCが運行されていますから、乗客数も推察できます。また、糸田線はと言えば、私が乗った時に私以外の乗客がどれほどいたか覚えていませんし、何度か田川後藤寺駅で見たものの、糸田線の乗り場はとくに閑散としていましたので、3路線の中で最も利用客が少ないであろうと思われます(そもそも距離が短いのです)。

 平成筑豊鉄道の伊田線の起点が直方駅ということで、もう一つ、私が気になっている鉄道路線があります。筑豊電気鉄道です。黒崎駅前から筑豊直方まで、鉄道路線でありながら路面電車タイプの連接車が運行されるところですが、最近は乗客減が続いているようで、そのためもあって減便が続いています。西鉄の子会社であるため、今のところは大丈夫ということなのでしょうか。


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