ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

空き地の荒廃を防止するための新制度が創設されるか

2024年07月05日 01時10分00秒 | 国際・政治

 地方自治総合研究所が発行している雑誌「自治総研」の485号(2019年3月号)に掲載されている「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年6月13日法律第49号)」(地方自治関連立法動向研究27)を書いた者として、この話題を取り上げない訳にはいかないでしょう。そういうことで、今回は、共同通信社の2024年7月4日21時18分付記事「国交省、空き地荒廃防止へ新制度 自治体に是正勧告権」(https://nordot.app/1181569572272013565?c=39550187727945729 )を取り上げます。

 この記事は短いものなので、あまり詳しいことは書かれていません。もっとも、それは今後の動き次第かもしれません。2025年1月に召集されるはずの通常国会における法律案の提出を目指すということですし、既存の空き家対策特別措置法(正式名称は空家等対策の推進に関する特別措置法)を参考にして検討を進めるとのことですから。

 これまで、政府は空き家や所有者不明土地について法整備を進めてきました。とくに所有者不明土地の場合、所有者不明土地法(正式名称は所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法)の制定および改正、民法、不動産登記法などの法律の改正という形で、複数年度にわたる取り組みを進めています。ただ、空き地となると、空き家や所有者不明土地と重なる部分があるものの、別物ということにもなります。既に、国土交通省に置かれている有識者会議は空き地についての法整備を提言しますし、問題は深刻ですので、法整備が全くなされないよりもなされるほうがよいということになります。、

 人口の減少により、個人が所有している空き地(所有者が明確になっているという点に注意してください)は、2008年で延べ632平方キロメートルであったのに対し、2018年度で延べ1364平方キロメートルになったそうです(国土交通省によります)。実に2倍超となった訳です。しかも、今後も増加する可能性が高いということです。そこで国土交通省が新たな制度を検討するということになりました。上記記事によると「管理が行き届かず、ごみの不法投棄など周辺環境に悪影響を及ぼす恐れがある場合、自治体が所有者に是正を勧告・命令できる権限を与えるのが柱」であり、「有効活用を促す仕組みも整える」とのことです。

 ただ、新制度、つまり新しい法律が制定されたところで何処まで空き地の荒廃を防ぐことができるか、また空き地の有効活用ができるかはわかりません。あまり高望みをしないほうがよいかと思われます。というのも、新制度は所有者が明確になっており、かつ個人たる所有者が生きている、または法人たる所有者が現存していることを前提としています。個人たる所有者が既に鬼籍に入っているということであれば所有者不明土地法で何とかなるかもしれませんが、法人たる所有者が現存していない場合、つまり解散して法人格が消滅している場合にはどうしようもないのです。

 また、新制度が誕生すると過度な期待が持たれがちですが、それは禁物です。むしろ、漸進的に解決されるというのが前提でしょう。否、少しでも改善されるならば御の字であると考えるべきでしょうか。こうした態度を示すのが、法律学者としてあるべき姿であると考えています。私は「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(平成30年6月13日法律第49号)」(地方自治関連立法動向研究27)において「相続登記の義務化も必要であるとは思われるが、そもそも日本では登記は対抗要件としての位置づけが与えられているものの、物権変動の要件とはされておらず、公信力が認められる訳でもない。そのため、(登記のコストとインセンティブという問題を脇に置くとしても)義務化のみでは問題の解決につながらないのではないかとも考えられる。登記の位置づけについて民法および不動産登記法の抜本的な見直しが必要であり、社会にも多大な影響が及ぶことは必然であろう」と記したのです。この部分が何年か前に「税理」という雑誌に掲載された、著名なS教授などが書かれた論文の注で取り上げられたのには驚きましたが、少数意見であるということなのでしょうか。

 いずれにしても、空き地の問題は、多少とも時間を必要とするとは言え、何とかしなければならないものです。いかなる制度が作られようとしているのか、注視する必要があります。

 

 Ich bin sechsundfünfzig Jahre alt. / J'ai cinquante-six ans.


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 平成筑豊鉄道が法定協議会の... | トップ | フェアレディZ新旧 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

国際・政治」カテゴリの最新記事