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漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
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黒田夏子著「abさんご」独とくでなつかしい

2013-02-12 | 
最高齢の芥川賞受賞で話題になった黒田夏子さんの作品。

「毬」「タミエの花」「虹」
タミエという少女に関する事柄のこの3章は、黒田さんが20代のころに書いた物語だそう。

タミエはたぶん小学生2,3年生くらいだろうか。
子供らしい天真爛漫というのではなくちょっとマイナーな性格のようだ。
おそらくそうならしめた決定的な出来事が「虹」で明らかにされる。

子供のころのストレートに残酷な発想とちょっとした失敗・・・
「虹」の最後であっと驚かされて、あわててまた初めから読み直してしまった。

大なり小なり子供のころ、記憶を消し去りたいほどのいやな体験があり、
子供らしく忘れ去っても、心の奥底の小さな棘はとれないみたい。
いやな体験を思い出したタミエはこれからどう生きていくんだろう。

「タミエの花」は雑草の花の名前がたくさん出てきて、
個人的にはタミエとすっかり同調してしまった。
ふとつぶやかれる植物の学名が、呪文のようにも祈りの言葉のようにも思われた。


その50年後に書かれたのが「abさんご」
実は本を手にしてまずこちらから読み始めたのだが
(この作品は横書き、上記は縦書きなので1冊で右開き左開きと読み始めることができ、
その結果、あとがきが「なかがき」となっている)
まるで古典のたとえば源氏物語みたいに、ひらがながなめらかに並んでいて、
どこで区切ればいいのか、面くらって後回しにしてしまった。
だけどタミエの事柄を読んだあとには黒田さんの世界に少しなじんで、
ずいぶん入りやすくなっていた。
それでも、この作品をとらえるには丁寧に読み解いて情景をイメージすることが必要。
(なんだか英文を和訳するような感じ。頭から並んだ順に理解していくのがいいのだろうけど)

戦後から数十年の日本の住まい方の変遷をありありと表現して
失われた風習への郷愁や、子供ながらに気を使いながらすり抜けてきた
ある意味たくましい生きざまなどが感じられ、
この表現型が、黒田さんの脳の中に在る「記憶の断片」そのままの形なのだろう。

理解できるところと、理解できないところがあって、
おそらく読む側の記憶や経験のあるなしでとらえられる範囲がずいぶん異なるだろうと思う。

黒田 夏子 1937年東京生まれ