漢方薬剤師の日々・自然の恵みと共に

漢方家ファインエンドー薬局(千葉県)
http://kampo.no.coocan.jp/

エンド オブ ライフ 佐々涼子著:人の死期を受け入れる社会を

2024-11-25 | 
看取りをいくつも経験してきた誰からも一目置かれる訪問介護士でさえ、自分の余命宣告に、受け入れられずもがいていた。

この本は、すい臓がんを患った訪問介護士森山文則さんを、佐々涼子さんが取材したノンフィクションです。


家で最期を過ごしたいという気持ちが今までわかっていなかった。介護する家族は大変だもの。
だけど、病院は病気を対策するところで死にゆくところではない。

今後私たちは、「死」を日常から隠さず、毎日の生活の中が死に場所でもあるようにすることだろう。どうか訪問介護やホスピスがもっともっと充実しますように。

生きとし生けるものはみな死ぬ。なのにその当たり前のことを受け入れるのに苦労する。
読むほどに、現在のシステムではどうすればいいのかわからない。行き詰ってしまう終末の過ごし方。みっともなくあがくのは仕方がなさそう。周りに迷惑をかけ嫌がられるのも避けられなさそう。
ただ、いよいよ死期を知った時、人は何かを悟り何かを後世に残すものらしい。

2024年9月に亡くなられたノンフィクション作家の佐々涼子さん。この小説を書かれたときは、まだ脳腫瘍が発覚していなかった。そして「夜明けを待つ」を出版された2023年はすでに病と闘っていた。

エンドオブライフ 2020年2月発行
佐々涼子 1968年神奈川県生まれ

土と脂:現代の食べ物は土との関係を絶たれ栄養不足になっている

2024-11-01 | 
あなたが食べているそれはいったいどのように育ったものか?
現代の野菜や家畜は、収量を追求するあまり、土との関係を絶たれ、ひ弱になり微量ミネラル微量栄養素が極端に減っている。それを食べる人間も慢性炎症を起こしやすく病原菌への抵抗力も落ちている
慢性疾患が増える現代、治療薬よりも食べ物を見直す必要がある

「身土不二」「一物全体・丸ごとを食す」
読むほどに彼らの追求は、中医学の考えに近づいていくのがわかりました。

そして農地は掘り返さず、いつも植物が生えている状態のほうが土壌菌が増えて、生き生きした土になるのだそうです。

以下覚書:
「植物性と動物性のホールフードという雑食性には力がある」
※ホールドフード:加工しないまるごとを食べる
「人はその食べたものなのだ」
「健康で生命に満ちた土壌は、健康で栄養豊富な作物、牧草、家畜を作り、それらはひいては人の健康を支える。この観点で見ると、人間の健康は、あるいはその欠如は、我々が土地をどう扱うかの反映なのだ」

化学肥料、除草剤は穀物のミネラル取り込みに影響し、耕起も菌根菌に影響を及ぼす
作物を過保護にすると 共生菌類との関連がうすくなる
菌糸には無機質を運ぶ能力がある リン、銅、亜鉛、鉄 ファイトケミカルも増やす

ネオニコチノイド(昆虫の神経毒、殺虫剤):植物に残留する
農薬の残留性はニワトリや牛にも認められ、それらのもつ微生物叢を犯していて病原性への罹患性を高めるだろうと言われている

人間が農薬に頼るようになって以来、昆虫、鳥、土壌生物に至るまで殺してしまい「昆虫の大量虐殺が始まってから世界の昆虫の半分が死んだと推定され草原性の鳥類大幅に減少した。両生類の減少も1950年代から急速に始まった。」
土壌生物は激しく減少する

オメガ3脂肪酸は葉緑素に多く存在して光合成に欠かせない。
したがって生の草を食べる牛の乳はオメガ3が多くなり3と6の割合は1:1だが、合成飼料で育つ牛はオメガ6が多くなる。

風味のフイードバック:子宮の中から始まり、生涯を通じて築き上げられる。
母親が食べるものが子どもの食物の嗜好とそれに関係する行動に強く影響する

幼少期から児童期にかけて、有益なあるいは害のない細菌、菌類、その他の微生物の暴露が多いほど後の人生で免疫反応が寛容になる

口の中の甘みと苦みの受容体は、腸内の神経細胞、内分泌細胞、免疫細胞にも散在している 
ヒトの皮膚は嗅覚を持っている
苦味受容体は気道に多く存在する
気道組織にある苦味受容体は病原菌を排除する反応を起こす

苦味物質と免疫系の関連性
スーパーテイスター(味覚が敏感な人)の方がコロナに感染しにくく、感染しても軽度であった
長寿ビタミン: エルゴチオネイン ピロロキノリンキノン、キューイン

ーーーーーー
膨大な文献と見聞によって書かれたもので、もうお腹いっぱいになる。カタカナや数字が並ぶ文章は横書きで読みたかった。農酪業については素人なので入ってこないところもあったが、土の中の良い環境が食べ物を作り人を育てそしてまた土に帰るという正しい循環を狂わす現代農法は人の命さえ脅かすということは十分わかった。
さて、今夜は何を食べようか。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 

土と脂 2024年9月発行 What Your Food Ate あなたが食べたものが食べたもの 微生物が回すフードシステム
デイビッドモンゴメリー アンビクレー 著
片岡夏実 訳

「土と内臓」微生物がつくる世界・ヒトの消化管は植物の根と同じ

2024-10-21 | 
まさに今、多くの人が知るべき素晴らしい内容でした。

近年、自己免疫疾患と慢性炎症疾患が多発しているのは、マイクロバイオームつまり微生物叢が乱れているから。
きれいすぎる環境、極度に殺菌された食物や水、抗生物質の繰り返しの服用、土や自然との接触の少なさ、こういったすべてのことは私たちにとって不利益になる。

土壌の健康と人間の健康は、微生物によって直につながっている。
植物の根は土壌内の微生物と密接に共生しお互いの防衛力を上げている。ヒトの大腸内もまったく同じ環境にあり、ヒトの免疫系の約80%は腸特に大腸に関係している。


「腸内細菌バランスの異常は、肥満、ある種のガン、喘息、アレルギー、自閉症、循環器疾患、1型および2型糖尿病、うつ、多発性硬化症などとともに、腸管壁滲漏症候群や炎症性腸疾患が含まれている。」

「マイクロバイオームを特に子どものうちに混乱させることが、現代病の根本的要因として考えられるようになってきた」

消毒した土壌と消毒しない土壌で植物を栽培すると、消毒した土壌の植物は病原体にやられ、もう一方は健康に育つ。そして健康な植物を食べた子供たちのアレルギーや喘息は翌年には減ったそうだ。

抗生物質は家畜に投与されている。過剰投与された家畜は早く太る。世界の抗生物質の90%は感染のない動物に与えられ、耐性菌を発生させている


ーーーーーーーー
何年ものコロナを経て今また様々な感染症がやけに流行りつつある。特に子供中心に。
菌類を遠ざけすぎたんじゃないかしら、無菌ほど抵抗力のないものはないから。そう思っていた。
感染症対策としてまた無理やり殺菌すれば、ますますマイクロバイオームは破壊されかねない。
まずは食事を見直すことなのでしょうね。
私たちはマイクロバイオームの世話係である
人類の歴史上、今はもっとも植物性の食物を摂らなくなっているのだそう。

土と内臓  微生物がつくる世界 2016年11月発行
デイビッド・モンゴメリー アン・ビクレー 著
片岡夏実 訳
吉野愛 装丁


招かれた天敵・生物多様性が生んだ夢と罠:千葉聡著

2024-06-03 | 
ふと生物多様性ってなんだろう、新聞記事などを読むものの書く人の立場によって意味が異なるような気がする、と思って読んでみたこれ。

もう人知を超えた自然の複雑さ、とても人間の思い通りにはいかないと実感しました。

じゃんじゃん世界をプラントハンティングした時代の話題から、「沈黙の春」の反響により農薬使用が敵対視されて「自然にやさしい」伝統的生物的防除に向かい害虫への天敵昆虫の導入を迫られた昆虫学者たち。
しかしそれは害虫を駆除できないばかりか、在来種の絶滅を招き、破滅的失敗の連続だったのです。

農作物とその天敵、動物、昆虫、鳥、細菌、気候、そして化学農薬。そこには「自然のバランス」などという規則性は全くないと言っていいほど一筋縄ではいかない。

化学的防除と生物的防除のどちらが優れているか、という問いは無意味であるという著者。
日本を含む東アジアは温暖湿潤で害虫が発生しやすく、単純に農薬使用率を欧米と比較できない。病害虫に侵された農産物のほうが人体に有害な場合もあるという。

外来種導入、フェロモン、不妊化、密度依存など様々な検討がなされる一方、同時に予算、期限、政治、農民、民間会社の経済的意向などの圧力もある。

今後、増え続ける地球の人口を賄う農場は広大化し、一つ間違えば大きな不作を招きいっぺんに世界が飢饉に陥る恐れを含んでいる現在。問題は山積したままだった。

最後は、著者らが父島で奮闘したカタマイマイ類など固有種を外来種ヤリガタリウウズムシから守る死闘は手に汗握るものだった。その結果は失敗。父島のカタツムリ類はほぼ絶滅したらしい。


昨日の散歩道でゴイサギ
チュウサギ 抱卵を終えたのか数羽戻ってきた
モズの子たち
いつもの初夏の風景に、感謝するばかりです。

#招かれた天敵 #生物多様性が生んだ夢と罠 2023年3月第1刷 5月第2刷
#千葉聡 著 1960年生まれ東北大学東北アジア研究センター教授 東北大学院生命科学研究科教授兼任

本「動物たちは何をしゃべっているのか?」ふれあいの大切さ

2024-04-03 | 
対談形式で、動物のコミュニケーションを語り人間の本質をさぐる本。

グルーミングするときのグルグルというような「ささやき」が、言葉として発達したのではないかという山極さん。
しかし人間の群れは巨大になり、グルーミングなしで言葉を伝達する必要が生まれて文章ができたが、いまや単発的な文がSNSで発信される。
ふれあいという「身体性」なしに発信される言葉は、十分に文脈が読み取れず、取り違え、無意味な炎上を引き起こし、不安を掻き立てている。
コロナによる隔絶の影響も大きい。

触れ合うことをしないまま言葉だけを頼りに、人との結び付きを築き上げなけばならない現代に、人間はいまだ慣れていない。

動物は、吠え声、呼び声、叫び声、ささやきなどを持ち、その声は自然の中をよく通り、ちょうどよい群れの大きさとふれあいと身体能力とを備えて、自然の中で群れとして自立している。
人間の半数以上は都会に暮らし自力で生きていけない状態。

会って話をする、表情を読む、ふれあう、踊る、一緒にリズムをとる、そんな行為がやはり大切なのだと実感した。
先の日曜日、裏高尾あたりを歩いて1号路を下山すると桜が咲き進んんでいた。

動物たちは何をしゃべっているのか?2023年8月発行
山極寿一(やまぎわじゅいち)ゴリラと一緒に2年間暮らした人物
鈴木敏孝 シジュウカラの言葉を研究

僕たちはどう生きるか:言葉と思考のエコロジカルな転回:森田真生著

2024-02-21 | 
新型コロナが脅威なのはほぼ人間だけで、その人間が行動自粛したお陰で地球環境は改善し、鳥や魚は大いに喜んでいた、という作者。 
これまで忙しく全国各地を飛び回り数学を語る生活が一変した2020年春以降、約一年間の日記。 
その日々の素直な言葉に共感した。私が好む漢方の中医学と同じ世界観だった。  


おびただしく多様な時間と空間の「尺度」があり、人間の尺度がいちばん偉いわけではないことに気づいていること(「エコロジカルな自覚」ティモシー・モートン)  

「何をしても間違っている可能性があるくらい、この世は生態学的に豊かなのである」

  「人間の知恵で思いつくことなど所詮、風に揺れる木の葉にも及ばない。まずは自分でないものに耳を傾け、謙虚に、観察してみること。」

  「いまほど世界中で子どもたちが、人間ばかりと接触している時代はない。」  

「自分が何に依存して生きているかを把握すれば、自分の存在が、まるで毛細血管のように地球生命圏全体にしみわたっていることを発見する」  

「食べることは、食べられたものに置き換わる過程である。えんどう豆を食べリンゴを食べ魚を食べるときには、えんどう豆やリンゴや魚を構成していた分子が、それまで自分を構成していた分子と置き換わる。さっきまでえんどう豆だったものが僕になる」

  「僕たちは弱く、悲しく、しかしだからこそ他者と呼応し、響き合うことができる存在として、」

  「未来についてたしかなことは、今の自分が、自分ではなくなること、滅びてなくなるのではなく、果てしなく翻訳(translation)をかさねながら、いつしか自分の知らない何者かに生まれ変わっていく」 

 いまや農業排水(化学肥料や農薬)が海を汚染している。単一農業の危険性。
  
僕たちはどう生きるか 2021年9月発行 
言葉と思考のエコロジカルな転回 
森田真生(もりたまさお) 著 1985年東京都生まれ
 京都府在住 独立研究家 鹿谷庵 

ロブ・ダン著「家は生態系」あなたは20万種の生き物と暮らしている

2022-04-30 | 

原題は「NEVER HOME ALONE」あなたは一人で暮らしてはいない

生物多様性が、健康に生きるために大切だということを膨大な検証から実証した物語です。

これでも実証実験は始まったばかりだとか。

2021年2月発行

生物多様性が低下すると、アレルギー、喘息、炎症性慢性疾患は増える

慢性的な自己免疫疾患は過度に清潔で衛生的な生活と関連がある

人は生まれつき生物多様性を好み、それが不足すると情緒的健康が損なわれる

多種多様な生物にさらされることで集中力の維持時間が長くなる

殺虫剤をまくと「天敵不在空間」が生み出され、例えばチャバネゴキブリは家の中のほうが生きやすくなっている

害虫の天敵がわんさかいる家をつくること

干渉型競争:住み着いている菌が多いほど外部からの菌が侵入しづらい

デコロナイゼーション(抗生物質で猛攻すること):もっとも質の悪い薬剤耐性菌がもっぱら病院に住み着くのは、他の菌との競争がないから。薬剤耐性菌は外では弱者である。

中庸こそが万能薬:排除するのではなく生物多様性の恩恵を受けながら病原菌を寄せ付けない生活

手味、テロワール:キムチやパンを作る人の手や家に定着している菌たちが、旨味を作り出し、外部の不用な菌を排除している

以上のような事柄を証明した生物学者たちの気の遠くなる単純で膨大なコツコツ積み重ねる検証実験の努力に心から敬意を表したい。

私たちは「気持ち悪い、薬剤を使って殺したい」という考え方を改めなければならないでしょう。

たくさんの生き物たちの群れをいつも纏うことで守られているのだから。

 


ポール・ナース著「生命とは何か」すべての命はつながりあっている

2021-12-06 | 

著者ポール・ナースは2001年ノーベル生理学・医学賞受賞を受賞しています。

翻訳(竹内薫)がうまくてフレンドリーな文章で、話しかけられているような気分になります。2021年3月発行 

生命体ってどうやって生きてるんだろう。それを知るときっと、頭でっかちな妄想で自分を孤立させることがなくなるでしょう。

私たちの体は強固な構造の遺伝システムによる情報によって、驚きべき機能を化学的物理的にこなす精密機械である。

そして「生命体は依存しあっている。ヒトもヒトとヒト以外の多くの細胞が混ざりあってできたひとつの生態系だ。われわれの30兆個の細胞など、この生態系からすれば微々たるものだ。われわれに依存したり、われわれの内側で生きている多様な細菌、古細菌、真菌、単細胞真核生物などの共同構成員の数は天井知らずなのだから。さらにわれわれが食べる一口ごとの食べ物は、他の生き物によって作り出されている。」 

われわれは、他のすべての生命と深い絆で結ばれている」 

「自然淘汰が効果的に機能するには、生物は死ななければならない。競争上強みのある遺伝的変異を持っている可能性がある次の世代が、古い世代にとってかわることができるからだ。」

生命はすべて、こんなに素晴らしいのだけれど、そのことを知っているのはおそらく人間だけだ。

だから人間は地球のすべての生き物を守らなければならないと結んでいます。


ディーリア・オーエンス著「ザリガニの鳴くところ」

2021-11-25 | 

女性動物学者が書いた殺人ミステリーです。

おおよそ人間は、神に近い特別な存在だと考えがちですが、著者は人間のあらゆる行動を、野に住む動物と同じ目線でとらえ描いています。

たとえば、差別や集団いじめは七面鳥の群れの行動で例えたり、着飾ったり、派手な車やボートに乗る男たちは繁殖期の雄に過ぎないようです。

主人公の少女カイアは、幼いころから湿地に一人取り残され暮らし、その豊かな自然は、彼女を湿地の生物学者に育てあげ、感情豊かな詩人にもしたのでが、しかし同時にその思考は動物的で、雄の求愛行動、雌の雄を利用する様々な形は、一見残酷なようでも自然の法則の中ではごく当たり前のことだったのでしょう。

派手なオスの典型であるチェイスは、カイアから贈られた貝のペンダントをいつもしていたなんて、実はカイアを愛していたのかもしれなあ。

結末は驚く展開でしたが、法律など人間の物差しに収まらない、カイアの本能に偽らない行動を見たような気がしました。

ホタルのメスは、仲間のオスを呼ぶ光り方と変えて別種のオスを呼ぶ光り方をしてそのオスを食らい、カマキリのメスは、交尾しながらそのオスを食らう。自然界のメスは強いのです。

物語に登場した鳥たち

オオアオサギ、七面鳥、シラサギ、セグロカモメ、カラス、ハチドリ、ガチョウ、ネッタイチョウ、ハクトウワシ、ハクチョウ、ムクドリモドキ、アメリカワシミミズク、アオカケス、クーパーハイタカ、カッショクペリカン、アカオノスリ、コウノトリ、マガモ、ハクガン

2021年本屋大賞翻訳小説部門第1位


自然の素晴らしさに驚く心・レイチェルカーソン著「センス・オブ・ワンダー」

2021-10-25 | 

感動する本に出合いました。

レイチェル・カーソンは、人間の環境破壊(農薬など化学物質による)に警告を発して世界的ロングセラーとなった「沈黙の春」の女性作家であり生物学者です。
農薬を使いすぎて、春になっても鳥の声もしない沈黙の春・・・

相変わらず環境破壊は進んで、すでに野鳥の数は激減しています。おそらく数年後には地球のデリケートな均衡は保てなくなり、地球環境がどっと崩れるのではないかさえと言われています。

「センス・オブ・ワンダー」は「沈黙の春」を書き終えた(1962年)後に書かれた作品で、その時彼女はすでにガンに侵されていて2年後に亡くなられ、彼女の最後の作品です。

写真の文庫本は、今年(2021年9月)に発刊されました。この中の彼女の文章は、大きめの字の文庫本サイズで70数ページにしかすぎません。しかしその中に、あふれるほどたくさんの「センス・オブ・ワンダー」が素直で美しく優しい言葉で表されているのです。

「センス・オブ・ワンダー」とは「神秘さや不思議さに目を見はる感性」と訳されています。この感性は子供にはあるが年齢とともに失われる。だがセンスオブワンダーの記憶は、消えることがなく、

「やがて大人になるとやってくる倦怠感と幻滅、私たちが自然という力の源泉から遠ざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。」

だから子供たちに、自然に接する機会をたくさん与えてほしいと訴えています。

作品の中のあるセンスオブワンダーを抜粋します

「風のないおだやかな十月の夜、車の音が届かない静かな場所に子供たちをつれていき、じっとして頭上にひろがっている暗い空の高みに意識を集中させて、耳を澄ましてみましょう。やがて、あなたの耳はかすかな音をとらえます。鋭いチッチッという音や、シュッシュッというすれ合うような音、鳥の低い鳴き声です。

それは広い空に散って飛びながら、なかま同士がはぐれてしまわないようによびかわす渡り鳥の声なのです。

わたしは、その声をきくたびに、さまざまな気持ちのいりまじった感動の波におそわれずにはいられません。わたしは、彼らの長い旅路の孤独を思い、自分の意思ではどうにもならない大きな力に支配され導かれている鳥たちに、たまらないいとおしさを感じます。また、人間の知識ではいまだに説明できない方角や道すじを知る本能に対して、湧きあがる驚異の気持ちを押さえることができません。」

 

 


東山彰良著「どの口が愛を語るんだ」・悩みが軽くなるかも

2021-07-24 | 

もう題名からして東山ワールドを感じます。

4つの短編それぞれが、どこまで行っても混沌としている「愛」に関連する作品です。

宗教のような破滅的な愛、人をダメにする愛より、勘違いでも依存に過ぎなくても偽善でも、それを愛と思ってとりあえず生きるのでもいいんじゃない?って感じでしょうか。

すごく悲劇的で、どうにもならない場面にいくつも遭遇する人生でも結局、人はなんとかなっていく。

東山さんは、文章が軽快で濃厚でますますうま味が増し、読みだすと止まらなかった。

悲劇のヒローみたいに物語にうずもれない、ちょっと達観した感じが好きだなあ。


澤田瞳子著「星落ちて、なお」分かり合えない苦しさ

2021-07-13 | 

画鬼と呼ばれた河鍋暁斎の娘とよ(河鍋暁翠)を主人公に

鬼才画家の後を生きる苦しみを描いた作品。

そもそも家族ましては異母兄弟、それぞれの思いなんて分かり合えるはずがない

誰も自分のことで精いっぱいだから。

そうとわかっていても、日々、人の言葉に悩まされる。

「そうじゃない、わかってほしい」と願ってしまう。「なんでこんなに辛いんだ」と嘆いてしまう。

気持ちが通じないと急にその人が遠のいた気がして恨みたくなったりする。

澤田さんの物語の中には、そんな日々をするすると描いてくれている。

結局、ジタバタしながら生きていくんだなあ。

 


劉滋欣著「三体」宇宙的視野をもつ

2021-07-09 | 

Ⅰ、Ⅱ、Ⅲとやっと読み終えた「三体」

洪水のように知識が渦巻く劉さんの脳内で溺れそうになりながらも楽しく遊んだって感じです。

SFとはspace fantasy、宇宙の幻想。

劉さんは誰も見たことがないことをどんどん描き、私の空想できる範囲をはるかに乗り越えて物語は展開します。

三体Ⅰで、どうにもこうにも頭の中がごちゃごちゃになります。

三体Ⅱに入ると、彼の中に中国5千年の歴史があることを感じました。侵略の戦いに耐え続けてきた大陸的強さでしょうか。宇宙とはいえ安易に隣人と仲良くしようなんて甘いのです。

そしてⅢ、感動的な宇宙の姿(二次元に飲み込まれる太陽系)と、地球人の愚かさと、そんな小さな存在でもきっと宇宙の一部なのだということを感じました。

島国日本で暮らす私は、視野が狭くなりがちですが、こうしてSFによって宇宙的視野にさらされると、日々の問題を一歩引いた目線で考えられそう。いやいや島国根性はなかなか治りそうもありませんけどね。

あれだけくじけそうになりながら苦労して読んだのに、今は「三体」ロスです。

 


梨木香歩著・僕はそして僕たちはどう生きるか

2021-02-26 | 

この青臭い題名ゆえに、避け続けていた本です。

梨木さんらしい攻め方で、多感な十代に向けて、

戦争や経済社会などの人間の「群れ」に束縛されず、自分の意志を持とうと訴えています。

人は群れとして生きる生き物だけど、ゆるやかに迎えいれてくれる群れがほしい

しかし、

それは「個で生きられる」背景が備わっていなければ無理だと思う

豊かな自然を所有していて自給自足できるとか、どこからかうまい具合に支援をうけられるとか・・・

そんな余裕がなければ、いやでも「群れ」に隷属しなければ生きられない人のほうが多いと思う

それが、戦争の片棒を担ぐことになったりするのは、悲しいことだけど。

そんなことをまじめに考えてしまったところは、この本が良書といえるのでしょうね。


劉慈欣著「三体」想像を超える宇宙SF

2021-02-06 | 

作者の劉さんはエンジニアで、物理学的な知識でどんどん想像を膨らますものだから、それについていくのが大変でした。

人間の将来に失望した人々が、この地球の人間たちをどうにかしてくれと異星人に頼んじゃったのです。

当然、異星人は地球を救おうなどとは考えず侵略方法を練るわけです。

異星人が地球に到着するのは、なんと450年後!

時間や空間の概念を覆し、あちらとこちらの事情が交錯して混乱し二度読みしました。

相当ぶっ飛んだSFです。

まだまだ物語は続いていて、これは序盤に過ぎません。いったいどうなるんでしょう。