アーバンライフの愉しみ

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完結~船戸与一著「残夢の骸」(満州国演義9)

2015年05月19日 | 読書三昧
去る4月22日逝去された船戸与一氏のライフワーク、「満州国演義」は、この第9巻「残夢の骸」をもって完結した。ポツダム宣言の受諾とソ連侵攻を描く最終巻。460頁の大作である。



物語~敷島4兄弟の内、次男の次郎はインパール作戦で非業の死を遂げた。その遺髪が満州国外交部の高級官僚である長男の太郎の元に届く。今なお諜報活動に従事する三男、三郎(少佐)と関東軍特殊諜報班の嘱託となっている四男、四朗とで、次郎ゆかりの山へ埋葬する。そして、日本の敗戦と満州国の瓦解という激動の中、残った3兄弟も、それぞれの運命に翻弄されていく・・・。

本書は、1944年の戦争末期から敗戦に至るさまざまな動きを、満州をベースに敷島兄弟の視点から描いているが、中心は、敗戦とソ連参戦に伴う終戦直後の現地居留民とシベリア抑留者の悲劇である。

こうして、執筆10年、全9巻もの同氏のライフワークは完結したが、本書の文献リストには、440件余がリストアップされている。つまり、本書は、この膨大な量の文献との闘いの所産でもあるのだ。

問題は、作者の文献に対する態度だが、同氏はあとがきで、「認定された客観的事実と小説家の想像力。このふたつはたがいに補足しあいながら緊張感を持って対峙すべきである」と自らを律して来たという。

こうした著述態度が、本書を昭和の「歴史書」としての側面を持つ独特の小説に昇華させ、読者を惹きつけて来たのではなかろうか。同氏のライフワークの完結を祝うとともに、ご冥福を祈りたい。
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