信州安曇野の里から西を望むと、台形のどっしりした山容で聳える山が有明山です。頂に有明神社の奥社を祀る信仰の山でもあるが、山頂へ至る道は修験道と言うべき難路で、容易に登れる山ではありません。
初めて有明山の山頂を踏んだのは、平成9年9月22日の事でした。前々日に黒四ダムから黒部川峡谷下の廊下を歩き、前夜は中房川沿いの空地で車中泊をした。そして当日早朝、中房温泉近くの登山口から裏参道と呼ばれる道を登って有明山を登った。
黒四ダムの真下
黒部峡谷下の廊下
同上
同上
下の廊下十字峡
仙人池から剣岳
しかし当時のアルバムを幾ら探しても、黒部峡谷の下の廊下や剣の仙人池を撮った写真は残っているが、有明山の写真は一枚も見つからなかった。
再び有明山を登らねばとならぬ思い、初登から22年後の令和元年9月28日に、今度は麓の有明山神社から山頂へ至る表参道を登った。当時のブログにその時の山行記録が載っているので、下記に転載してみます。
北アルプス、有明山登山
2019年9月25日(水) 天気=小雨後曇り一時晴れ
04:27有明山神社駐車場→ 04:54表参道登山口→ 05:10林道終点→ 06:45~49妙見滝→ 07:17白河滝→ 08:21~35落合→ 09:41~58有明山(北峰)→ 10:06~11南峰→ 10:20~26有明山(北峰)→ 12:20有明荘側登山口→ 12:23有明荘バス停
有明山には平成9年の9月にも登っているが、それは裏参道と呼ばれる中房温泉側からの道で、一度は有明神社から登る表参道を登ってみたかった。しかしこの道は参道とは名ばかりの、有明神社から山頂を越えて中房温泉までコースタイム10時間を超えるロングコースで、急登や鎖場が連続する険しい道です。
昨夜車中泊をした神社の駐車場を、早朝暗闇の中を出発する。中房温泉へ向かう道は舗装されているので僅かなヘッドランプの灯りでも歩いて行けるが、外灯も無く真っ暗な中を歩くのは心細くなる。
暗闇の中の表参道登山口
神社から30分程で、表参道登山口に着いた。此処から右折する狭い林道に入る。更に心細い気持ちだが進むしかない。登山口から15分程で、林道の終点に着いた。
林道終点
此処から登山道になるが、闇に眼が慣れたのと僅かな朝陽が差し始めたので、探り探りの状態で登山道を進んで行く。予報では今日の天気は良いはずなのに、山にだけ雲が纏わりついてるか滲むような霧雨が降っている。
道沿いに目印が点々とあるので道に迷う事は無いが、ガスに包まれ荒涼とした沢沿いの道は魔界へと迷い込むようで気持ちも萎えてくる。でも踏み跡が続く限り歩き続けるしかない。
気持ちに余裕が無くて、妙見滝まででたった1枚撮った写真
黙々と歩き続け、ふと前方を見ると左手に妙見滝が見えた。登山口から此処まで約1時間50分のタイム、休まず歩き続けたのでまあまあ良いペースだ。滝の先で2本連続した鎖場を攀じ登る。ネットの情報では大変そうに書かれていたが、案外容易に通過する事ができた。
妙見滝
妙見滝から下流部
良いペースの歩きに気分が緩んだか、油断して濡れた木の根に脚を滑らせてしまった。転倒し思わず右手をついたが、その時挫いたのか負荷を掛けると右手に痛みが生じた。又不安の種が一つ増えたが、此処まで来たらもう戻る事はできない。
白河滝
妙見滝からさほどかからず白河滝に着いた。沢沿いの道は此処までで、この先稜線の落合まで、ロープや鎖が連続するつるべ落としの急登となる。普通の登山道では「わあ~緑が綺麗とか空気が爽やか」何て楽しいものだが、この道はウンザリする程ロープや鎖場が続き、急登の連続でシゴキというかイジメに等しい。でも修験の道だから仕方ないか。
滝の右手の鎖場を登る。
延々と梯子やロープ、鎖場が続く。
途中小さな祠があったり、岩の隙間を通過したりして登って行くと、稜線間近の樹林帯となり、やがて松川村からの裏参道が合流する落合に着いた。松川村からの道はネットで登った記録を見た事が無い。現在は廃道化しているのだろうか。
岩の隙間を通過する。
落合手前の樹林帯
登山道合流地点の落合
落合からしばらくは歩き易い道であったが、それも僅かな距離で再び梯子やロープ、鎖場が続く急坂となった。それでも落合までの登りより傾斜は緩やかになる。
梯子やロープの道が続く。
岩の右手をトラバースする。
標高が上がるにつれ、雲が薄れ陽射しも差すようになってきた。暑苦しい雨衣を脱ぐ事ができ、足取りも軽くなる。道沿いには石碑や祠などの宗教遺物が残り、昔の人の信仰心の強さと逞しさが窺い知れる。
登山道沿いの祠
頂上はまだかまだかと思いつつ登り詰めていくと、突然頭上に銀色に輝く鳥居が見え、有明山(北峰2268m)に到着した。念願の有明山に登ってホッと安堵する。
有明山(北峰)山頂
山頂部では一瞬雲が払われ、安曇野の山麓を望む事ができた。一息入れた後に、南峰へ向かう。歩いてすぐに中央峰の三角点に着くが展望は無い。中央峰の先の岩稜で視界が開き常念山脈を展望できたが、残念ながら殆ど雲に覆われていた。
山頂から安曇野の眺め
北峰の祠
中央峰の三角点
南峰へ向かう岩稜の道
常念山脈の眺め
北峰から10分足らずで南峰に着いた。此処にも小さな祠が鎮座し、祠の横から常念の山々を望む事ができた。再び北峰へ戻ると、中房温泉側から登って来たという中年の男性が一人山頂に座っていた。彼とはしばらく互いの情報を交わした後、中房温泉に向けて下山を始める。
南峰の祠
下山の道は表参道に比べると格段に歩き易い。登って来る人もポツポツ居て、4人ほどとすれ違った。とは言っても途中には鎖場や崩壊地など気の抜けない箇所もある。
最初は樹林帯の降り
道沿いの巨石
下山途中の崩壊地(修復はされている。)
登る前は有明荘を16時18分に出発する最終便バスに乗れるか心配だったが、時計を見ると14時台のバスには充分間に合いそうだ。イヤ頑張れば12時台のバスだって乗れるかも知れない。自然と足が速まってくる。
標高が下がるにつれ、急坂の連続となる。やがて工事の作業音や車の騒音が小さく聞こえるようになり、植林帯の中を降って行くと分岐に着いた。右は三段滝方面の下山道で、私は左折して有明荘へ降って行く。
急坂の降り
分岐地点
分岐からは遊歩道のような快適な道で、そぞろ歩いて12時20分に有明荘傍の登山口へ降り立った。登山口の駐車場には満杯の車が停まっていたが、殆どは燕岳登山者のものだろう。
有明荘前の登山口
有明荘バス停に着いて時刻表を見ると12時38分発のバスがある。何というグッドタイミング、服を着替え行動食のオニギリを頬張っていると、マイクロバスがやってきた。このバスは前払い制で、有明山神社まで1200円也を払って乗車する。
有明荘バス停
ウツラウツラするうち、40分程でバスはアッケなく有明山神社へ着いた。厳しい登山を覚悟して臨んだ有明山であったが、終わってみれば白昼夢のような気分です。でも厳しい道を歩き通して、まだまだ充分やれるワイと少し自信を持てた山行でありました。
有明山神社駐車場に戻って来た。