野口五郎岳は北アルプスの裏銀座縦走コース上に聳える山で、広々として明るい山頂からは素晴らしい展望が広がります。標高3000mに迫る雄峰だが、ゆったりとして凡庸な山容が災いして、北アルプスの中では印象の薄い山です。
最初に野口五郎岳を登ったのは昭和55年の8月、職場仲間の I 君、A君を誘って裏銀座コースを縦走した時でした。この時は、まずまずの天気に恵まれて楽しい山行だったと思うのだが、何しろ遠い昔の事なので殆ど記憶に残っていません。二人と一緒に山を登ったのはこの時の一度だけ、彼等にとって登山はあまり魅力のあるものではなかったようです。職場を離れて以来音信不通だが、両君とも健在でいるのだろうか。
昭和55年8月11日野口五郎岳山頂
同上、山頂から水晶岳方面
2度目の野口五郎岳は、令和元年8月に妻と二人で浦銀座コースを縦走した時でした。この時の記録が当時のブログに掲載されていたので、下記に転載してみます。
令和元年8月19日(月) 天気=晴れのち雨
烏帽子小屋~野口五郎岳~水晶小屋
05:55烏帽子小屋→ 07:25三ツ岳→ 08:38~57野口五郎小屋→ 09:13~19野口五郎岳→ 09:53~10:02真砂分岐→ 12:13水晶小屋
芳しく無い天気予報だったが、青空が広がる気持ちの良い朝を迎えた。天気が良いとヤル気も出てくる。今日一日何とか持ってくれればと思いつつ烏帽子小屋を出発した。
烏帽子小屋から三ツ岳方面
歩き始めてすぐにヒョウタン池があり、その周りはテント場になっている。テント場を過ぎると平坦な砂礫の道を歩いて行く。高瀬ダムの堰堤が左手眼下に見え、大声を出せば聞こえそうな近さに思える。
ヒョウタン池
眼下に高瀬ダム
やがて三ツ岳に向かって緩やかに登って行く。道沿いにはコマクサの花も咲いており、気持ちの良い道が続く。道はだんだん急登に変り、三ツ岳前衛のピークに達し来た道を振り返ると、青い屋根の烏帽子小屋が見え、ゴミを燃やす白い煙が上がっていた。
三ツ岳への登り(左が三ツ岳、右奥が西峰)
前衛ピークから三ツ岳(2645m)の山頂脇をトラバースし、僅かな登りで三ツ岳西峰に着き一息入れる。ここから行く手を見ると、野口五郎岳へ緩やかな尾根が続いている。
三ツ岳西峰山頂(右奥の山は水晶岳)
山頂から東沢谷を挟んで赤牛岳
山頂から野口五郎岳方面
岩稜や砂礫が織り交ざる変化の多い道を1時間程進むと岩肌に「小屋まで500m」と書かれており、小さなピークを越えてしばらく歩くと野口五郎小屋の建物が見えた。
野口五郎小屋
野口五郎小屋は裏銀座縦走路のオアシスみたいな存在で、多くの登山者が憩っていた。私も500円のポカリスエットを買って喉を潤した。小屋から砂礫の道を15分程登って野口五郎岳(2925m)に着いた。
野口五郎岳への登り
野口五郎岳山頂
広々とした山頂からは360度の眺め、この山も日本三百名山の一つで標高も3千m近い高峰なのだが、登山者には縦走路の単なる通過点位にしか思われていないようだ。魅力に欠けるのは、茫洋として見栄えのしない山容からだろうか。
山頂から真砂岳方面
野口五郎岳を後にすると、真砂岳の西斜面を巻き気味に降って行く。野口五郎岳から30分余で真砂岳直下の真砂分岐に着く。此処から高瀬川へ降る道が左へ分岐している。
真砂分岐への降りから水晶岳方面
真砂分岐付近(正面の山は真砂岳、高瀬川へ降る道が山腹のを右に分岐している。)
分岐からは岩稜や岩屑の歩き難い道が続く。天気は降り坂で稜線を雲が覆うようになってきた。急坂を降った鞍部の東沢乗越に着き、一息入れてここから水晶小屋へ向かって岩尾根の急登になる。乗越から登り始めた途端、ポツポツと雨が降り始め、その後本降りの雨となった。
登山道から野口五郎岳(左奥)と真砂岳(右)
慌てて雨具を着込み俯いて黙々と岩尾根を登って行く。やがて水晶岳から鷲羽岳へ続く稜線に達し、尾根上に建つ水晶小屋へ着いた。時間はまだお昼過ぎだし、予定では三俣山荘まで行く事になっていたが、雨は風を伴い増々強くなってきている。もうこれ以上歩く気力は無くなり、水晶小屋へ泊る事に決めた。
東沢乗越から岩尾根の登り
雨の中の急登
小さな水晶小屋にはその後登山者が続々と詰めかけて、けっこうな混み合いとなった。でも手足を広げて寝られるスペースを確保できただけマシだった。小屋の人の話だと昨日はもっと酷くて、客室が足らずに食堂へ布団を並べて寝た人も居たそうだ。
水晶小屋
乾いた服に着替え休憩スペースで小屋の衛星テレビを見ていると、この辺りの天気予報は明日以降もズーッと傘マークが続いている。せっかく台風一過の好天を狙って来たのに、これじゃ思惑違いもいいところだ。
でも此処まで来たらもう戻る事はできず、新穂高温泉まで歩き通すしかない。それ程酷い天気にならぬ事を願いつつ、ビールを飲みながら午後の合間を過ごした。