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先週の土曜日(13日)に北見市の端野町公民館で「TPP大筋合意を斬る」と題して東京大学大学院教授鈴木宣弘氏による講演会があり、家人と参加してきました。農業者らによる「食と農を考える講演会」実行委主催で、約260人が参加したとのことです。
分厚い資料を手にした時には、1時間半の講演を寝ないで?聞きとおせるだろうかと思ったのでしたが、なんと、寝ないで聞けたのです。鈴木教授は資料を見ることなく、熱い思いと冷静な分析で多分、今現在知り得る最大の情報を伝えて下さったのでした。こんな風に講義ができたならばとのお手本の一つのようにも思えるものでした。
それは、ともかく、国内の自給率が39%といわれる今でも不安なのに、関税がより低かったり撤廃されて、他国からの輸入品に頼る生活を考えると心配でなりません。農産物は天候に左右されやすく、病虫害の影響もあり常に潤沢に賄えるものではありません。もしもの時に、必要な量を確保できなければ、どうすればよいのでしょう。▼農業(林業・漁業)の果たす役割は環境保護などを含めてたくさんあることを思えば、哀しく恐ろしくなりそうです。
手渡された資料から、私が読み取れたことの一部を自分なりにまとめてみました。(不足があることをあらかじめ鈴木教授様にお詫びを)
一つめ。「国家安全保障の要は食料」という認識を持っている国と持たない国。▼米国では食料は軍事やエネルギーと並ぶ国家存立の三本柱として位置づけている。▼例:ブッシュ前大統領の言葉。「食料自給はナショナル・セキュリティの問題だ。皆さんのおかげでそれが常に保たれている米国はなんとありがたいことか。それにひきかえ、食料自給できない国を想像できるか。それは国際的圧力と危険にされされている国だ。」と。▼これを裏付けるように米国はコメの生産コストがタイやベトナムより高いにかかわらず、低価格で輸出していて、目標価格との差額を多い時で一兆円の補助金(穀物3品目だけで)で補てんしているという。日本の輸出補助金は0円。
2つめ。下支えがあってこその農業。▼農業所得に占める補助金は日本15.6%、EU95%前後。欧米では国民の命、環境、国境を守っている産業を国民が支えるのは当たり前。米国、カナダ、EUではコメなどの穀物、乳製品の生産が増えて指示価格を下回ると、支持価格で無制限に買い入れて、国内外の援助物資や補助金をつけて輸出したりして、最終販路を政府が確保して、価格を支える仕組みがあるそうだ。▼何の支えもなしに日本の農業を競争にさらして強くするとか、輸出産業にするなど、違和感ありすぎです。
3つめ。農業(林業・水産業)の果たす多面的機能を評価する。▼伝統文化を含む地域コミュニティを守る・環境保護・動物福祉・生物多様性などの視点からとらえることがしっくりする考え方かと。▼例1:カナダの牛乳。バンクーバーのスーパーでは1リットル紙パック乳価約300円。消費者は安全・安心な国産乳・乳製品(米国の成長ホルモン入り牛乳は不安)を得ることで、高くても不満はない。「売り手よし・買い手よし・世間よし」の「三方よし」の価格形成。▼例2:スイスの卵。スイスでは、生産過程において、ナチュラルとか有機とか動物愛護とか生物多様性とか美しい景観に配慮できれば、できた物もホンモノで安全でおいしいと捉える。げんに輸入物の5倍もする一個80円の国産の卵が多く売れていたという。この卵を買っていた小学生くらいの女の子に聞いてみると、「これを買うことで生産者の皆さんの生活も支えられ、そのお蔭で私たちの生活も成り立つのだから当たり前」と答えたそう。
しょう
《鈴木宣弘東大大学院教授によるTPPについての講演の様子 2016年2月13日撮影》
《B4の用紙29ページに及ぶ資料。 鈴木教授曰く、「これだけでも一冊の本になります。」》
《北海道新聞2016年2月18日掲載》
《北海道新聞2016年2月20日掲載》